コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

本屋に行くとき、私は生きのびる必要がなくなる

 時々本を買う。

 私の家の最寄り駅から、電車に20分ほど乗ると大きな駅がある。その駅を出てすぐに本屋が存在している。

 その本屋は地方にしては品ぞろえが良く、引っ越してきてから本を買うときは、いつもその本屋に行くことにしていた。

 私は本屋に行くと本を買ってしまうことがある。本屋に行ったからといって、本は買わなくてもいい。今すぐに必要のないものであれば、出来るだけ買わないほうが世界で生きのびるためには良い。

 しかし、本屋に行くと生きのびる必要がなくなる。我々は食べるためにスーパーに出かけたり、賃金を貰うために職場に出かけたりする。これらの行動は言わば生き抜くために必要なものである。しかし、生きのびるために本は必要ない。そのため、本屋に入ると武器を外して安全に歩くことができる。言わば精神のセーフティーゾーンとも言える。

 生きのびる必要がないのであれば、今すぐ必要ではないものを買っても何ら問題はない。問題がないから本を何冊も買ってしまう。まだ読んでいない本は沢山あるのにも関わらずである。

 私は様々なことに興味があるし、様々な事を身に着けたい。コントロールフリークとまではいかないものの、できることなら全て自分で行えるようにしたい。

 世界中にバラバラになって散らばっている知識の破片を拾い集めるように、本を買っていく。気になったら買う。目を惹いたら買う。心に引っかかったら買う。買う。そして買う。

 こうして数十冊のまだ出番を迎えていない本が山のように重なっていく。少しずつ本を読んでいきたいのだが、精神が赤点を回避しないと本が読めないので、あまりペースが上がらない。そうしている間にも興味のある本が増え、それらを購入し、また山が高くなっている。いつしか私は、私の興味に殺されてしまうのかもしれない。

 山を整理しようと考え、本棚を購入した。カラーボックスとも言うらしい。6段あるものを買ったため、持つとかなりの重量があった。死体を背負って旅に出るのはかなり難しいと思う。皆さんは死体を背負って旅をしたことがありますか。

 30分くらいで完成すると説明書には書いてあったが、実際には60分かかった。雪の日のバスみたいだ。途中板を反対にしてしまうミスがあったのも要因の一つだろう。そのまま続行してもいいかなと一瞬思ったが、私の右手と左手が逆のまま、神に「まあいっか」と言われて誕生させられたらどうしよう。怖くなったので直す。

 今は立派な本棚が建っている。墓標にしたい。上から4段目を積読エリアにしているが、まもなく入りきらないほどの量になる。少しずつ他の本棚を侵食していって、やがて全ての本棚が埋まり、別の本棚を侵食し始め、衣装ケース、床、押し入れ、冷蔵庫、電子レンジ、トイレ、風呂、洗濯機、口、臓器、血管……とどまることを知らない。 

読書感想文:キリンジ『自棄っぱちオプティミスト』

 音楽をある程度聴いている人であれば、好きなバンド/アーティストが存在すると思う。様々なジャンルのバンド/アーティストを好きになる人もいれば、1つのバンド/アーティストをずっと好きでいる場合もあり得る。ちなみに私は前者である。

 私はしばしばCDを購入、もしくはレンタルするが、それはずっと同じアルバムばかり聴いているといずれ飽きるからである。いくら好きなアルバムでも何百回も聴くとさすがに他のアルバムを聴きたくなってくる。

 様々なアルバムを借りていく中で、一定の周期でまた聴きたくなってくるバンド/アーティストの作品も出てくる。そういった思いを抱かせるバンド/アーティストを、私は好きなバンド/アーティストと定義している。

 好きなバンドの中の1つにKIRINJIがある。元々はキリンジという名義で、兄(堀込高樹)と弟(堀込泰行)で活動していた。

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 この画像は2000年にリリースされた3rdアルバム『3』のジャケットである。なぜ油を塗ったのだろう。左が弟の泰行。年を経る毎に風貌が大幅に変化した。右が兄の高樹。年を経てもあまり風貌は変わらなかった。

