コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

短歌の感想

【印象に残った短歌】どこまでが夢で、あそこまでの梅、ここから桜。さくらがきれい。/山中千瀬

どこまでが夢で、あそこまでの梅、ここから桜。さくらがきれい。 /山中千瀬『さかなのぼうけん パート2』(『率 8号』、2015.5.4) 夢と現実、そしてその狭間を想像させてくれる歌だと思う。 まず<どこまでが夢で、>で夢の存在と、現実の存在、そしてそれ…

【短歌の感想】真夜中をおんぶしあって進むのは誰と誰 からだは話の港/瀬口真司

真夜中をおんぶしあって進むのは誰と誰 からだは話の港 /瀬口真司『命中』(ネットプリント『ウゾームゾーム vol.9 おまけ 第63回短歌研究新人賞応募作』) <真夜中をおんぶしあって>という部分は、複数人が同じ夜を共有しているということだと個人的には…

【短歌の感想】3分半くらいの動画を送信し この世の時を増やすってこと/左沢森

3分半くらいの動画を送信し この世の時を増やすってこと /左沢森『VとR』(『ねむらない樹 vol.4』、書肆侃侃房、2020.2.1) この短歌の一番良いと思うところは、「3分半」という時間のチョイスだ。 世の中には多種多様な再生時間の動画が存在するが、動画…

【短歌の感想】Tシャツのローテーションがわかるほど会っている ねこ 赤 ストライプ /橋爪志保

Tシャツのローテーションがわかるほど会っている ねこ 赤 ストライプ/橋爪志保『とおざかる星』(『ねむらない樹 vol.4』、書肆侃侃房、2020.2.1) 私たちは服を毎日着ていて、バリエーションとしては大体の人が数種類にとどまる。その数種類の服をローテー…

【一首評】折りたたみ持ってきなっていう声が電車に乗ってから届く耳 /乾遥香

折りたたみ持ってきなっていう声が電車に乗ってから届く耳 /乾遥香『ありとあらゆる』(『ねむらない樹 vol.4』、書肆侃侃房、2020.2.1) 雨が降りそうな空模様もしくは天気予報などで雨の予報が出ている中、この歌の主体は出かけようとしている。 母親・父…

【一首評】友だちの話を別の友だちにするとき呼び名をかえるゆかしさ/榊原紘

友だちの話を別の友だちにするとき呼び名をかえるゆかしさ /榊原紘『悪友』(『ねむらない樹 vol.4』、書肆侃侃房、2020.2.1) 話のはずみで<友だちの話>を<別の友だち>にする場面は、時々見受けられる。その際に<友だち>の<呼び名>を短歌内の主体…

【一首評】いい路地と思って写真撮ったあとで人ん家だよなと思って消した/鈴木ちはね

いい路地と思って写真撮ったあとで人ん家だよなと思って消した /鈴木ちはね『スイミング・スクール』(『ねむらない樹 vol.4』、書肆侃侃房、2020.2.1) 街中を歩いていると、<いい路地>と思えるような場所に遭遇することは時々あるように思える。いい路…

【一首評】遠距離の恋愛すべてつまらない 心のなかにワニ飼えよ ええよ/青松輝

遠距離の恋愛すべてつまらない 心のなかにワニ飼えよ ええよ/青松輝『VS松永・VS世界』(Q短歌会『Q短歌会 機関紙創刊号』、2018.11.23) <遠距離の恋愛すべてつまらない>という強い断定から、短歌は始まっていく。 <すべて>という言葉が出てくると、本…

【一首評】スープバーをお付けしないでご注文されている方もおいで 水だよ/新上達也

スープバーをお付けしないでご注文されている方もおいで 水だよ /新上達也『放水路』(『穀物』第6号、2019.11.24) スープバーのあるところなので、おそらくファミレスなどの飲食店なのだろう。 <お付け><ご注文>などの言葉が上句で出てくるため、ファ…

【一首評】いくつになっても円周率を覚えてる いくつになっても きみがいなくても/阿波野巧也

いくつになっても円周率を覚えてる いくつになっても きみがいなくても /阿波野巧也『レモン』(『羽根と根』9号 2019.11.24) 上記の短歌で提示される<円周率>について考えた時、3.14という一般的な桁数で覚えているのか、それともある程度の桁数まで覚…

