コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

最寄り駅両面待ち

 電車に乗ると眠ってしまうことから、電車内には睡眠を促進する成分が漂っているに違いない。しかし、電車に乗っている人が全員眠っているわけではない。これは、睡眠促進成分が効きやすい体質の人と、効きにくい体質の人が存在するということだ。

 鉄の箱の中は、色々なものに見える。電車という怪物の胃袋に見えることもある。例えば上野東京ラインなら10個もしくは15個の胃を持った怪物が沢山走っている。しかし、15個も胃があるなんて、牛も驚くだろう。

 また、ゆりかごに見えることもある。風が吹きすさぶ日には電車は揺れる。すると、電車はゆらゆらと揺れ出す。鉄のゆりかごは赤ん坊をあやすのには向いていないが、無機質な社会に生きる人々をあやすにはおあつらえ向きなのかもしれない。

 今日は最寄り駅になかなか着かなかった。1つの前をすぎると意識を失ってしまい、目覚めると次の駅についているのだ。慌てて反対の電車に乗るが、結果は同じである。最寄り駅に着いたときに、意識を保てないのだ。つまり、最寄り駅が消えてしまったも同然という事である。

 歩いて帰るには少し遠すぎる距離だった。しかしいくら電車に乗っても最寄り駅で降りることはできず、古びたデパートのある駅と、居酒屋だけが色合いをもっている駅にしか降りることができない。

 私以外にもこの現象が起きていないか確認をしてみた。意識を失う前と失った後では人が変わっている。つまり、他の人は最寄り駅で降りることが可能なのだ。私以外も同じ現象に陥っているのなら少し安心できるのだが、これでは誰に助けを求めても寝ぼけているだけだと鼻で笑われてしまう。

 駅員に「最寄り駅に辿り着けないのですが」と言ったとしても、それは私の意識の問題であり、電車の問題ではない。しっかりとレールは最寄り駅に向かって伸びている。

 夢を見た。電車に乗っている私の目の前に14枚の麻雀牌が座席に座っている。駅に着くたびに1枚が電車から降り、また麻雀牌が1枚座席に座る。何が降りて行くのかは私には予想できなかった。外から人のゲームを見ているような感覚だった。

 白が2枚座席に連なって座った。アナウンスが「ポン」を言うと、次の駅で白が1枚入って来て3つに連なった。安手でもいいから速攻で上がろうとしているらしい。

 それから何駅か通り、あと2の萬子か5の萬子がくれば上がり、という状況になった。しかし、なかなか現れない。何駅か通り過ぎ、いよいよ次が終点だった。なぜか終点は最寄り駅だった。

「○○~、○○」

 アナウンスが終点に着くことを知らせた。ドアが開く。

 そこで目が覚めた。

「○○~、○○」

 最寄り駅の名前がアナウンスされた。どうやら、やっとループから抜け出して、最寄り駅に降りることができるらしい。急いで荷物を持ち、電車から出た。

 通りざま、2の萬子とすれ違った。萬子は電車に入っていく。これで上がりだ。

 1000点を獲得した電車を背にして、私は改札に伸びるエスカレーターに乗った。