2019年がいよいよ始まり、我々はそれに抗うことはできない。
毎年行っている、1年間で購入/レンタルして良かったアルバムを10枚紹介していきたい。アルバムの簡単な感想と、公式で曲をアップロードしている場合はリンクも貼っていきたい。
なお、2018年に「購入/レンタル」したものが対象のため、2018年リリースではないアルバムを多く含んでいる。読む前に是非ご了承いただきたい。
ちなみに、今年は145枚のアルバムを購入/レンタルした。2017年より60枚ほど減っている。今年は様々なジャンルで気になったものを購入できれば一番だが、お金がそれを許してくれない可能性がある。金銭はメンヘラ。
順位付けは行っていない。どれも良いアルバムだった。
※2017年以前の同じような記事のリンクを貼っておくので、お時間のある方は是非お読みいただけると幸いです。
MUTE BEAT『FLOWER』
1987年リリース。MUTE BEATの1stアルバムである。
ゆったりとしたリズムと響き渡るトランペット。ドラムの音がはっきりしているからか、ダブの心地よさがこちらに効果的に伝わっているような気がする。
レゲエというと多幸感のある音楽という勝手なイメージを抱いていたが、このアルバムからは多幸感というよりは、少しだけ涼しい夏の夕方のようなイメージを思い起こさせる。こういうアルバムを流しながら、涼しい日の夏のベランダでのんびりできると最高だと思う。
※公式で挙げている動画が無かったため、曲のリンクは貼りません。以下の記事にMUTE BEATがどのような活動を行ってきたかが詳しく書かれているので、是非どうぞ。
SHUREN the FIRE『My Words Laugh Behind The Mask』
2003年リリース。SHUREN the FIREの1stアルバム。
このアルバムを知ったきっかけは、PUNPEEがBoiler Room Tokyoで行ったDJである。このアルバムに収録されている『Punk』が流れていた。少し古めのジャズとヒップホップが融合されていて、アルバムをすぐ購入したいと思ったが、廃盤になっているらしく、Amazonには足元を見られてしまった(8000円以上の値がついていた)。最終的には大宮のディスクユニオンで見つけてめでたしめでたしだった。
ジャズを基調とした落ち着いたトラックに、平和と札幌を押し出したリリックが乗っていて、夜中に聴きたくなるアルバムである。なかなかアルバムを足元を見ていない価格で購入できる手段が少ないのが残念である。
※公式のPVなどが無いため、PUNPEEがBoiler Roomでプレイした際の動画をリンクとして貼っておく。11分3秒ころから流れる曲が上記アルバムに収録された『Punk』という曲である。
印象派『Nietzsche』
2013年リリース。大阪のガールズユニット印象派の1stミニアルバムである。
PVを見ると、奇を衒いに来ているのかなと思ったが、アルバムを聴いた瞬間その偏見は一瞬で覆された。雑食的な音楽性なのに、曲として中途半端にならず、強度が高いところが痺れる。
まず1曲目の『Volcanic Surfer』で心を掴まれた。4つ打ちのギター中心のロックだが、この曲は1回目と2回目のサビ後半で少し展開が変わっているところにカッコよさを感じる。アウトロのベースラインも印象的だ。
そんなアルバムの中で1番衝撃的だったのが、4曲目に収録されている『ENDLESS SWIMMER[true]』である。ベースとドラムが基調になって進んでいく、展開としてはミニマルな曲なのだが、後半のドラムが激しくなるところで、一気に場面が変わっていく。ミニマルな展開なのに、ポップさが失われていない。恐ろしい曲だ。
※『ENDLESS SWIMMER[true]』の短いバージョン。
Nicolas Jaar『Sirens』
2016年リリース。Nicolas Jaarの2ndアルバム。
大雪の日に歩きながら聴いたことがあったのだが、このまま終末へ向かっていくのではないかという雰囲気に1曲目の『Killing Time』を聴きながら思った。この曲は砕け散るようなウィンドチャイムで始まり、張り詰めたピアノとドラムが響き渡る。11分超という長尺曲でありながら、全く飽きさせない。時折亡霊のように感じるボーカルと、アンビエント、ポストパンクなど様々なジャンルを織り交ぜた曲群と悲劇的な歌詞で、寒々しさと激しさが交互に現れるアルバムに仕上がっている。
※公式の動画が見つからないため、リンクは貼りません。
天気予報『雰囲気』
2017年リリース。天気予報の2ndアルバム。
天気予報という珍妙な名前で分かる人もいるかもしれないが、ジャンルはVaporwave、もっと細かく言うと、Signalwave/Broken Transmissionである。昔(1980~1990年代のものが多い)のCMやTV番組のサンプリングをスクリュー、ループさせたこのアルバムは、ある時代に対するノスタルジー(まだ筆者は生まれていないが)、を感じさせる。また、幾度かCMが流れるのも、テレビを垂れ流しているような感覚になる。
