Tシャツのローテーションがわかるほど会っている ねこ 赤 ストライプ
/橋爪志保『とおざかる星』(『ねむらない樹 vol.4』、書肆侃侃房、2020.2.1)
私たちは服を毎日着ていて、バリエーションとしては大体の人が数種類にとどまる。その数種類の服をローテーションさせながら、生活を送っている。
<Tシャツのローテーションがわかるほど会っている>というくらいだから、毎日のように会っている親しい関係だと思う。会社の人のように、毎日のように会っているけど親しくない関係もあるけれど、その場合はTシャツではなさそうな気がするので、友人もしくは恋人だと解釈した。
この歌の好きなところは、<Tシャツ>の認識の仕方だ。
<ねこ>はねこがプリントされている、しかも<ねこ>の<Tシャツ>という認識だから、かなり<ねこ>が目立つようなデザインなのだろう。
<赤>は赤を基調としたTシャツで、<ストライプ>はストライプ柄のTシャツだ。この<ねこ><赤><ストライプ>は、それぞれ対象物、色、柄と違った認識の仕方がされている。おそらく主体は、印象に残った部分でTシャツの種類を覚えているのだろう。
この認識のばらけ方によって、歌に実感がこめられていると思う。色だけで認識すると並列されたものに統一感は出るけれど、もし青色を基調とした、ネコが目立つようにプリント(もしくはデザイン)されたTシャツを見た時、青色よりネコの方が印象に残るのではないだろうか。
私たちに三種類のTシャツを思い起こさせ、さらには<Tシャツのローテンションがわかる>まで親しくなった関係を私たちの頭に思い浮かばせる。奥行きのある歌だと思う。
上記の歌が載っている連作から、もう一つ歌を紹介したいと思う。その歌の良さを言語化しきれていないため、評や感想はまだ付けられないが、第2回笹井宏之賞の大賞・個人賞・最終選考候補作の中で一番心を打たれた歌だった。
生きてまでやりたいことがあまりないことがうれしいのを信じてよ
/同上