 弟が抜け、今は名義をローマ字にして、5人体制で活動している。どちらの名義も名曲ばかり作っている。

 ちなみに私が1番好きなキリンジの曲は『愛のCoda』である。時期によっては世界にある曲の中で1番好きな時もある。この曲はとにかく歌詞が最高である。「赤に浸す 青が散る 夜に沈む 星がこぼれた」という、限りなく切り詰めた字数で夕方から夜になる時の風景を歌う部分は鳥肌が立つし、「不様な塗り絵のような街でさえ 花びらに染まるというのに」というキラーフレーズも出てくる。あらゆる手段を用いて聴いてみてほしい。

 また、KIRINJI名義で1番好きな曲は『AIの逃避行 feat. Charisma.com』である。この曲はとにかくベースがカッコいい。私自身がまだ、すごさを咀嚼しきれていないため、とにかくすごいとしか言えないが、是非聴いてみてほしい。

www.youtube.com

 

 本題に戻ろう。今回読んだ本はキリンジ時代に出版された『自棄っぱちオプティミスト』である。

自棄っぱちオプティミスト

自棄っぱちオプティミスト

 

  ちなみに同名の曲もある(6thアルバム『DODECAGON』に収録されている)。キリンジのロングインタビューに惹かれて購入した。

 内容は、エッセイが30話(兄弟でそれぞれ15話ずつ)、ゲストとの鼎談が2つ、デビュー時から2010年(8thアルバム『BUOYANCY』)までの道筋に関するロングインタビュー、兄弟に関係のある単語が載せられた大百科『奇林辞』が載っている。

 まずエッセイについて触れていく。やはり兄弟とはいえ、文章の雰囲気は結構違っている。兄の文章は落ち着いていて、視点が弟よりひねくれている。弟の文章は兄よりノリが軽い。

 似通っている部分もある。兄弟とも一つの物事について深く掘り下げる(想像/妄想していく)文章である。地面に落ちている靴を拾いに戻る男を見て、靴を拾う競技を考える兄。ウォシュレットの水圧に少し怒った後、水圧を調整している人のこだわりについて考える弟。こういう想像力があるからこそ、見事な歌詞を書くことができるのだろう。

 この本最大の魅力は、ロングインタビューだと思う。どういうことを考えながら活動をしてきたのかが語られている。マネージャーも登場し、二人が覚えていないことに関して補足をしてくれるし、インタビュアーも兄弟と長年の付き合いがある方なので、細かいところまで掘り下げてくれている。個人的に面白かったのは、兄が「同じアーティストのライブを2時間も聴いていられない」と答えている部分である。兄の一筋縄ではいかない性格が表れている気がした。また、キリンジの代表曲である『エイリアンズ』(少し前にCMで流れてましたね)に対する兄弟のスタンスの違いも読んでいて面白かった。キリンジの2人でもそういうことを思うのかという部分と、キリンジの2人ならそういうことを思ってもおかしくないなという部分があり、見ごたえがあった。

 キリンジにまつわる言葉を集めた『奇林辞』も面白い。短いがその言葉に関するエピソードも載っているので、キリンジファンは一読の価値があると思う。

 

 アーティストによる本は、その人の考え方を知ることができ、後で曲を聴くときに少し背景が見えて面白い。今回はキリンジファン以外の方は少しとっつきにくいかもしれないが、好きなアーティストの本を読んでみるのも、また新たな発見があって面白いと思う。

2018年、勝ちに行くために

 明けましておめでとうございます。

 

 皆さんは2018年に無事たどり着けましたか? たどり着けた方は良かったですね。たどり着けず、2017年に取り残されてしまった方、次回のチャンスを待ちましょう。

 今回は毎年決めている目標について書いていく。毎年作っては破り、作っては破り、まるで筆が進まない小説家のように目標を屑籠に向かって投げ捨てていた。今年こそ達成できるようにしたい。

女「どうせ今年も未達成で終わるんでしょ」
 今年はちゃんとやるぞ!! あと女って誰だ?

