長袖の暗号 橙田千尋
モニュメントの銀を両目に流しこみ今は時間に色を付けたい
ホーム中に散らばった人 音ゲーをとうの昔にあきらめている
パトカーが交番のある方向へ曲がっていくのを見ていたはずだ
羽織らずに歩けてしまう冬の昼 でも盗作の疑いがある
やみくもに速度を借りているだけのカーブミラーから飛び出す車
看板の英語が読めてしまったら日本語はすぐ追いついてくる
翻訳の後ろではためく万国旗のどれもが少しずつ嘘っぽい
願い事でべっとりな手をおしぼりで拭ってホットコーヒーを持つ
駅と駅の間に落ちてきた雨は画家の用いる手法の一つ
落ちているゴミのゆくえがもし仮に象形文字でもリサイクルだよ
お客様の(インナーカラーを近くから見るのに多分そっくりな)声
室外機が動いたときだけまだ誰も踏み入れてない国の打楽器
町中のホースリールが一つずつずれればどうしても笑ってる
半分になったジュースは玄関でさらに一晩冷やされていた
閉じた目の裏でふくらむいくつもの気持ちにさかなへんを付けたい