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コムギココメコ

忘れてもいいことを書くので不備忘録

エンターテイメントなら馬鹿でもできるもの

小説

 強盗は犯罪だ。犯罪はやってはいけないことだ。でも私には関係ない。彼がやろうと思っているだけだ。だから私には関係ない。
 彼は社会に適応しない。適応できないと言った方が正しいか。社会に適応しないから、職にも就けない。職に就けないという事は、お金が無い。お金が無いけど社会に適応できないから職に就けないという事は、強盗をするしかない。短絡的な発想。常識が少しでも身体の中に住み着いているのなら、強盗をするなんて考えられない。でも彼は強盗をすることしか考えられなかった。
 早速ホームセンターでマスクとサングラスを買った。顔を見られないために。そして彼はその足でコンビニへと向かう事にした。
 彼はコンビニに着く前からマスクとサングラスをしたほうがいいのか考えていた。顔を見られないためにはしたほうが良いけども、閑静な住宅街でマスクとサングラスをしている人物がうろうろしていると、怪しまれてしまうのではないか。
 今から強盗という大それた事を行おうとしている奴が、そんな小さなことで悩んでいて務まるのか。マスクとサングラスという出で立ちは、不審者の教科書の序盤あたりに載っていそうだが、そもそも彼はピンクのズボンを履いている。何をしようがしまいが目立っている。マイナスからのスタート! 素晴らしく馬鹿らしい。
 結局彼はマスクとサングラスをして、コンビニまで向かう事にした。
 コンビニに着くと、彼は目を疑った。行列なんて生まれるはずのない、住宅街のコンビニに、行列ができているのだ。戸惑う彼の近くで、店員が拡声器を使って呼びかけ始める。
「ただいま強盗は200分待ちとなっております! 行列を避けたい方、少々遅くなっても良い方はファストパスをご利用ください!」
 一般的に強盗はあまり人気ではない。待たずに行うことが出来る。しかし、そのコンビニは200分待たないと強盗ができないらしい。
 彼はファストパスの券売機を確認する。今から発券すると、ファストパスは深夜3時から使えるらしい。今は午後8時29分だ。200分待った方が早いと考えた彼はファストパスを使わないで、行列に並ぶことにした。
 彼は行列に並び始める。並んでいる人々はみな目立たない格好をしていた。本当に強盗をするために並んでいるのだなと、彼はしみじみ思った。
 行列は思ったよりも進んでくれない。強盗を満喫している人々が思ったより多かったのだ。彼は苛立ちを覚え始める。何か暇つぶし道具でも持って来ればよかったなと後悔したが、今更後の祭りだ。
 そもそも衝動的に強盗をしようという方が間違っている。衝動的な犯罪は大体の場合、すぐ明るみに出て、素性が暴かれ、捕まってしまう。迷惑な行為をせずに、そのまま警察署に行って、捕まえてもらったほうが早い。計画がたてられないなら、強盗には向いていない。そもそも、できる強盗は、行列に並んでいる時にできる暇つぶしの1つか2つくらい、考えておくものだ。
 行列の真ん中あたりに彼が来たとき、売り子がやってきた。
「ナイフはいかがですかー?」
 どうやら強盗時の脅しに使うナイフを売っているらしい。何も脅しに使えるものを持ってきていなかった彼は、ナイフを1つ購入した。
 馬鹿! 大馬鹿! どうやって強盗をするつもりだったのか問い質してやりたい。脅せるものが無かったら、店員だってお金を渡そうとしないだろう。今からでも止めた方がいいんじゃないかな。売り子がいるコンビニは珍しい。彼は運が良い。でも、売り子のナイフは市販のものより割高だ。やっぱり彼は馬鹿だ。
 行列がのろのろと進んでいき、彼もようやく先頭近くまでやって来た。出てくる強盗は皆、満足そうな表情を浮かべている。彼も、上機嫌な強盗たちを見て、笑みを浮かべた。
 緊張感が無い強盗って、あまり成功しないと思う。緊張感を帯びて、下手な真似をしたら殺してやると店員側が思ってしまうほどの殺気がないと、店員も金を出そうとは思わない気がする。笑みも狂気的な要素から出てきたものなら分からなくもないが、薄ら笑いを浮かべながらやってくる強盗なんてどこにもいないだろう。
 ようやく彼の番がやってきた。彼はワクワクしながらコンビニに入った。
 コンビニに入ると、彼は勢いよく叫んだ。
「強盗だ! 金を出せ!」
 店員や客は皆驚き、その場から動かなくなった。
「レジの金全部寄越せ!」
 店員は震える手でレジに入っている金を出す。
「もう1つのレジもだよ! チンタラするな!」
 慌てて店員はもう1つあるレジに向かい、金を出す。
 彼はもう少し店内で強盗らしい行動をしようと思ったが、後ろに沢山の人々が並んでいた事を思い出し、11万円を手にした後、足早に店を出た。
 コンビニを出ると、売り子がやってきた。彼が店員を脅している瞬間を撮影していて、記念写真として販売しているらしい。彼はせっかくコンビニ強盗をしたのだからと思い、500円を払って、写真を購入した。
 コンビニを出て少し先に、警察が待ち構えていた。彼はあっけなく捕まってしまった。強盗で得た11万円は没収され、警官と一緒にいた店員が回収した。
 良くできてるね。さすが社会って感じ。
 彼はパトカーに乗せられた。助手席の警官が彼のほうを向いて喋り出す。
「パトカーへようこそ!私が警官の高橋です。これからあなたを危険がいっぱいの警察署へと御案内いたします。何が起こるか分からない警察署。二度と戻ってこれないかもしれません。見送りの人たちにお別れの手を振りましょう。バイバ~イ!」
 彼が窓の外を見ると、道路脇で沢山の人々が彼に向かって手を振っていた。
 バイバイ!!