 

 去年は目標を小分けにしすぎて、覚えておくことすら難しかった。そのため、途中で目標を再設定している。再設定した目標は以下のとおりである。

 

・小説、短歌を文学フリマに出す

・本を20冊読む

・選歌がある短歌投稿媒体に自分の短歌が載る

 

 本を20冊読むことはできなかったが、残りは達成することができた。文フリで小説と短歌を頒布したし、ネットプリント毎月歌壇やうたらばといった短歌投稿媒体に短歌を選んでいただいた。また新潟で活動をしている空き瓶歌会さんから歌会のお誘いを頂き、歌会に初めて参加した。今までTwitterに閉じこもっていたが、7年目で初めて、肉体をもって外部へと踏み出したのだ。

 2017年の出来事を踏まえて、今年のコンセプトは以下の通りである。

「勝ちに行く」

  これだけだとさっぱり分からないと思う。このコンセプトを基に、目標を立てた。

 今年の目標はこれだ!

 

①本を23冊以上読む

②ブログ記事を46本以上書く

文学フリマ東京(秋)で短歌・小説を頒布する

④イラスト・デザインの勉強・練習を続ける

 

 1つ目と2つ目の数字が中途半端なのは、2017年の数字を参考にしているためだ。目標を達成することで、去年の自分を超えることになる。

 2017年は小説や短歌のアイデアが枯渇していくようになった。理由の1つにインプットが少なかったということが挙げられる。アイデアはしっかりとしたインプットがあってこそ創造できると私は考えているため、本を読む習慣を取り戻したい。また、本だけでなく、漫画や映画などもある程度見るようにしたい。2017年はほとんど漫画や映画を見なかった。生活が変わったことで、気力が失われていたのかもしれない。

 インプットだけでなく、アウトプットも必要である。2017年はブログの記事が45本で、2016年の70本と比べると、7割弱ほどに減ってしまった。文章は日々書き続けていないと衰えていくばかりなので、気を付けていきたい。

 2017年は先述のとおり、文学フリマで短歌・小説を頒布することができた。来年は表紙のデザイン・内容共にもっと完成度の高いものを作れればと思う。

 イラスト・デザインの勉強と練習は、文学フリマに初めてサークル参加して痛感したことで、表紙がある程度目立つものでないと、なかなか手に取ってもらえない。小説は特に顕著である。他の人に依頼するのも一つの手だが、自分である程度出来たほうが困らないと感じた。

 

 2017年ほど、自分の頭の中で思い描いている光景と、小説や短歌にしてアウトプットした時のギャップに苦しんだ年は無いかもしれない。自分のような人間は、口を開けていても餌にはありつけない。様々な事象をインプットして、いくつもアウトプットしていかなければ世界に見つけてもらうことができない。とにかくアウトプットしたものを外に向かって投げる、これも2017年に痛感したことである。作品(自分の作ったものを作品というのが恥ずかしいのは、自分が満足いくものを作れていないことの表れなのか)は外に向かって投げなければどうにもならない。

 日々終わりに向かって近づいているのだから、動いていく必要がある。

 

 2018年は、勝ちに行くぞ!!!!

