コムギココメコ

忘れてもいいことを書くので不備忘録

スローモーション→スローモーション

 白い目玉焼きを見た瞬間、雪が降っていることを思い出して、窓を見た。ツートンチョコレートの白い部分だけが浮いているような雪。もはやツートンとは言えない。ホワイトチョコレートで良かったのだろう。
 黄身は部屋中を跳ねまわっている。捕まえようと手をのばした瞬間、黄身はスローモーションになり、部屋中にツートンチョコレートもとい、ホワイトチョコレートのような雪が降りだした。部屋と外がシンクロしているかのようだったし、実際そうだと言い切ってしまっても何ら差し支えはなかった。
 黄身を捕まえるのを一旦やめて、ゆっくりと動く黄身が壁に叩きつけられたり、床で弾んだり、机に何の規則性ももたずに置かれた空き缶を倒したりしているの見ていた。ホワイトチョコレートはやがてシャボン玉に変わって、部屋全体に浮かび上がった。
 黄身は相変わらずゆっくりとした調子で動いている。シャボン玉を潰しながら、薙ぎ倒しながら、貫きながら。そのうちテレビのリモコンに黄身が当たって、赤外線をテレビに発しながら、リモコンはくるくるとテーブルを飛び降りていった。
 3回転半ひねりを披露しながらリモコンがカーペットに落ちると同時に、テレビは電源が入り、鮮やかな色と音が部屋を包み込んだ。
 女と仮面を8個被った反ストライプ柄の服が現れる。女は昔のSFドラマに出てきそうな奇抜な服だった。仮面を8個被った反ストライプ柄の服はどの検索結果にも出そうにないような出で立ちで、仮面を8個被っているし、ストライプに反するような服を着ていた。
 女は装置を紹介している。のこぎり、スプレー缶、水の入ったコップ、ティッシュ箱がレコード盤の上に乗っている。
 場面が変わり、ハンガーの形をしたビスケットがスプレー缶を発射した。白い煙が上にのぼっていく。煙が消える直前に、逆再生され、スプレーの中に煙が戻っていく。再び再生されて、スプレー缶から白い煙が発射された。
 右手が石膏でできた手になっている歯ブラシが、ミラーボールに照らされた部屋で、ビー玉をひたすら上に投げている。宙を舞ったビー玉は様々な色に照らされて、下へ落ちていく。
 女と仮面を8個被った反ストライプ柄の服が再び現れる。仮面は装置を指さして拍手をする。女は画面に向かって「行くよ!」と言いたげに指をさして、近くにあったボタンを押す。
 のこぎりは上下に動いて、スプレー缶からはシャボン玉が出て、水の入ったコップは揺れ、ティッシュ箱はティッシュを巻き上げ、レコード盤は動き出し、シャボン玉はのこぎりに切られ、水は宙を舞い、ティッシュはシャボン玉を包んで、レコードは誰だかわからない
曲を流し続ける。

「集まった朝は 見えない見えない 
 静まった水は 跳ねない跳ねない
 錆付いた雪は 消えない消えない
 嘘をついたふりばかり」

 ハンガーの形をしたビスケット。石灰を叩いて、黒髪の人形を白く染めていく。黒髪も黒い粉を出して、白と黒が混じっていく。仮面を8個被った反ストライプ柄の服が虫取り網で集めるが、灰色の粉は網をかいくぐって自由に動いている。
 逆さまになったミキサー。買い物かごに時計を入れて前へ後ろに動いている。ミキサーの中身は様々な文字だ。雪、息、窓、駅、雨、道、月、嘘、赤……。数えたらきりがない。
 時計の文字盤は全てモザイクがかかっていて、何が書いてあるのか読み取ることはできない。針は繋がっておらず、勝手に時計の中を泳いでいる。
 女と右手が石膏でできた手になっている歯ブラシ。水槽の中には漢字ドリルとスプレー缶とカレンダーとスピーカー。歯ブラシは万歳をして、女は画面に向かって指をさして、近くにあったレバーを引く。
 漢字ドリルの中にある漢字が水の中に放り出され、スプレー缶は水の中に泡を出して、カレンダーは1月から順に溶けていき、スピーカーはノイズを出し、画数の多い漢字は沈み、泡は浮かんでいき、7月が水に溶けこみ、スピーカーは曲らしきものを流しはじめる

「過ぎ去った泡は 散らない散らない
 逃げきった雲は 冷えない冷えない
 間違った花は 溶けない溶けない
 嘘を知ったふりばかり」

 ノイズがかかる。画面がちらついていく。ミラーボールが様々な黒を反射して光る。
 仮面を8個被った反ストライプ柄の服、右手が石膏でできた手になっている歯ブラシ、ハンガーの形をしたビスケット、逆さまになったミキサーが黙っている。ミラーボールが反射する黒が激しく辺りを飛び交う。黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒! 黙っている物体たちを蝕むようだ。黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒!!
 ミラーボールが割れる。黒が散って、色を取り戻す。女が現れ、4つの物体とともに踊り出す。上からは雪が降ってくる。ステップ、ステップ、左手をのばして、肩に触って、左足を前に出して、右足を前に出して、ステップ、左足、右足、ステップ、左足、右足、ステップ、両手を上げる。
 雪の降り続く中、1人と4体は踊り続ける。だんだんスローモーションになっていく。跳ねて、両手を上げて、回って、抱きついて、だんだんだんだんスローモーションになっていく。
 どんどん1人と4体は遠ざかっていき、ジェンガの上に乗っていることが分かる。女が横から現れて、目覚まし時計のスイッチを押す。
 ジェンガが崩れ落ち、上の踊っていた女たちが下に落ちていく。ゆっくりと時間をかけて落ちていく。それでも足を前に出して、指をさして、手を伸ばして、それぞれが様々なポーズをとって、地面に落ちる最後の最後まで踊り続けている。
 スイッチを押した女は奥にあった幕を思い切り下ろす。黄身が跳ねまわっている部屋の中が映る。女は上から何かを思い切り引っ張る。部屋模様の幕だった。
 ホワイトチョコレートのような雪が降る景色が映った。女は上から何かを思い切り引っ張る。景色模様の幕だった。