コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

パラレルイヤホン

その日は電車に乗っていました。確か高校へ行くためだったはずです。私は電車から降りると一目散に階段へと向かいました。階段を上ろうとしたその瞬間、急に体が前に進まなくなりました。イヤホンが階段の手すりに引っかかったのです。慌ててイヤホンを外そうとする自分。スムーズに階段を上っていたはずの自分はどんどん遠ざかっていきます。イヤホンを何とか手すりから外し、改札を出た時にはもう、数秒先を行った自分はいなくなっていました。

 

人は失敗をしたとき、相手の行動にも影響を与えてしまいます。改札で手間取った人はもう、あの時に改札で手間取っていない自分になることは一生できません。改札で手間取った人の後ろにいた女子高生も、すでに別の未来に書き換えられてしまったのです。たったコンマ数秒の遅れがその人の未来を全く違ったものに変えてしまったのです。私の人生もあのイヤホンの引っかかりが無ければ、あそこで転んでいなければ、電車にあの時乗り遅れていなければ、もっと良い現在を過ごしているかもしれないし、もっと悪い現在を過ごしているかもしれないのです。

 

あそこでサイコロの1を出さなければ