2017年に購入/レンタルして良かったアルバム10選

 2017年の電池がそろそろ切れそうで、ランプが弱々しく点滅し始めた。そろそろ今年のまとめに入ろうかと思う。

 今回は2017年に購入/レンタルしてよかったアルバムを10個紹介していく。すぐ聴けるようYoutubeなど(公式のもののみ)をリンクしているため、多少重くなると思うが勘弁していただきたい。

 2017年に「購入/レンタル」したものが対象のため、今年リリースではないアルバムを多く含んでいる。読む前に是非ご了承いただきたい。

 今年は207枚のアルバム(ミニアルバム含む)を購入/レンタルした。去年が149枚なので58枚増えている。それだけ発掘が充実した年だった。来年以降も引き続き色々なアルバムをチェックしていきたいと思う。

 ちなみに、10作品の中で順位付けはしていない。どれも良い作品だった。

 

スカート『20/20』

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 2017年リリース。上質なポップスを作るビックな男のソロプロジェクト、スカート。メジャーデビューして初めてのアルバムとなる。前作『CALL』もかなり良いアルバムだったが、今作はポップさがかなり強調されていて、一番バラエティに富んだアルバムだったんじゃないかと思う。曲も短めにまとまっているため、あっという間に聴き終えて、もう1回初めから聴きたくなる。おすすめ曲は『視界良好』。

 

スカート / 視界良好【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube

 

 

 

Jon Hopkins『Immunity』

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 2013年リリース。イギリス出身のアーティスト、ジョン・ホプキンスの4枚目のアルバムである。ジャンルはテクノもしくはエレクトロニカだろうか。前半は呻るような、後半は少し物憂げなトラックが並ぶ。崩壊一歩手前のメロディに、ピアノが時折乗り、怖さを見せながらも荘厳な雰囲気を漂わせるアルバムとなっている。おすすめ曲は『We Disappear』。

 

Jon Hopkins - "Open Eye Signal" (Official Music Video) - YouTube

 

 

 

Bonobo『Black Sands』

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 2010年リリース。イギリスのアーティスト、Bonoboの4thアルバム。Bonoboは今年、『Migration』というアルバムをリリースしていて、そちらも良かったのだが、初聴の衝撃度でこちらを選んだ。。叙情的な世界を連想させる楽曲群に、激しいわけではないが、しっかりと主張してくるビート。いつまでも聴いていられる傑作である。おすすめ曲は『Kong』。

 

Bonobo : Prelude - Kiara [Live] - YouTube

 

 

 

stream_error『old_loops』

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 2017年リリース。『Lo-fi Hip Hop』というジャンルがある。かなりざっくり説明すると、サンプリングしたループを古ぼけたような質感にし、そこにビートを乗っけたものである。今年Lo-Fi Hip Hopを知り、Bandcamp内で検索したときに出てきて、虜になったのがこのアルバムである。タイトル通り、サンプリング元を押し入れの片隅に長年置いたかのような質感のヒップホップが並ぶ。夕方これを聴きながら散歩するとかなり気持ちが上がってくる。

 

 

 

 

ムーンライダーズ『CAMERA EGAL STYLO / カメラ=万年筆』

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 1980年リリース。ムーンライダーズの5thアルバムである。まず、ジャケットが最高にカッコいい。ちなみにタイトルは映画理論から取られており、全ての曲が映画を作品をモチーフにしている。ニューウェーブに少し実験的要素を入れたこのアルバムは、リリースから35年以上が経った今でも色あせていない。リマスター版だと全ての曲のリミックスが収録されたCDも付いてくる。おすすめ曲は『太陽の下の18才』。

 ※公式の動画が見つからなかったため、リンクは無しです。

 

 

 

柴田聡子『愛の休日』

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 2017年リリース。柴田聡子の4thアルバム。日常のゆるい雰囲気を漂わせた楽曲群に、奇異な言葉を使わなくてもハッとさせることのできる歌詞。特にアルバム2曲目の『後悔』は2017年に聴いた曲の中で個人的に1番良かったんじゃないかと感じた。『後悔』について書いているとテンションがおかしくなってしまうので軽く触れるだけにするが、一見明るめの歌詞の最後に「たら」「れば」を多用することで明るい雰囲気を少し残しながらも、着地点を変えてしまう部分が最高なんですよね。おすすめ曲はもちろん『後悔』。

