コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

無意味即興小説 「生殖する家具」

 ある朝、目が覚めると机が2つに増えていた。眼鏡をかけていないからだ、いよいよ近視に乱視も入るようになったかと思いつつ、眼鏡をかけたが1つに戻らない。おかしい。寝ている間に机が2つに増えるなんて現象は、おそらく世界中どこを探しても見つからないだろう。

 とりあえず、しばらく眺めてみる。2つとも全く同じ机だ。戻る気配は一向に見えない。自分にとっては大きな問題だが、他の人にとっては大した影響はない。会社に行く支度を済ませることにした。

 仕事をしている間、机が2つになった原因をあれこれ考えてみた。寝ている間に誰かがイタズラしたのだろうか。それとも無性生殖? いや、あり得ない。とりとめのない考えが次から出ては消え、結局結論は出なかった。同僚に話してみようとも思ったが、おそらく相手にされないだろう。仕事がほとんど手につかないまま帰路に就いた。

 帰ってきても、机は2つのままだった。服を着替えつつ眺めているうちに、私の中で好奇心がわいてきた。

 置こう。

 台所からコップを取り、水を注いで机の前まで持っていった。そういえば、新しく増えたほうの机には1回も触っていない。本当に机だろうか。もしかしたら触れたら崩れたり、バラバラになってしまったりしないだろうか。おそるおそるコップを置いてみる。机まであと15cm、10cm、5cm……。私は息を呑んだ。

 コツン、と音がした。

 増えたテーブルの上に、コップが乗っている。間違いない。こいつは紛れもなくテーブルだ。賭けに勝ったかのような感覚である。その日は気分良く過ごすことができた。

 翌日、朝起きてみる。すると机が3つに増えていた。私は急いでコップに水を注ぎ、増えたテーブルに置いてみた。コップはテーブルの上で堂々とたたずんでいるではないか。増えたテーブルをテーブルだと証明する、これは世界で誰もやったことのない知的な遊びだ。私はあふれる笑みを止めることができなかった。

 それから数日後、テーブルは増え続け、更に椅子までも増えた。おそらく、テーブルばかりに興味を示していたことに嫉妬したのだろう。

 私は椅子の上に尻を置いた。置けたかどうかは君たちで考えてほしい。