Twitterのハッシュタグに「私を構成する9枚」というものがある。CDのジャケット9枚で、自分がどういう音楽遍歴を歩んできたかを表わすのである。私も考えてみて、Twitterにあげてみた。
構成する9枚のやつです pic.twitter.com/70nt6nhf3x
— 米粉 (@komekokakari) 2016, 1月 28
考えていくうちに、詳しく書いてみようと思い至った。言わば自分史のようなものだ。史と付くと途端に威厳が出てきますね。威厳を出したい方は何でもかんでも「史」と付けてみると良いと思います。
ブログに書くかと考えていたら、色々な人に先を越されてしまった。更にもう盛り上がりの熱が下がり気味になっているように感じられる。鉄はもう冷めきっているが、とりあえず打ってみることにする。
ただ好きなアルバム9枚ではなく、構成しているアルバム9枚だから、今はあまり聴かなくなったものもある。しかし、そのアルバムがなければおそらく今のように色々音楽を聴き漁ることもなかったのかもしれない。
私を構成する9枚は以下のようなラインナップである。
レミオロメン『ether』
椎名林檎『勝訴ストリップ』
capsule『MORE! MORE! MORE!』
倉橋ヨエコ『東京ピアノ』
Radiohead『KID A』
Cornelius『Fantasma』
SPANK HAPPY『Computer House of Mode』
キリンジ『For Beautiful Human Life』
セラニポージ『manamoon』
※アーティスト名はアルバム発売当時のものである。capsuleは今は全部大文字になり、キリンジはローマ字表記になった。月日である。
ここからは9枚のアルバムについてどのように私を構成しているかとアルバムの良さについて書いていく事にする。
①レミオロメン『ether』
CDを買ったり借りたりする概念が定着する前は、親がもっていた松任谷由実のベストや、テレビから流れてくる音楽が、基本的に私の中の音楽だった。しかし、CDのレンタルというものを知り、シングルやアルバムを借りるようになる。レミオロメンの『ether』は、初めて借りたアルバムではなかったが、初めて「アルバムとして何曲も通しで聴く」という事を知ったアルバムである。それ以前は、曲単体で聴くことしか考えていなかった。
旅行をしているときに聴くとかなり良い。ipodを購入する前は、PSPに曲を入れて聴いていた。PSPで音楽を聴くという行為、かなり不便さが付きまとう。まず、ポケットに入れるとギュウギュウになる。あまり容量も入らない。ポケットをナイフで刺されてもおそらく無傷で助かるだろう。しかし、ipodを持っていない時代はPSPを使うしかなかった。
家族旅行で東北に言った時、山道を車で揺られながらこのアルバムを聴いていた。すごい合うなと感じたものだ。
曲としては、『春夏秋冬』『春景色』『ドックイヤー』『コスモス』が好きだ。季節感と多少の気怠さがアルバムの中に漂っていて、聴いていて気持ちが良い。
②椎名林檎『勝訴ストリップ』
CDを借り始めてからしばらくは、TVなどで流れた曲の入ったシングルやアルバムを借りて、そのアーティストの他のアルバムを借りるという流れだった。しかし、その流れを変える出来事があった。Youtubeの存在である。まだ公式チャンネルが少なく、PVも誰がアップしたのか分からない。違法アップロードだが、当時は曲を知るための重要な経路だった。最近は公式チャンネルでのアップロードが増えたため、嬉しい限りである。
どういう経路で知ったのかはわからないが、椎名林檎の『本能』をYoutubeで聴いた。当時の私にとって、ガラスをぶち破り、ナース服で歌う椎名林檎はかなり衝撃的だった。すぐさまCDを借りにいったものだ。
適度な痛さをまとった曲は、私にはかなりハマった。すごい世界観だなとも当時思った。現在の椎名林檎はすっかり丸くなったが、『勝訴ストリップ』は、若いからこそ出せる世界観だと思う。とにかく突き抜けている。
曲としては、『浴室』『闇に降る雨』『病床パブリック』『本能』が好きだ。このアルバムがきっかけで、女性アーティストに目を向けることになった。
③capsule『MORE! MORE! MORE!』
曲と言えばバンドが全てであった頃の私を、あるCMがぶっ壊すことになる。携帯のCMでcapsuleの『Hallo』という曲が使われていた。たまたまCMを見ていた私は、「なんだ今の音楽!?」と衝撃を受けたものである。衝撃を受けすぎである。