そんなノスタルジーを消し飛ばすような不穏な結末がこのアルバムにはまっているが、実際に聴いていただくのが一番早いと思う。
2017年リリース。公衆道徳の1stアルバム。
韓国のアーティストらしいが、どういった人物なのかは調べてもあまり出てこない。Lampという滅茶苦茶良い曲を作るバンドで活動している、染谷太陽氏が主宰しているレーベル『Botanical House』から日本盤がリリースされた。
どの曲も、アコースティックギターと主張しすぎないボーカルが中心となっているのだが、混沌としたアルバムになっている。生々しいアコギの音がグッと盛り上がる部分が特徴的な1曲目の『白い部屋』、少し輪郭がぼやけた歌が浮遊感を与えている3曲目の『パラソル』、終盤で切れ味鋭いアコギとともに音が流れ込んでくる4曲目の『ウ』など、聴きどころも多い。宅録だからこそできるローファイながらも生々しい音像は、リピート必至である。
怖い卓球部『スマッシュ1』
2018年リリース。インターネットを拠点としたバンド、HASAMI groupの中心人物である青木龍一郎氏の呼びかけで作成されたアルバムである。総勢11人が参加しているが、素性がほとんど分からない人もいた。
「15分以内にトラックを制作する」「作詞時に15秒以上手を止めない」というルールのもとで作成された曲が集まった結果、完成度という次元では測定できない怪盤となった。
ドロドロとしたギターのサウンドに乗せて、亀を飼ったあとのささやかな困惑を歌った『ミドリガメ』、作曲・作詞時間0秒の『おかま登場』、最後の最後で外に投げ出されてしまうような歌詞の打ち込み主体の曲『理由なき坊主』など、怪しく光る楽曲が揃っている。約23分という短いアルバムだが、かなり脳をかき混ぜられる。
ここからダウンロードが可能。
http://iaodaisuke.web.fc2.com/kowaitakkyubu/smash1.html
HASAMI group『MOOD』
2018年リリース。HASAMI groupの19thアルバム。
HASAMI groupの屈折した世界観とバラエティに富んだ曲のラインナップを維持したまま、聴きやすい仕上がりになっていて、今年何回も繰り返して聴いた。悲しさと楽しさを間を行くようなピアノのフレーズが特徴的な『PIANO』は、帰り道で聴くとかなりグッとくる。
前半はポップな曲が多いが、インスト曲の『MOOD』を境に、『カズマの面白FLASH倉庫』『ショック情報』『リストカット・ディズニー』と暗めの世界観を打ち出し、社会の理不尽なライムが牙を剥く『 HIKIKOMORI MC BATTLE vol.3』、暗さと気持ち悪さが極まった『Cameraman』で最高潮になる。ポップさと暗さの先で、最後の『景色が欲しい』が始まった瞬間、なぜだか泣きそうな気持ちになるのだ。
Various Artists『WEB / そ の 意 味 で』
2018年リリース。 猫 シ Corp.、Nmeshなど、Vaporwaveというカテゴリーの中で名の知られているアーティストたちが参加したコンピレーションアルバム。
胸像と古いOS・ゲーム画面のコラージュ、執拗なループとスクリュー、フィルターのかかった音像というあまりにもストレートなVaporwave像は、ノスタルジーに対するノスタルジーを感じさせる。Vaporwaveを初めて聴く人は、このアルバムから入ってもいいと思う。
個人的に一番好きな曲は海岸『すてきな階段』で、ループされた音が少しずつドロドロに溶けていく感覚は、ある種の催眠効果を感じさせる。
2018年の1月にVaporwaveへのノスタルジーを感じさせるこのアルバムがリリースされた。2019年、Vaporwaveはどこへ向かうのだろうか。
cero『POLY LIFE MULTI SOUL』
2018年リリース。ceroの4thアルバム。
3rdを聴いたときに、2ndの時から結構変化しているなと感じたが、前作と今作を比べてみてもその感想は変わらなかった。3rdアルバムに比べて、リズムに力を入れていると感じた。アフリカ的なリズムがところどころで目立つ。メロディだけでなくリズムの移り変わりでも楽しめるアルバムである。
2曲目の『魚の骨 鳥の羽根』は3拍子と4拍子を行き来する、流れるように盛り上がっていく曲だ。時折使われるシンセサイザーも効果的である。
1st、2ndアルバムあたりの、現実から少し抜け出した部分を描いたような歌詞よりも、このアルバムの4曲目に収録されている『薄闇の花』の歌詞で流れている空気に心を動かされる。こういった緩やかに空気が動いている曲、なかなか無いよなと思い何回もリピートした。5曲目の『遡行』の後半で3拍子になる部分も好きだ。
2019年はどういうアルバムに出会えるのだろう。楽しみである。