コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

小説

すばらしい現代文の解き方

「現代文がどうしてもできないんです」 とある高校の職員室で、女子高生が相談にやってきた。先生はコーヒーを飲むのをやめ、女子高生と向き合う。 「できないだと、抽象的すぎてアドバイスがしにくいから、もっと詳しく言ってくれないか」 「作者の言いたい…

たのしい数学ⅠA

「では、始めてください」 一斉に紙をめくる音が聞こえる。めくる音が止んだと思った瞬間、それは鉛筆やシャープペンシルの芯を叩きつける音に変わる。 1月某日。11時20分から始まった数学ⅠAのテスト。高校生を中心に沢山の人々が様々な会場で同じテストを行…

桃太郎概論

では、はじめます。先週は桃太郎がどういう話かを皆さんに知ってもらいました。あ、先週いなかった人は前にプリントがありますので、取りに来てください。そこに大体のあらすじが書いてありますので、素早く読んでおくように。内容が分かっていないと今日の…

20秒遅れ

ひとりのサラリーマンがいた。どこにでもいるような男であったが、おそろしく時間に正確だった。必ず6時に起き、7時には家を出て車に乗り、8時30分に会社に着く。就職してから19年間、いつも同じスケジュールで動いていた。そのため、会社の同僚は彼を見かけ…

five novels(digest)

もう自分の姿をぼんやりとしか認識できない時間帯、私は家に向かって歩いていた。暑さは一時的に記憶喪失になったようだった。 ふと駐車場を見ると、車のかげから尻尾が見えている。猫の尻尾のようだった。猫好きの私は駐車場に向かい、どんな猫か確かめてや…

8月の夜とクラゲ

実家の周りを散歩していた。ちょうど辺りが暗くなりはじめ、様々なものがシルエットになりつつある時間帯であった。 丁度トンネルに向かって歩いているところだった。トンネルの向こうが妙に明るい。最初は車のライトかと思っていた。しかし、一向に車がこち…

無駄話²

午後4時ごろ。Aはファミレスへと向かった。Aは趣味で小説を書いている。次に書こうと思っている小説のアイデアがなかなか出てこないため、気分転換に外に出て、ファミレスへと辿り着いたのだ。 ファミレスのドアを開け、店員の「何名様ですか」という問いか…

円周率と朝

【1日目】 どうでもいい事ほど、答えが分からないと気になってしまう。今、俺はまさにその状況下におかれていた。 3.14159……。9の次がどうしても思い出せないのだ。特に数学の勉強をしているわけでもない。ただ、少し頭の中を円周率がかすめ、思い出そうとし…

即興小説「被せる人々」

随分高い所まで来た、と私自身は思っている。ビルの5階と私自身が平行になっているのは初めての体験だ。 私は空飛ぶものだと人々は考えているらしいが、それはご主人が空をとばそうと考え付き、実際に行動しなければならない。いわば受動的な飛行なのだ。事…

無意味即興小説 「生殖する家具」

ある朝、目が覚めると机が2つに増えていた。眼鏡をかけていないからだ、いよいよ近視に乱視も入るようになったかと思いつつ、眼鏡をかけたが1つに戻らない。おかしい。寝ている間に机が2つに増えるなんて現象は、おそらく世界中どこを探しても見つからないだ…

呪うな

電話が鳴っている。 俺は電話の音を無視した。なぜなら、今はそれどころではないからだ。あとひと手間で呪いの人形が完成するのに、電話ごときに邪魔されてはたまらない。 電話から生まれるオタマジャクシは頭の上で跳ねている。思わず俺は自分の血を布にし…

sushicide

『○○県××市、□□寿司にて中トロが自殺。レーンから転落か』 この知らせは瞬く間に全国の寿司たちに知れ渡った。全国の寿司たちはみな、大いに驚いた。中にはこの知らせを聞いた瞬間、上にあったネタをばらまいてしまった軍艦もいたらしい。それほど衝撃的な知…