『Hallo』は、『PLAYER』というアルバムに入っているが、CDを借りに言った時に見当たらなかった。代わりに『MORE! MORE! MORE!』を借りて、聴いてみると、「バンドっぽい音楽」しか知らなかった私はカルチャーショックを受けたものである。多感である。
その後私は、Yellow Magic Orchestra(YMO)にハマり、テクノが好きになるのだが、そのターニングポイントになったのは、やはりこのアルバムだと思う。
曲としては『runway』『the Time is Now』『e.d.i.t』が好きだ。カッコいい。
capsuleは『LDK Lounge Designers Killer』まで渋谷系チックな曲が中心だった。渋谷系っぽい曲を好きになる傾向を作ったのも、初期のcapsuleのアルバムが影響しているのだろう。
④倉橋ヨエコ『東京ピアノ』
私を構成している9枚のアルバムの中で、少し事情が違うのがこのアルバムである。
倉橋ヨエコとの出会いはインターネットで聴いた『夜な夜な夜な』だった。ちょうど初めて聴いた時、精神がウーだったので、かなり影響を受けることになった。生きていく中でのネガティブさが刺さる。倉橋ヨエコに関してはブログで言及しているのでそちらも良ければ見てほしい。
『東京ピアノ』に関しては、倉橋ヨエコのアルバムの中で入手するのにかなり時間がかかった。廃盤になっているため、手に入りにくいし、Amazonでも値段が高騰している。そのため、3年以上このアルバムを手に入れるために、様々な中古CDショップを巡ることになる。言わば、3年間『東京ピアノ』を手に入れることが東京に行くときの行動の構成要素の1つになったのだ。
最終的に『東京ピアノ』は見つけることができ、比較的安く手に入った。そのときの喜びようはかなりのもので、ドトールで祝勝会と称してココアをがぶ飲みして腹を下している。
『東京ピアノ』は、未だ廃盤であるため手に入れるのが少し難しいが、倉橋ヨエコのアルバムの中で一番聴きやすいと個人的には思っている。『白い旗』『ロボット』『赤い靴』がお気に入りの曲だ。
初めてCDショップを何軒も回り、必死になって探したこのアルバムは、私を構成しているとともに、思い出深いものになっている。
⑤Radiohead『KID A』
洋楽を聴くようになったのはいつだったかはよく覚えていない。父親が持っていたビートルズのベストアルバムを借りたのがおそらく初めての洋楽との出会いだったと思う。その後、YMOが影響を受けたらしいと聞き、クラフトワークを聴いていた。しかし、なかなか洋楽を聴いてみようと思わなかった。
そんな中、色々洋楽を聴いてみようと思うきっかけになったのがRadioheadだった。『Paranoid Android』を聴いたとき、衝撃はものすごいものだった。衝撃はこれで何回目だろうか。しかし、アルバム単位で衝撃度が高かったのは、『KID A』だった。「洋楽ってすげえ!」と心から思ったものである。以後、邦楽洋楽問わず色々な曲を聴くようになったのはこのアルバムのおかげだし、しばらく経った後、エレクトロニカとポストロックと呼ばれるジャンルの曲を聴くようになったのもこのアルバムがきっかけである。
曲としては、『Everything In Its Right Place』『The National Anthem』『In Limbo』『Idioteque』が好きである。
曲を好きになる際の1つの要素として、個人的に面白い効果音が使われているかどうかというのがある。意外な音が入っていると、聴いてて楽しくなるからだ。この基準が私の中で作られたのが、Corneliusの『Fantasma』というアルバムである。『Mic Check』という曲名を知った時、まずタイトルに惹かれた。その後聴いてみると色々な効果音がサンプリングされ、様々な曲がどんどん流れ、最後まで聴いていて楽しい。ああ、こういうのをおもちゃ箱をひっくり返した音楽っていうのかと個人的に思ったものだ。本当に楽しい音が次から次へと流れてくる。
色々なアルバムが『おもちゃ箱をひっくり返したような音楽』と言われているが、個人的にはCorneliusの『Fantasma』とCONCERTの『Concours』だけにそのような感想をもった。前者はカラフルなおもちゃ、後者はあたたかみのある木のおもちゃというイメージである。
曲としては、『New Music Machine』『Count Five Or Six』『Chapter 8~Seashore And Horizon~』が好きである。
