最近まで、ほとんどビジネスホテルを使った事がなかった。存在はよく見聞きするのだが、中に入った事がない。そのため、ビジネスホテルの形態をした建物があったとしても、本当に中がビジネスホテルなのか疑わしかった。
もしかしたらビジネスホテルの形をした食人植物なのかもしれない。ホテルの形をしてサラリーマンや旅行者をおびき寄せ、ベッドで寝ている間に食べてしまうのだ。ビジネスホテルを使った事のある友人は無事生還していたが、たまたま食人植物がお腹いっぱいで、食べられなかった可能性だってある。
私の中で都市伝説のような存在になりつつあったビジネスホテルに、先日2回ほど泊まる機会があった。1回目は仙台へ旅行に行った時だった。高校生の修学旅行以来のビジネスホテル。テンションが上がる。中に入ってみると、そこには部屋が広がっていた。ベッドとテレビとユニットバスとその他もろもろ。普通にビジネスホテルだ。もっとすごい高価な所に泊まれば感動もひとしおだったのだろうが、安く済ませたため、感動するまでは至らなかった。
その日はお酒を飲んでいたため、日付をまたぐ頃にいつのまにか寝てしまったようだった。
次の日、7時前に目が覚めた。生きていた。体も消化液で溶けていない。ビジネスホテルに化けた食人植物ではなかったのだ。一安心する。もしかしたら消化液で元の体は溶かされ、新しい体に今までの記憶が埋め込まれているかもしれなかったが、そこまで心配するとキリがないのでやめた。
別の機会にとまったビジネスホテルには空気清浄機がついていた。また、テレビの画面も大きめだった。これにはテンションが上がり、寝るまでずっと通販番組を見ていた。キャイーンの天野くん(くん付けしたくなる芸能人って何人かいませんか? 例を挙げると妻夫木聡とかさかなクンとか)がミキサーを持って、人の家で料理を作っていたところで記憶は途切れている。私はよく、買うわけでもないのに通販番組を見てしまう。
ビジネスホテルに泊まるとき、どうしてもコンビニで食べ物を買って持ちこんでしまう。財布のひもがどうしても緩んでしまうのだ。普段手を出さないような商品まで買って食べてしまう。空気清浄機付きのホテルに泊まった時は、コンビニのはしごをして、生ハムを買ってしまった。生ハムとカフェオレは合わなかった。1人だとほとんどお酒を飲まないのでカフェオレを買ってしまったが、かなりの失敗だった。
ビジネスホテルが食人植物でないことは分かったが、別の説が頭の中に浮かんだ。ビジネスホテルには魔力があって、宿泊者をコンビニなどで食べ物や飲み物をたくさん買わせるバーサーカーにしてしまうのだ。おそるべし力だ。
他にもバーサーカーポイントは存在する。渋谷のTSUTAYAだ。CDレンタル売り場に行くだけで動悸がする。そして5枚もしくは10枚借りてしまうのだ。
この間も渋谷に用事があったため、帰りがけに渋谷のTSUTAYAに行った。借りたいCDを思い出そうとするがなかなか思い出せない。お酒を飲んでいたからだ。バーサーカー状態でお酒を飲んでいたら、思考力や記憶力はかなり乏しくなる。なんとか思いついたアルバムを5枚借りて、家に帰る。
次の日、借りたアルバムと借りたいCDリストと照らし合わせる。ほとんど間違いは無かった。渋谷のTSUTAYAに無かったCDは買いたいCDリストに移動する。次はどのCDを買ったり借ったりしようか。ワクワクする瞬間である。
私はTSUTAYAで借りたCDをインポートしながら、CDのライナーノーツを流し読みする。欲しいCDは限りなく無限で、いつ終点に達するかわからない。各駅停車で先の見えない終点まで、のろのろと進んでいくのだ。