【一首評】それではみなさま犯罪三唱 ハンザーイ!ハンザーイ!ハンザーイ!/おいしいピーマン

それではみなさま犯罪三唱 ハンザーイ!ハンザーイ!ハンザーイ! /おいしいピーマン(半夏生の会『半夏生の本』2019.11.24) 短歌として提示されていると、基本的には57577のリズムで読もうとする。「それではみ/なさまはんざい/さんしょうハ/ンザーイ…

【感想文】『稀風社の水辺』

2019年11月24日(第29回文学フリマ東京)に刊行された、稀風社による短歌の同人誌。連作4つと散文2つが載っている。 同人誌の中から、各人の連作について、感想を書いていきたい。 三上春海『献本御礼/論(二〇一六)』 詞書が多用されていて、さらには詞書が…

【好きな短歌⑧】だいなしの雨の花見のだいなしな景色のいまも愛なのかなあ/阿波野巧也

だいなしの雨の花見のだいなしな景色のいまも愛なのかなあ 阿波野巧也『たくさんのココアと加加速度』(『羽根と根』4号) 私事ではあるが、今年はお花見に行った。前日の夜に雨が降ってしまい、中止になるのではないかと思ったが、当日は天気が回復し、地面…

【好きな短歌⑦】白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない/山階基

白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない /山階基『コーポみさき』(角川『短歌』2018年11月号収載) 髪を切りに行くというのは、大体1~2か月程度のスパンで行われる生活のイベントで、前回と今回の間にあった話を、美容師とすることもある…

【好きな短歌⑥】全員で死に方さがした日の えっ?えっ、えっ?打ち上げが、あったんですか?/直泰

全員で死に方さがした日の えっ?えっ、えっ?打ち上げが、あったんですか? 直泰『刑務所のみんなで歌ったふたつのJ-POP』(稀風社『墓には言葉はなにひとつ刻まれていなかった』収録) 好き/嫌いや、愛という大きな概念を持つ単語は、自分の感情をストレー…

【好きな短歌⑤】公園のふたりは黙る しゃべるより芝生のほうがおもしろいから/斉藤斎藤

公園のふたりは黙る しゃべるより芝生のほうがおもしろいから 斉藤斎藤『比例区は心の花』(斉藤斎藤『人の道、死ぬと町』収録) 誰かといる時に話が盛り上がるという状況は、相手と話している状態が心地よいと言える。2人の関係は友人なのかもしれないし、恋…

【好きな短歌④】ボウリングだっつってんのになぜサンダル 靴下はある あるの じゃいいや/宇都宮敦

ボウリングだっつってんのになぜサンダル 靴下はある あるの じゃいいや 宇都宮敦『ギブン・ソングス』(ねむらない樹 vol.1,2018) 人によって、好きな短歌、心を動かされる短歌の基準になるものが多少なりともあると思う。数十年にわたり一貫している人もい…

【好きな短歌③】上海に行ってくるよと、津田沼に行ってきたよと報告し合う/五島諭

上海に行ってくるよと、津田沼に行ってきたよと報告し合う/五島諭 (五島諭『緑の祠』,2013年) どこかに行く/行ったという報告を誰かにするときは、大体はあまり行ったことの無い場所に行く/行った時である。 この歌でも、人物Aは上海に行ってくることを報…

【好きな短歌②】「下剤飲んだからかな・・・」って話してる人がいたんだけれど そうだろ/伊舎堂仁

「下剤飲んだからかな・・・」って話してる人がいたんだけれど そうだろ/伊舎堂仁 (伊舎堂仁「100万」、2018年) 電車に乗っている時や、外食をしている時、ふと他人の会話を受信してしまう時がある。だいたいの場合、それらの会話は進行中のものであるた…

【私の好きな短歌その1】3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって(中澤系)

好きなものを紹介するのは難しい。語彙力が減ってしまうからだ。Twitterを眺めていると、好きなものを紹介している人は語彙力がその時だけ消えてしまう傾向があるように見える。 私も好きなものを紹介するとき、上手く伝わってないんだろうなと思う時が多い…