⑦SPANK HAPPY『Computer House of Mode』
ピコピコとした曲(テクノポップで良いのだろうか?)は、好きになりやすい傾向がある。一時期アーバンギャルドというバンドが好きだった時期に、メンバーの誰だかはよく覚えていないが、インタビューで影響を受けたアーティストにSPANK HAPPYを挙げていて、気になったので聴いてみると、一発で好きになってしまった。曲に漂う不健康で、胡散臭い雰囲気に惹かれたのだった。その後、不健康さを帯びたものが好きになる傾向が出てきたので、好みを若干変えられるきっかけにもなっている。
このアルバムをきっかけに、不健康な世界観を私自身でも表現してみたいと思うようになった。趣味で小説を書いたりしているが、いつか不健康な雰囲気を漂わせたような文章を書いてみたいと思っている。このアルバムは、「世界観」という点で私を構成している要素になっている。
曲としては、『ジャンニ・ヴェルサーチ暗殺』『Eine Symphonie Des Grauens』『たのしい知識』が好きである。
⑧キリンジ『For Beautiful Human Life』
最初にキリンジの曲を聴いたとき、「ゆったりしすぎて退屈だなあ」と思い、聴くのをやめてしまった。数年後、『グッデイ・グッバイ』を聴いてみると「良い曲じゃん」と思い、キリンジにハマっていく事になる。そんなにハマらないなと思った曲を数年後に聴くと好きになっているという現象はしばしば起こる。感性は日々変わっていく事が分かる。
『For Beautiful Human Life』というタイトルとは裏腹に、不穏な歌詞やタイトルが並ぶ。特に『ハピネス』は、皮肉を大さじ何杯も入れたような歌詞と、到底幸せとは思えない曲調である。
そして、『愛のCoda』という曲の存在。今まで聴いた曲の中で1番好きな曲である。曲と歌詞の両方で隙が無い。「赤に浸す 青が散る 夜が沈む 星がこぼれた」「帰りのチケットを破る意気地も 愛に生きる勇気もない」「無様な塗り絵のような街でさえ 花びらに染まるというのに」という歌詞は最高である。歌詞を認識したときの感動は相当なものだった。『ハピネス』も、最後の歌詞で鳥肌が立つ。
また、このアルバムを含んだキリンジの曲を聴くことで、好きな音楽の範囲が広がったような気がする。それまではテクノ、エレクトロニカなど電子音楽ばかり聴いていたが、こういうタイプの曲も良いなと思うようになった。
曲としては、『僕の心のありったけ』『愛のCoda』『ハピネス』が好きである。
⑨セラニポージ『manamoon』
セラニポージもキリンジと同じパターンで、最初聴いたときにしっくりこなかったが、しばらく経ってから再び聴いてみると滅茶苦茶ハマるタイプの曲だった。
このアルバムの世界観に私はかなり影響を受けている。特に『もじもじ』という曲を聴いたときの雰囲気は今も私の心をつかんで離してくれない。「喉ぼとけ鳴らす音程」という表現、いつかはしてみたいものである。
このアルバムは色々な人々が存在する。それらは現実的なものもあれば、非現実的なものもある。同じ人を好きになった(?)兄弟。いくつも自分もスペアをもつ女の子。サーカスにいる世界一体が柔らかい女の子、有名人を彼女に持つ男の子etc……。特に少女像を思い浮かべるときは、このアルバムに引っ張られる。理想の少女少年像というのは意識しているかどうかは別として、皆がもっているはずだ。私の少女像はこのアルバムと深くかかわっている。構成要素の1つである。
曲として、『Spiral Da-Hi!』『もじもじ』『128号の謎』が好きである。
書いてみると、私を構成する9枚は、そのジャンルを聴くきっかけになったアルバム、自身の世界観を揺るがして、再構築させるようなアルバムの2パターンに分かれた。
ルーツを探ることは、自分の事を整理する働きがあるように思われる。私自身、どのようなものを好きになる傾向があるのかを再確認することが出来た。9枚のうち、どれか1つでも知らない状態であれば、今とは違う自分が形成されるはずである。
9枚を決めるために、itunesのアルバムを片っ端から見ていったのだが、割とアルバムがあるなあと思った。飽き性なので、色々買ったり借りたりしないとダメになってしまうのは、良いことでもあるし、悪いことでもある。
皆さんも自分のルーツを辿ってみてはどうだろうか。
好きなものを好きだと言えるのは良いことだと思う。思うよ。