コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

読書感想文その4

 お元気ですか?

 

 10月に読んだ本の感想についてあれやこれやします。ちなみに10月は7冊、ページ数換算で1951ページほど読んだそうです。9月より1冊増えました。上向きになっています。

 

筒井康隆・選『実験小説名作選』 集英社文庫

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 この本は、『○○小説名作選』というシリーズの1つである。今回述べる『実験小説名作選』の他にも『幻想小説名作選』、『経済小説名作選』など様々な名作選がある。個人的には経済小説のイメージが掴めないので気になる所である。

 『実験小説名作選』では、筒井康隆が選んだ「実験小説」が17作品載っている。更に荒巻義雄との対談も載っていて、筒井康隆が選んだ小説の実験的な意味合いが解説されている。お互いに自分の作品の解説になると照れる所が微笑ましかったりする。

 『実験小説名作選』の乗っている小説は、文章の形態や小説形式そのもののへの実験(作者自身が実験という意図をもって書いたかどうかは分からないが)が見える作品と、実験的な作風で知られる作者の有名な作品で占められている。個人的には坂口安吾の『風博士』が好きだった。また、筒井康隆が参考にしたのだろうなという作品もある。例えば、筒井康隆の七瀬三部作は、伊藤整の『M百貨店』の影響を受けていそうだ。

 「実験小説」という単語に惹かれる人は読んでみるといいだろう。読んでみたい作家の作品が増えるに違いない。

 

宮西忠正『安部公房・荒野の人』 菁柿堂

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 『砂の女』『壁』などの作品で有名な安部公房の評伝である。 作品はよく知られていても、作者の人となりはなかなか見えるものではない。特に小説で自分をみせるのを良しとしなかった安部公房ならなおさらである。

 安部家のルーツから安部公房の誕生、そして死までを書いたこの本では、安部公房の作品のルーツになる部分が読み取れる。満州で生まれ育ち、敗戦後の日本に異国者として降り立った安部公房は、疎外感を感じていたという。異質な文学は数多くあれど、日本の中で異質な存在だと他人からも言われ、自分ですら認めざるを得なかった作家はそうそういないのではないか。また、題名にもなっている「荒野」は安部公房の核となるものだと思うし、この本でも核となっている。故郷としての荒野は最後、ざっくり言うと皮肉な結末を迎えるが、詳細はぜひ読んで確認してもらいたい。

 安部公房の作品が好き、人となりを知りたい方は読んでみるといいと思う。作品の読み方に別の側面が現れる事だろう。

 

今日はこれくらいにします。なぜなら夕食を食べて苦しいからです。