 ちなみにアルバムについては個別の記事もあるので、よろしければどうぞ。

komugikokomeko.hatenablog.com

 

柴田聡子「後悔」(Official Video ) - YouTube

 

 

 

2562『The New Today』

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 2014年リリース。オランダ出身のアーティスト2562の4thアルバム。今までのアルバムはテクノ色が強かったが、このアルバムは少し毛色が違うように思えた。持続する低音が不気味さを醸し出す『Arrival』、異国的なリズムとコズミックな音が混ざり合う『Terraforming』など、漆黒と神秘が両立されたアルバムになっている。おすすめ曲は『Terraforming』。

 

soundcloud.com

 

 

 

The Cinematic Orchestra『Every Day』

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 2002年リリース。イギリスの映画音楽的ジャズ集団、The Cinematic Orchestraの2ndアルバムである。ジャズをDJのような視点で編集し、しっとりとしたジャズの音世界に、現代的要素を注入したアルバムである。個人的にアルバム最大の山場はラッパーを起用した『All Things To All Men』である。もの悲しげなトラックに、落ち着いた口調のラップが入る、カッコいい曲になっている。夜に部屋で聴くとかなり合うアルバムだと思う。おすすめ曲は『All Things To All Men』。

 

 

 

 

Two Fingers『Stunt Rhythms』

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 2012年リリース。ブラジル出身のアーティストAmon Tobinの別プロジェクト、Two Fingersの2ndアルバム。Amon Tobin名義でもカッコいいアルバムをいくつも出しているが、こっちの名義はとにかくビートとベースがえげつなく、ヒップホップにビートの増強剤を注入した楽曲群が勢ぞろいしている。全てをなぎ倒していくようなビートが好みという人は絶対聴いたほうがいいと思う。おすすめ曲は『Snap』。

 

Fusq『Polarity』

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 2017年リリース。フランスのアーティスト、Fusqの2ndアルバム(曲数的にミニアルバムかもしれない)。Twitterでたまたま流れてきたのだが、一聴して好きになってしまった。音楽ジャンルの1つに『Kawaii Future Bass』という、日本のアニメやイラスト+フューチャーべースを合わせたものがある。このアルバムもそのジャンルに該当するのかもしれないが、このアルバムはかわいさはそのままに、ポップさより強調している。かわいい+エレクトロポップの模範解答の1つがこのアルバムなのかもしれない。おすすめ曲は『Inner (feat. MYLK)』。

 

 

 

 

 今年も音楽は最高だった。来年もたくさんのアルバムを購入できればいいと思う。

読書感想文:pha『人生にゆとりを生み出す 知の整理術』

 読書感想文の時間です。

 

pha『人生にゆとりを生み出す 知の整理術』(大和書房)

人生にゆとりを生み出す 知の整理術

人生にゆとりを生み出す 知の整理術

 

  世の中には自己啓発本というものが存在する。書店によっては1つのカテゴリになっているところもある。カテゴリになるということは、それだけ沢山の自己啓発本が巷にあふれているということだろう。

 私は自己啓発本をあまり読んだことが無い。この手の本は内容がすごいのではなく、成功した人がすごいという考えがあるため、自己啓発本を読んでも「ああ、私には無理そうだな」と思ってしまいそうだからだ。本に触発され、書かれている内容を試してみるが続かず、挫折してしまい自己嫌悪に陥る。自己啓発本は扱いを間違えると自己嫌悪本になってしまう。

 そんな私がなぜ、タイトルだけ見ると自己啓発本にしか見えないこの本を読もうと思ったのか。それは、著者が「少し違う人」だからである。

 著者のpha氏はニートである。働く気がなく、だらだらと過ごしているらしい。以前pha氏が出演していた『ザ・ノンフィクション』を見たことがあるが、働くことにつまづいたり、違和感を感じたりしている人々がシェアハウスをしていた。私は気が合う人たちで村を作って暮らせればいいのにと考えながら社会に潜っているが、その願望の解答例の一つを見た気がした(余談だが、番組放映時、社会人が憤ったり感化されているのを見て、Twitterには様々な人がいるのだなと改めて感じた)。

