コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

Nicolas Jaar『Sirens』(2018年に購入/レンタルしたアルバム)

Nicolas Jaar『Sirens』

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 2016年リリース。

 RA(Resident Advisor)という、エレクトロニックミュージックを取り扱う音楽メディア兼ウェブサイトが存在する。その中にアルバムのレビューがあり、丁寧なことにSoundcloudやBandcampのリンクが載っているものもある。それを視聴しながら、購入したいアルバムリストにアーティスト名とアルバム名を載せるという作業を日々繰り返している。アルバムのレビューの日本語訳が2016年でストップしていて、英語版を見るのだが、何が書いてあるのかよく分からない。こういう時に英語をしっかりやっておけばよかったと思う。何事も自分の経験という範囲に引っ張ってこないと、モチベーションは上がらないものだ。

 その中に今回紹介するアルバムもレビューされていた。曲が聴けるリンクなどは掲載されていなかったが、ジャケットに一目惚れして購入した。作者の父親がアーティストで、作品の1つである『A Logo for America』を引用しているとのことだった。しかし、作品はコインで傷つけられている。雨のように見えるが、雨よりも存在感が強い。

 

 結論から言うと、このアルバムは私が2018年に購入/レンタルしたアルバムの中でTOP3に入ってくるほど良かった。

 1曲目の『Killing Time』が出色で、11分という長めの曲だが、緊張感、終末感が持続する。ゴゴゴゴという小さい音で始まり、1分ほど経つとウインドチャイムとガラスが砕ける音、それを踏みつける音、そしてピアノが何度も繰り返される。それが終わると、ピアノの音だけが静かに残る。中盤でピアノの音に霊のように輪郭がはっきりしないボーカルが乗ると、まるで崩壊した都市を歩いているような気分になる。

 実際に、私の住んでいる土地で大雪が降ったとき夜に、この曲を聴きながら歩いたのだが、本当に曲と状況がマッチしていて、感動してしまった。

 日本版では2曲目にボーナストラックが入り、3曲目の『The Governer』に移行する。1曲目とは打って変わって、途中で激しいドラムの音が入り、その後からサックスとピアノが混ざる。ビートの無い『Leaves』を挟み、静と動を繰り返す『No』が始まる。歌というよりはスポークンワードに近い。ノイズやギターがコラージュのように挿入される。

 ドドタタというドラムが印象的な『Three Sides Of Nazareth』が終わると、最後の曲『History Lesson』が始まる。静かでゆったりとした曲だが、歌詞はかなり辛辣かつ悲観的なことを言っている。途中の一部分を引用して翻訳すると、『チャプター1:台無し、チャプター2:またしても台無し、またしても、またしても』である。

 曲の話からは逸れるが、ボーナストラックを2曲目にして、この曲が最後であることを保持できたため、時々洋楽の日本盤である、ボーナストラックがアルバムの雰囲気と合ってないため、余韻が薄れるといった事態は避けられている。

 

 視聴できるところを見つけられなかったため、購入するのはためらわれるかもしれないが、悲観的かつ終末的なこのアルバムを、夜に聴くことで、あなたも心を動かされるかもしれない。