コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

原っぱのDJ

 マクドナルドに行く機会があった。マクドナルドに行くときは大体急いでいるときである。バスがもうすぐ着く、電車がもうすぐ着く、そういう時に食べるものだ。余裕のある時には食べない。

 私は生のトマトが嫌いだ。口の中が青々となるのが嫌だ。だからトマトが入っているハンバーガーは食べられない。また、ピクルスも嫌いだ。肉が食べたいのになんできゅうりだかズッキーニだかの酢漬けを食べなければならないのか訳が分からない。久しぶりにカービィのエアライドをしたいなと思って棚を探していたら、出てきたのがスーパーファミコンのソフトだったら、ガッカリしてしまう。私はいつもピクルスを抜いたハンバーガーを注文する。私のハンバーガー大図鑑の中にピクルスはのっていない。索引で「ハ行」を見ても「ピクルス」という文字はない。

 急いでバスに乗ると外では雨が降っていて、サイダーのように泡立っていた。サイダーの雨は最悪だ。ただでさえ雨の日は気分が上がらないというのに、雨の成分がサイダーだったら髪はべたべたになる。急いでシャワーを浴びようとするとそこからもサイダーが出てきて体はべたべたになる。どうやらサイダーの栓をひねっていたらしい。慌ててお湯と水の栓をひねる。安いアパートだから、ちゃんとお湯と水の栓を調整しないと適温にならないのだ。

 ゆっくり栓を調整する。DJをやっている人もこんな感じでつまみを調整しているのだろうか。つまみを少しずつ回してフロアをあたためるDJと、シャワーの栓を少しずつ回して風呂場をあたためる私が世界に存在している。

 DJのように今日と明日をうまくつなぎ合わせないと、明日になったときぎこちなくなってしまう。早く寝なければ、今日と明日が同時に流れ出して不協和音を奏でる。寝ている時間は音楽で言えばブレイクのようなもので、明日を盛り上げるために必要なものだ。人々は1日1日を上手くつなぎ合わせるために、毎日DJの練習をしているのだ。だから最近DJがどんどん増えている。歯医者の数よりもDJは多いのかもしれない。あぶれたDJたちがどんどん街に増え、路地裏でスラムを作って暮らすようになる。レコードや音楽データを売人に売ってドラッグを買ったり、炊き出しの行列に大きなヘッドフォンをかけて並ぶ。子供たちは裸足で広場に集まって、自分たちで歌う。スムーズに他の曲につながるように歌う。DJドリームを掴むために必死に歌う。その上を、新しくできる高層ビルの胎児が眠っているのだ。