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コムギココメコ

忘れてもいいことを書くので不備忘録

five novels(digest)

 もう自分の姿をぼんやりとしか認識できない時間帯、私は家に向かって歩いていた。暑さは一時的に記憶喪失になったようだった。

 ふと駐車場を見ると、車のかげから尻尾が見えている。猫の尻尾のようだった。猫好きの私は駐車場に向かい、どんな猫か確かめてやろうと車に近づいて行った。しかし、尻尾は私に気づいたのか、どこかに行ってしまった。結局尻尾しか確認することはできず、猫かどうかも分からずじまいだった。

 

 僕は知らない人に勝手に名前をつけるのを趣味にしている。今だって勝手に名前を付けている。あの30代と思われるスーツ姿のサラリーマンはエリックだ。大学生らしい、茶髪でショルダーバッグを背負っている男はローブだ。そして、あの女の子は……。思いつかない。どうしても名前が付けられない。焦りを覚えている間に女の子はどこかに建物の中に行ってしまった。今までこんな事は起こったことが無い。汗がにじみ出てくる。黒髪でショートカット、服装はジーパンを履いていたことしか覚えていない。その時から、あの女の子に名前を付けるための苦悩が始まったのだった。

 

 シャボン玉が浮かんでいる夜。シャボン玉は一定の速度で四方八方へ浮かんでいる。一瞬シャボン玉が消えた。そして色とりどりのビー玉が宙に浮かんだ。ビー玉はゆっくりと動いていて、時々他のビー玉とぶつかった。ぶつかったビー玉は色を変えて、夜を様々な色へと変えている。

 

 電車が走りだした後に、忘れ物をしていることに気づいた。次の駅で降りて、忘れ物を取りに言っても約束の時刻には間に合わないだろう。しかし、あれがなければ待ち合わせ場所に行ったとしても、その後の行動ができなくなってしまう。私は考えた。そして、結論を出したと同時に先頭車両へと向かった。先頭車両には様々な機械がある。この時代では既に運転手は必要なくなり、全て意思をもった電車が自ら動いていた。

 

 水が滴り落ちる音で目が覚めた。この水源が存在しない牢屋のどこから音がしているのかはわからなかった。全く変化の無かったこの牢屋で、この音は新たな変化であった。

 水滴が落ちる音が聞こえてから数日経った。分かったことは、一定間隔で水滴の落ちる音が聞こえてくるということだ。最初はどうということも無かったが、次第に脳の中で水滴が落ちているような感覚に陥り、ひどく不快になってきた。それでも音は止まず、次第に頭をかきむしったり、壁に拳をたたきつけたりして、どうにかこの音から逃れようとした。しかし、音は止むことはなかった。

 

 20■■/■■/■9 発売!