コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

HASAMI group『MOOD』

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 2018年リリース。リーダーである青木龍一郎氏を中心に活動するバンド、HASAMI groupの19thアルバム。19thアルバムってすごい。

 

 HASAMI groupの特徴は、美しいメロディの曲と鬱屈とした世界が全開の曲が混ぜこぜになった、ロック、ポップ、ヒップホップなどを飲み込んだ一言でコレと言えない世界感だと思う。アルバム事に美しさと鬱屈の割合が変わっていくのだが、このアルバムはかなりバランスが取れていて、初めて聴く人にもうってつけのアルバムだと思う。人にもお勧めしやすい(『Heart Wire Tapping』というアルバムがあるのだが、1曲目のイントロダクションで女性器の名前を言ったり、2曲目が『PENIS THUNDER』など、何も知らない人にお勧めしにくい感じはある )。

 このアルバムで提示されるムードは、曲ごとに時にゆるやか、時に激しく変化していく。1曲目の『PIANO』、2曲目の『君の街は』で提示される生活は穏やかながらもどこか晴れないところもあって、曲調も穏やかながらも明るくなりすぎない、なりきれない部分を孕んでいる。

『Internet Lovers』から『特盛!万引きイスカンダル』でその雰囲気が暗い方向へ傾いていく。歌詞もリリックめいてきて、何かに対する鋭さを増す。

 7曲目の『夢の泡立ち』は前半のハイライトだろう。手洗いの歌でここまで心を動かされる曲調になるのか。サビで繰り返される<手>とピアノ、後ろで鳴らされるノイジーなギターが私たちの胸を高鳴らせてくれる。

 アルバムのインタールードと、ムードの変化の役割を兼ねている表題曲『MOOD』『白舟』を経て、鬱屈とした世界観の『カズマの面白FLASH倉庫』『ショック情報』『リストカット・ディズニー』が立て続けに流れていく。そういえばおもしろフラッシュ倉庫について、フラッシュの作り手側ではなく見ていた側から言及する曲って無かったような気がする。この3曲はピアノのリフレインが耳から離れないし、リリックも意味から逸脱しながらも意味不明ではなく、さらっと韻を踏んでいくところがクールだ。

 MCバトルで社会が理不尽な強さで、作詞者<青木龍一郎>を殴っていく『HIKIKOMORI MC BATTLE vol.3』、シンプルな展開の曲に生々しい薄気味悪さ全開の歌詞がのった『Cameraman』と、HASAMI groupの鬱屈した面がこれでもかと出た後、穏やかな曲調の『Quietly Start』へ急に移行するので、もはやこのアルバムのムードを掴めなくなっている自分に気づいた。ムードってこんなに掴みどころのないものなのか、生活とは、人生とは……

 しかし、最後の『景色がほしい』のイントロのブラスが聴こえた時、そして<逃げ続けてきた人生が晴れて今日無罪となった>という歌詞が聴こえてきたとき、私はこのアルバムに全肯定されたような気になって、思わず泣きそうになるのだ。

 

 ちなみに、アルバムはbandcampからダウンロードできる。また、青木氏のYoutubeアカウントでは、MOODのアルバムが丸ごとアップロードされた動画(!?)があるので、そちらも参考にどうぞ。

 

【トラックリスト】

1.PIANO
2.君の街は 
3.Internet Lovers 
4.俺の癇癪に施設が騒然 
5.特盛!万引きイスカンダル 
6.とうきょう銀粉 
7.夢の泡立ち 
8.立ちすくむ国家 
9.MOOD 
10.白舟 
11.カズマの面白FLASH倉庫
12.ショック情報 
13.リストカット・ディズニー 
14.異次元 
15.HIKIKOMORI MC BATTLE vol.3 
16.Cameraman 
17.Quietly Start 
18.景色がほしい

 

 

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