コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

2814『新しい日の誕生』

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 2015年リリース。t e l e p a t h テレパシー能力者とHKEからなるユニット、2814の2ndアルバム。

 Vaporwaveのカテゴリーで語られることが多いこのアルバムだが、スクリュー、ループされたノスタルジアを漂わせる、真っすぐなVaporwaveからはかけ離れている。数十年前の歌謡曲やCMといった素材は使われず、駅のアナウンスや雨など、都市の日常をサンプリングしている。また、Bandcampにあるこのアルバムのページには、Vaporwaveというタグは付けられていない。その代わり、『cyberpunk』『dreampunk』『future ambient』といったタグが付けられている。サイバーパンクとう単語は、ジャケットの意味を脱臼させられた日本語からも垣間見ることができる。

 タグが表すように、このアルバムは未来の都市の空気を音にしているのだ。未来と言っても、人類の進歩と調和をまとった輝かしい空気は一切感じられない、どこか湿り気を含んでいて、夕方から深夜を延々とループするような未来である。

 この空気を作り出しているのが、徹底的に輪郭を滲ませたリズムと、空を覆うような持続音である。

 物悲しげなピアノと空気のようにどこまでも広がる持続音の後に、パトカーのサイレンが遠くで鳴り響く『恢复』、アナウンスが所々で聴こえる、電車で半分眠っているようなアンビエント曲、『遠くの愛好家』の2曲を聴けば、脳は架空の都市へと向かっていく。その後も、雨降りの都市のアンビエントが耳を覆いつくす。このアルバムの描く未来は、ずっと雨と夜が続いているらしい。

 このアルバムは、作業をする手を止めてしっかり聴くというよりは、寝る直前にかけていたら、いつの間にか眠っていた、という聴き方のほうが個人的にしっくりくる。寝る寸前の、意識と思考の輪郭が滲む時に耳に入ってくるこの音楽は、あなたを遠くへと連れて行ってくれるだろう。

 おすすめ曲は、『恢复』と『遠くの愛好家』。

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