 自己啓発本を書かなそうな人が書いた自己啓発本。私は情報を手に入れるとすぐにAmazonで購入した。

 結論から言うと、衝撃的な内容ではなかった。どう情報をインプット/アウトプットしていけばいいのかを中心にこの本は進んでいくが、画期的な方法は出てこない。しかし、面倒くさがりが何かを学ぶにはどうしたらいいかが詳しく書かれていた。

 pha氏はかなり面倒くさがりで、長続きしない人物(だと自らを評している)らしい。そのため、「面倒くさがりな自分を計算に入れた学び方」を身に着けていったのだろう。

 例えば、スケジュールを立てるとき、「自分のダメさを計算に入れる」とpha氏は述べる。この考え方は盲点だった。確かに、ついつい自分がいつも同じような精神力で物事を進められるという、ありもしない予測を立ててスケジュールを立ててしまうことはままある。「自分のダメさを計算に入れる」というのは、言い換えると「余裕を持ったスケジュールを設定する」になると思う。余裕を持ったスケジュールを作り、実際に行動する。当たり前のように思えるが、なかなかできないのが現実である。

 また、情報をインプット/アウトプットするとき、pha氏は「覚えたいことを抱えて散歩をする」、「Twitterをアウトプットのウォーミングアップにする」など、面倒くさがりな脳を上手くコントロールするための方法を提示する。世の中には、脳にやる気を出してもらうことを前提としたライフハックも存在するが、この本は、自分の脳がすぐにやる気を無くし、面倒くさがるものだという前提で進んでいく。

 本を読んで、pha氏は面倒なことを回避するために、色々な策を尽くす人なのだろうと感じた。「面倒だからやらない」のではなく、「面倒だから手を打つ」のである。私も「面倒」だから、アウトプットをする練習をぼちぼちしていこうかなと感じた。

生まれてから一度もペペロンチーノを食べたことが無かった

 お食い初めという儀式がある。

 これは、人間が生まれて100日経過したときに、尾頭付きの鯛や赤飯などを用意する、「一生食べ物に困らないように」という願いをこめて行う儀式のことである。情報の初期アバターこと、Wikipediaから引っ張ってきた。

 Wikipediaに行くと、様々な事柄に関する情報が載っている。それらは一部例外もあるが、基本的な概要のみを載せている場合が多い。詳しい情報に関しては、自分で集めなければならない。そのため、Wikipediaは物事を初めて知るのには適しているかもしれないが、深く知ることができない。

 話が脱線した。ネットに散らばっているサイトの中には、生まれてから結構な日数が経過した人間がお食い初めを行う、『35歳からのお食い初め』という記事も存在する。

 私もつい先日、お食い初めをした。相手はペペロンチーノである。

 

 ペペロンチーノは、個人的に生きていくうえで必要可欠なものである。パスタ屋に行くとき、ペペロンチーノはほとんどの店で置いてあるが、私はミートソース系のパスタを食べることが多い。食べたことのないものを食べて失敗するよりは、味の想像がつきやすいものを食べたほうが生きやすいからだ。ちなみに、カルボナーラも生まれてから一度も食べたことが無い。私は味の想像がしにくい食べ物に関して、かなり慎重な態度を取るため、このような事態がしばしば起こる。

 以前、会話の中で「ペペロンチーノを生きてきて一回も食べたことが無い」という話をしたら、かなり驚かれてしまった。あんなに美味しいものを食べたことが無いのか、という表情をしていた。ペペロンチーノが好き/どちらかと言えば好きな人は結構多いため、アンチペペロンチーノの皆さんは、徒党を組んで革命などを起こしても数の力で制圧される危険性がある。是非一度考え直していただきたい。

