不定期で好きなアルバムを紹介しているシリーズ、第10弾である。
日常生活だとあまり好きなアーティスト予備軍を発見できる機会は少なかったりする。外で様々な音楽を聴く機会は意外に少なく、お店に行くと有線が流れているときがあるが、ほぼ最新のヒット曲なので、自然と情報収集の網目が荒くなってしまいたくさんこぼれてしまう。そのため、好きなアーティスト予備軍がどこかに隠れていないか、よくYoutubeを使って曲を聴く。この方法が1番手っ取り早いと思う。
アルバムを買おうとするとき、意外にハードルがあるなと思う。借りられるのであれば借りてしまうし、数千円をかけてあまりしっくりこないと結構ショックである。そのため、気になったアーティストの曲を何曲も聴いて、このアーティストならアルバムを買っても後悔しないなと自分の中で結論が出てから、好きな曲が多く入っているアルバムを買うことにしている。
例外的に、一聴き惚れをした曲があるから、その曲を聴きたいがためにアルバムを買うときもある。ばっちりハマる曲は意外に少なく、イントロは好きだけどサビはあんまりだったり、好きな曲調だけど長すぎたりと、何かしら引っかかる部分があったりするときも多い。
前置きが長くなったが、今回は一聴き惚れで買ったアルバム、柴田聡子『愛の休日』を紹介していきたい。
『愛の休日』はシンガーソングライター、柴田聡子の4枚目のアルバムである。
まずはこの曲を聴いていただきたい。
滅茶苦茶良い曲じゃないですか??? 序盤・中盤・終盤、隙が無いと思う。こんなポップで爽やかな「後悔」、なかなか存在しない。個人的にはこの曲が2017年に発表された世界中の曲の中で1番好きな曲だ。春っぽい曲調に、少し上ずった声とフルート、合いの手とコーラスが重なってポップさが弾けている。この曲を聴いた次の日にタワレコにCDを買いに行った。それほどにもストライクゾーンど真ん中の曲だった。
アルバムで注目したいのは「歌詞」である。この人のすごいところは、平易な言葉で心に引っかかる部分を作り出すところである。等身大の言葉に徹しすぎると言葉が引っかからないで通り過ぎて行ってしまうし、かと言ってやりすぎると、歌詞ではなく単語の羅列になってしまう。平易な言葉を使って心に引っ掛かりを作るのは、かなり難しい。
例えば、「あなたはあなた」という曲に出てくる、
「胸のつかえに目薬さしてくれたあなたと観覧車」
という歌詞。「胸のつかえ」に「目薬」をさすという比喩に一瞬引っかかりを感じる。胸のつかえに目薬をさすことは正しいのかと思う。しかし、心にすっきりしない何かがあり、それを取り除いてすっきりとした気分にしてくれるという感情を表すのに目薬は最適解だと思う。胃薬とかだと何も引っかからない。
他にも「赤いソファーが届くよ 畳に置いたら変かな?」(「後悔」)、「心臓のはやさに電車が追いつく」(「遊んで暮らして」)、「いっちょまえに いきぬきしすぎ せいせいしすぎて こわい」(「さばーく」)など、デペイズマン(ある対象に全く状況・環境の違う別の対象を組み合わせて違和を作り出す手法)を使ったり造語を作り出さなくても、心の引っかかりが作れるのはすごい才能だと思う。ちなみに私が好きな歌詞は「ああ、バッティングセンターで スウィング見て以来 実は抱きしめたくなってた」(「後悔」)、「温泉が出るんだ センスだけで掘ってやんだぜ」(「さばーく」)である。
アルバム自体には弾き語りとバンドチックな曲が半々、最後だけ少し毛色の違うマシンビートっぽい曲が入っている。そこに歌が入ることで、何とも言えないリアルを片足だけ抜けたような世界観が生み出されている。
無知であるために曲の音楽的な構成について話せないのと、本当に良いものを前にした時の語彙力の低下により、伝えきれない部分もあるが、良いアルバムであることは確かだ。みんな買いましょう。
【トラックリスト】
1. スプライト・フォー・ユー
2. 後悔
3. 大作戦
4. あなたはあなた
5. 天使を見てる
6. 遊んで暮らして
7. ゆべし先輩
8. 思惑
9. 忘れたい
10. さばーく
11. リスが来た
12. コーポオリンピア
13. 愛の休日