コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

ラーメンレビュー 「ラーメン 人生」

※この話はフィクションです。

 

 先日買い物に行った帰り、そういえば昼ご飯をまだ食べてなかったなと思い、どこかで食事できそうなところが無いか探すことにした。周りはチェーン店が多く、たまには個人経営の店で食べてみたいと思っていた私は、ことごとくそれらの店をスルーした。15分ほど歩いただろうか、1軒のラーメン屋を見つけた。看板には「ラーメン 人生」と書いてある。こういう気取った名前の店は、味の評価が0か100になることが多いような気がする。お昼のピークが過ぎたからだろうか、店の前には誰も並んでいなかった。嫌な予感がして、店に入るのを少しためらったが、この店を見逃すと、いつ個人でやっている店があるか分からない。このラーメン屋で食事をとることにした。

 入り口の横に券売機が置いてあったので、食券を買おうとすると、目に入ってきたのは「醤油 人生」「つけめん 人生」という2つのメニューだった。ここの店主は人生という言葉を使いたがる傾向にあるらしい。食券ではなく、口頭でメニューを申告するシステムだったら、私は少し恥ずかしい気分になっただろう。少し安心しながら、「醤油 人生」のボタンを押し、ついでに大盛りにした。

 ドアを開けると、店主の「いらっしゃい!」という声が聞こえてきた。店内にいる客は6人で、席数の半分程度だった。カウンターに食券を置いてくれと店主に促されたので、食券を置き、店内の観察をする事にした。どうやらスープや麺にかなりのこだわりをもっているらしい。至る所に書いてある薀蓄からも自信のほどがうかがえる。店主は30代だろうか。頭にタオルを巻いている。ラーメン屋の店主は頭に何かつけないといけない決まりでもあるのかというくらい、よく巻いているが、真相のほどはどうなのだろうか。

 10分程度で「醤油 人生」が提供された。麺を食べてみる。うん。スープも飲んでいる。うん。私はラーメンに詳しくないので、醤油味のラーメンを食べても麺がどれくらいの柔らかさかということと、スープが醤油味だなということくらいしか分からない。よくラーメンのレビューサイトを見ると「低加水の麺が……」とか、「煮干しが……」などと書いているのを見ると、ラーメンを食べるにはある程度の知識がないといけないのかと錯覚させられる。あと、ラーメンのレビューサイトで自身の近況やネタをちょくちょく挟む輩がいるが、前世でどういう罪を犯すとあのような状況になるのだろうか。

 食べ終わって、店を出る。店主の「ありがとうございました!」と言う声が後ろから聞こえてきた。味の感想はと言うと、確かに美味しいのだが、どこか足りない気がする。まるで山月記の中で出てくる李徴の詩のようである。少し例えがおかしかったか。私はそのまま家路についた。

 

 後日、ラーメンのレビューサイトでその店の評価を見てみると、平均点は80点だった。人生が80点と他人に評価されている。なぜか物悲しい気分になった。