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備忘録と不備忘録を行ったり来たり

サイモン・シン『フェルマーの最終定理』を読みました

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは数が好きですか?

 あなたは数学が好きですか?

 

 学生時代、授業や講義で数学を習う場面は多々あったのだが、私はどうしても数学が得意になれず、好きにもなれなかった。高校では元々理系コースを選択していたのだが、上述した数学や化学・物理への苦手意識と、さらに国語・地歴が得意だったことも重なり結局文転したのだった。

 計算としての数学は苦手なのだが、知識としての数学に対する苦手意識はなかった。モンティホール問題(3つの扉を使った確率の問題、検索すると色々引っかかるはず)など、数学上のtipsは面白いと感じるし、懸賞金がかけられている問題があると知った時には、数学の証明されていない問題が、ゲーム内のボスのように存在するのだなと、少し興味をそそられた。中身を見ても、何がどうなっているのか分からないものばかりだったが。

 そういった難問たちの中で、唯一私でも問われていることについて理解できたのが『フェルマーの最終定理』と呼ばれているものである。この定理の内容は以下の通りである。

 

3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しないという定理 ※nは指数

 

 言われていることは理解できるのに証明することはかなり難しく、この定理に関するフェルマーのメモが日の目を見てから300年以上経過した1995年に、アンドリュー・ワイルズによってついに証明された。

 なぜこの定理が『フェルマーの最終定理』と言われているかは、フェルマーが書き残したメモが元になっている。

 

「私はこの定理について真に驚くべき証明を発見したが、ここに記すには余白が狭すぎる」

 

 何という思わせぶりなメモだろうか。しかし、このメモによって300年以上に及ぶ数学者たちの闘いが幕を開けたのだ。そして、その戦いの記録をまとめた本が、サイモン・シンフェルマーの最終定理』である。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 

【以下ネタバレがあります】

 

 この本では、フェルマーの最終定理だけではなく、紀元前の数学の起こりについても記載されている。数学がどのようにして学問として発達していったのかが説明され、そこからフェルマーに影響を与えた書物が生み出されていく。

 その後、フェルマーの生涯と定理との出会い、その後300年に及ぶ数学者たちの進歩と挫折、そして決着をつけたアンドリュー・ワイルズの孤独な闘いについて記載されている。

 この本では、沢山の登場人物と計算式が登場する。その中には偉大な数学者として数学に多大な影響を残したレオンハルト・オイラーや、若くして亡くなった悲劇の天才、エヴァリスト・ガロアといった有名どころから、数学の他にその当時の偏見とも闘わなければならなかった数学者も登場する。数学という大河ドラマを一気に見ているような気持ちになる。

 本の後半ではアンドリュー・ワイルズを中心に話は進んでいく。その中には日本人である谷山豊と志村五郎も登場する。彼らも、ワイルズの証明に影響を与えた。

 長年数学が蓄積したテクニックと、新しいテクニックを総動員して、フェルマーの最終定理の攻略を試みるワイルズ。300年間人々を返り討ちにしてきた証明という魔物を、ワイルズが成長して一歩一歩攻略への道を進んでいくようで、もはや冒険譚とも言える。

 ドラマを見ていると感情移入して今うことが時々あると思うが、この小説も同じで、最後ワイルズが問題点を打破して、証明を完成させたときには、脳内でロッキーのエンディングが流れていた。それくらい心を乗せられるのだ。あんなに学生時代苦手だった数学によって。

 後半に出てくる数式や専門用語は分からないものもあったが、そこで挫折することなく読み続けられるのは、数学者や数学の魅力を存分に表現している作者の力があるのだろう。壮大なドキュメンタリーとしての数学がこの本では提示されている。

 

 数学で挫折したことがある皆さんも、数学をテーマにしたドキュメンタリーを一度読んでみませんか。