 ペペロンチーノは美味しい食べ物らしい。しかし、唐辛子とニンニクの組み合わせは、今まで生きてきた経験則からすると、苦手な食べ物のような気がする。まあ、食べられなくても今後の生活に支障はない(はず)なので、意を決して食べてみることにした。

 ペペロンチーノをせっかく食べるのだから、あまり安いソースを買ってきて、「ああ、ペペロンチーノって予想通りあんまり美味しくないんだな」と早合点してしまうのは惜しい。少し高めのソースを買うことにした。

 スーパーに行くと、行列のできる店のペペロンチーノ、みたいな名前のソースが売っていたので、それを購入した。これが美味しければ行列は本物なんだなとなるし、美味しくなければ、メーカー側の考える行列は、私にとって行列ではないことになる。 

 買ってみたのは良いが、なかなか作る勇気がわかなかった。月曜日に食べておいしくなかったら週初めから鬱々とした感じになるし、週半ばで食べて美味しくなければ後半を乗り切るのが難しくなる。週末に食べてまずいと感じてしまったらせっかくの休日に傷がつきそうだし、休日に食べて口に合わなかったらせっかくの休みを無駄にした気分になる。なかなかペペロンチーノを食べるまでに時間がかかった。

 ソースを買ってから数週間が経った。自分へのご褒美(いかなる労働も苦しみなので、ご褒美を与え続けないといけない)としてクレープを買って帰った。パスタでも食べよう、おそらくミートソースがあったはずと思いながら麺を茹でていたが、肝心のミートソースが見つからない。上から、下から、左から、右から、と様々な視点に立って探してみるが、どこにもない。

 ふと見ると、ペペロンチーノソースが顔を出していた。食べるなら今だろうと思い、私はゆであがったパスタにペペロンチーノソースをかけた。

 よく混ぜて、テーブルに置く。保険その1として、市販のクラムチャウダーを用意した。また保険その2としてクレープもある。失敗してもリカバリーがきく。意を決して、ペペロンチーノを口に入れた。

 結論としては、そこそこ美味しかった。ミートソースを差し置いて食べようとまでは思わなかったが、今後の夕食のレパートリーに入れてもいいと感じた(しかし、今回使ったソースが美味しかっただけで、他のソースは口に合わないかもしれない。ペペロンチーノは食べられるが、ペペロンチーノ´、ペペロンチーノ´´は美味しくないのかもしれない)。

 ペペロンチーノを完食し、食後のデザートとしてクレープを食べた。思ったよりおいしくなく、まさかそっちでダメージを受けるとは考えていなかったので、動揺してしまった。人生は生き辛いものだ。

 

 まだ、カルボナーラは生まれてから一度も食べたことが無い。

 

私のための文フリ講座②(文フリ前日~当日)

 今回も文フリの話をします。今では遠い昔のことのように感じられます。

 

 前回、文フリに出るまでの流れについて書いた。今回は文フリ前日からの流れについて説明していくことにする。これを読むことで、今後文フリに初めて参加する際、どういう風に動けばいいのかが大体分かるシステムになっている。失敗談も書いていくので、皆さんは回避していきましょう。

 前回は、申込、印刷などについて話している。

komugikokomeko.hatenablog.com

 

【文フリ1週間前~2日前】

 どうにか入稿も終わり、印刷代の支払いも済ませた。しかし、文フリでは用意すべきものがいくつかある。手ぶらで行くと、大体厳しい思いをして帰ることになる。準備をする必要があるのだ。

 以下に準備しておくといいものをまとめておく。

①お釣り

 同人誌即売会では必ず必要になってくるものである。お釣りを用意しておかないと、買ったときにお釣りを渡すことができず、釣りはいらねえ状態を強制させることになり、買ったお客さんは悲しみになってしまうだろう。

 どの種類のお金を用意すればいいかは、自分が出す本によって変わってくる。500円で売るのであれば、お釣りに100円を用意する必要が無くなる。逆に321円で売る場合は、全種類の小銭が必要になってくる。

