コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

散りつつ歩く(2)

※前回

散りつつ歩く(1) - コムギココメコ

 


 川に沿って並んでいた工事用フェンスが無くなると、サッカー場が現れた。試合ができそうな広さだったが、すぐ横が川だ。ボールが川に飛び込まないようにネットが張られているが2〜3メートルほどの高さしかない。また、ネットは川沿いを全て覆っているわけではなく、コーナーの少し奥でネットは途切れ、1メートルほどの柵があるだけになっていた。川の方向へ思い切り上に蹴り上げてしまったらボールを1つあきらめなければならないだろう。

 あきらめざるを得なかったサッカーボールはいくつ海までたどり着いたのだろうか。そもそもサッカーボールは水に浮くのだろうか。この世ではサッカーボールを川に入れる機会があまりにも少ない。

 サッカー場を通り過ぎると野球場が2つ現れた。さらに奥のほうにも野球場のようなものが1つ見えた。手前の2つは内野に当たる部分に雑草がところどころ生えていて、もしかしたらあまり使われていないのかもしれない。

 手前の2つのグラウンドとも、一塁側と三塁側に黄色いベンチが3つずつ並んでいて、ベンチは鉄パイプでできた藤棚のようなものに覆われていた。しかし藤はおろかなんの植物も鉄パイプを這っておらず、飽きっぽい人が途中で投げ出した、出来の悪いジャングルジムのように見える。シートを上から覆い被せれば日除けにはなりそうだったが、今は何もないため何のために意図が読めない。

 バックネットの近くには濃緑色の箱が二つ置かれていた。左側は「ベース」と白い字で書かれているが、文字の先端が勢いよくかすれた形になっている。もう1つの箱は「石灰 ラインカー」と白字で書かれていて、私の脳内で「お手本」という三文字が浮かび上がってくるほど整っている。どちらかが先に書かれたのだろうか。どちらの字の白も濃いため、見た目では判断できる材料がない。

 

 一、二分歩くと奥のほうに見えた野球場がはっきりと目の前に現れた。こちらも雑草がところどころ生えていて、ベンチと藤棚のようなもの、濃緑色の二つの箱がある。先ほど見たときと同じように、「ベース」は勢いよく書かれていて、「石灰 ラインカー」はお手本みたいだ。もしかしたら文字を書く際に「ベース」担当と「石灰 ラインカー」担当がいたのかもしれない。

 野球場を越えると、右手に階段が現れた。土手もお腹いっぱいになりつつあったので上がってみる。横断歩道を渡ると道路の向こう側にスロープが見えたのでそちらに向かう。だらだらと下っていくと、スロープの終わりのほうで植木鉢が並んでいるのに気づいた。まっすぐ並べようという意志と、とりあえず隙間があったら埋めようという意志が混ざり合っているような並べ方だ。

 だんだんと、植木鉢の並び方がマラソンや駅伝のときの沿道みたいに思えてきた。観客は車道へはみ出ないように並んでいるため、ある程度秩序は保たれているものの、皆ランナーを見たいがために沿道自体はごちゃごちゃとしている。そのまま歩いていると、左手にまた植木鉢が道の端に雑然と置かれているのを見つけた。こちらもランナーを応援する観客たちのように思えた。