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備忘録と不備忘録を行ったり来たり

読書感想文:キリンジ『自棄っぱちオプティミスト』

 音楽をある程度聴いている人であれば、好きなバンド/アーティストが存在すると思う。様々なジャンルのバンド/アーティストを好きになる人もいれば、1つのバンド/アーティストをずっと好きでいる場合もあり得る。ちなみに私は前者である。

 私はしばしばCDを購入、もしくはレンタルするが、それはずっと同じアルバムばかり聴いているといずれ飽きるからである。いくら好きなアルバムでも何百回も聴くとさすがに他のアルバムを聴きたくなってくる。

 様々なアルバムを借りていく中で、一定の周期でまた聴きたくなってくるバンド/アーティストの作品も出てくる。そういった思いを抱かせるバンド/アーティストを、私は好きなバンド/アーティストと定義している。

 好きなバンドの中の1つにKIRINJIがある。元々はキリンジという名義で、兄(堀込高樹)と弟(堀込泰行)で活動していた。

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 この画像は2000年にリリースされた3rdアルバム『3』のジャケットである。なぜ油を塗ったのだろう。左が弟の泰行。年を経る毎に風貌が大幅に変化した。右が兄の高樹。年を経てもあまり風貌は変わらなかった。

 弟が抜け、今は名義をローマ字にして、5人体制で活動している。どちらの名義も名曲ばかり作っている。

 ちなみに私が1番好きなキリンジの曲は『愛のCoda』である。時期によっては世界にある曲の中で1番好きな時もある。この曲はとにかく歌詞が最高である。「赤に浸す 青が散る 夜に沈む 星がこぼれた」という、限りなく切り詰めた字数で夕方から夜になる時の風景を歌う部分は鳥肌が立つし、「不様な塗り絵のような街でさえ 花びらに染まるというのに」というキラーフレーズも出てくる。あらゆる手段を用いて聴いてみてほしい。

 また、KIRINJI名義で1番好きな曲は『AIの逃避行 feat. Charisma.com』である。この曲はとにかくベースがカッコいい。私自身がまだ、すごさを咀嚼しきれていないため、とにかくすごいとしか言えないが、是非聴いてみてほしい。

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 本題に戻ろう。今回読んだ本はキリンジ時代に出版された『自棄っぱちオプティミスト』である。

自棄っぱちオプティミスト

自棄っぱちオプティミスト

 

  ちなみに同名の曲もある(6thアルバム『DODECAGON』に収録されている)。キリンジのロングインタビューに惹かれて購入した。

 内容は、エッセイが30話(兄弟でそれぞれ15話ずつ)、ゲストとの鼎談が2つ、デビュー時から2010年(8thアルバム『BUOYANCY』)までの道筋に関するロングインタビュー、兄弟に関係のある単語が載せられた大百科『奇林辞』が載っている。

 まずエッセイについて触れていく。やはり兄弟とはいえ、文章の雰囲気は結構違っている。兄の文章は落ち着いていて、視点が弟よりひねくれている。弟の文章は兄よりノリが軽い。

 似通っている部分もある。兄弟とも一つの物事について深く掘り下げる(想像/妄想していく)文章である。地面に落ちている靴を拾いに戻る男を見て、靴を拾う競技を考える兄。ウォシュレットの水圧に少し怒った後、水圧を調整している人のこだわりについて考える弟。こういう想像力があるからこそ、見事な歌詞を書くことができるのだろう。

 この本最大の魅力は、ロングインタビューだと思う。どういうことを考えながら活動をしてきたのかが語られている。マネージャーも登場し、二人が覚えていないことに関して補足をしてくれるし、インタビュアーも兄弟と長年の付き合いがある方なので、細かいところまで掘り下げてくれている。個人的に面白かったのは、兄が「同じアーティストのライブを2時間も聴いていられない」と答えている部分である。兄の一筋縄ではいかない性格が表れている気がした。また、キリンジの代表曲である『エイリアンズ』(少し前にCMで流れてましたね)に対する兄弟のスタンスの違いも読んでいて面白かった。キリンジの2人でもそういうことを思うのかという部分と、キリンジの2人ならそういうことを思ってもおかしくないなという部分があり、見ごたえがあった。

 キリンジにまつわる言葉を集めた『奇林辞』も面白い。短いがその言葉に関するエピソードも載っているので、キリンジファンは一読の価値があると思う。

 

 アーティストによる本は、その人の考え方を知ることができ、後で曲を聴くときに少し背景が見えて面白い。今回はキリンジファン以外の方は少しとっつきにくいかもしれないが、好きなアーティストの本を読んでみるのも、また新たな発見があって面白いと思う。