コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

読書感想文その8

 11月分がまだ終わっていない。早く書いて12月分に進んでいこう。ではどうぞ。

安部公房『壁』

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 安部公房出世作とも呼べる『壁―S・カルマ氏の犯罪』や『バベルの塔の狸』、『赤い繭』から成り立つ小説である。
 正直言ってあらすじを書いても要領を得ない作品だが、一応書いておく。
「S・カルマ氏の犯罪」は、名刺に自分の名前を奪われた「S・カルマ」という男が、胸の中に絵入雑誌の砂丘を吸い込み、動物園でラクダを吸い込みかけたところを、窃盗の罪で捕まり、裁判にかけられて……と、やはり要領を得ない。残念である。
 名刺に名前を奪われるという事は、現実世界ではおそらく起こらない事である。しかし、ひょんなことから現実は歪んで、今まで見ていたものと全く違うものになる可能性は誰も否定できないのだ。強固な素材で現実が構成されているといる思い込みをして、生きているだけである。
 現実という村で暮らしているうちは、誰もが各々の行為に夢中で何も気が付かない。しかし、S・カルマ氏のように、いきなり村から追い出されてしまえば、誰もが追い出された男をよそ者として、不審と奇異の目で見る。男も、村のしきたりや存在物を自らと関連付けることができなくなる。こうして、現実から疎外された人々は、本物の孤独を抱えるのだ。思春期特有の安売りされた孤独とは全く別のものである。
バベルの塔の狸』や『赤い繭』も、実際には起こりうることはないと思われる状況が舞台となる。『バベルの塔の狸』に出てくる、「とらぬ狸」に影を奪われる主人公もやはり、現実から疎外された男で、孤独をかかえることになる。対して『赤い繭』に出てくる作品群は、どちらかというと不条理さに重きを置いた寓話やSFのようなイメージを覚えた。
 砂の女しかり、この作品しかり、安部公房の作品には砂漠や荒野といったイメージが出てくることがしばしばある。幼少期の満州での風景が、作品に多大な影響を与えているのだろう。
 

小泉武夫『酒の話』

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 酒に関しては、飲み会の席以外ではほとんど飲まない。酒が大好きというわけでもないし、大酒のみというわけでもない。しかし、知識として酒を知っておくのは面白そうだと思い、図書館で借りることにした。
 この本では、ビール、ワイン、ウイスキー、日本酒など、様々なお酒の由来や製造法、飲み方などが書かれている。他にも、古今東西様々な酒について記述してあり、知識を飲んでいる感じがする。美味しい知識である。
 酒自身に関しても由来を語っていたりする。動物が果物の発酵したお酒を飲んだだの、酒合戦で誰々がどれくらい飲んだだの、普通に豆知識として面白い話が多い。色々な酒を試してみようかなと思う本である。
 ちなみに、この本は少し古いので、まだドイツが分裂したりしている。最近の酒事情に関しては書かれていない。酒に関する最新の知識を知りたいのなら、別の本を読んだ方が良いだろう。

 

 11月分はこれで終わり。12月は3冊しか読めてないので、感想を書くのは楽だが、読書の時間を確保できなかったことの裏返しでもあるので、何とも複雑な気分である。