 枚数は使う種類の小銭×20枚あれば十分だが、文フリで本を売るのはなかなか難しい。この点は後述する。多ければ多いほど安心感は増すだろう。

 昼間仕事をしている人は、なかなか銀行に両替しにいけないため、日ごろから小銭をためておく、休憩時に銀行に行く、労働を辞めるなどの選択が求められる。

 

②敷布

 文フリの机はよくある木の長机である。素材そのままだと、少し見栄えが悪い。そこで、テーブルクロスなどの敷布があると良い。1ブースは横90㎝×縦45㎝×高さ70cmなので、できれば横は90cmが望ましい。縦は45cm以上あればどれくらい長くても良い。長机の下は丸見えなので、荷物などが見えてしまい、ごちゃごちゃした印象を与える場合がある。長机の下が隠れるくらいだと見栄えが良くなる。

 色は何色でも構わないが、あまり濃い色だと本が目立たなくなる危険性がある。薄めの色が良いだろう。

 

③POP

 本をブースに並べたときに、どういうタイトルで値段はどれくらいなのかが分からないと、とっつきにくいし、お金を払いづらくなる。そのため、POPを用意しておいたほうが良い、タイトルと値段などは最低限書いてあると親切である。

 また、小説など一定の量がある本は、中身が想像しにくくなる。そのため、少しだけ読んでも内容が全く分からない場合も多い。ジャンルとあらすじを書いたものを置いておくと、お客さんに対して親切だと思うし、見本誌を手に取りやすくなる。

 

④ポスター

 文フリを観察して思ったのが、お客さんは一定の速度でブースを見て回る。小さいPOPだけだと、あまり目につかない可能性がある。

 ポスターがあると、お客さんの目に留まる可能性が増える。A3のポスターをいくつか貼っておくだけでも、ある程度は変わってくると思う。

 また、長机の前に貼っておくことで、敷布の高さが足りなくても、ある程度ブースの足元が丸見えになるのを防ぐことができる。

 

⑤ブックスタンド

 本を平積みした場合と、縦に置いた場合では、お客さんからの見え方が変わってくる。平積みだとだいぶ近づかないと見えないが、ブックスタンドなどで立てかけた状態で置くと、少し離れていても目に留まるようになる。角度は意外に重要なのだ。

 

⑥見本誌

 文フリには見本誌コーナーが存在する。指定時間内に見本誌コーナーに本を置けば、多くの人が手に取ってくれる可能性が出てくる。文フリに行くと、見本誌コーナーに多くの人が集まっている。

 見本誌コーナーだけではなく、ブースにも1つ、見本誌を置いたほうが良い。お客さんが気になったとき、見本誌がないと読んでいいか迷ってしまうからだ。見本誌を置くことで、本をざっと読んでもらいやすくなり、買ってくれるお客さんも現れてくる。

 

 以上の6点が文フリに参加して、最低限あったほうが良いと感じたものである。

 

【文フリ前日】

 チェックリストを作り、用意するものをしっかりカバンなどに入れ、早く寝る!!

 私は用意できなかったものがあり、当日バタバタすることになった。

 

【文フリ当日】

 ここからは自分の感想が中心になってくる。

 当日、寝坊することなく目覚める。支度をし、POP用の画用紙を購入する。しっかり準備しておけばよかったと後悔する。

 電車に乗り、10時前に東京流通センターに到着する。ポスターの印刷をしに、近くのコンビニに向かうが、コピー機は結構な行列になっていた。列がスムーズに進むことを祈って、並び始める。しかし、列はなかなか動いてくれない。皆、文フリやその他のイベントで使う冊子などを印刷しているからだ。焦りから苛立ってきて、コピー機で動画でも見ているのではないかと勘ぐってしまう。10時過ぎにコピー機に並んで、コピーし終えたのは10時35分頃だった。

<教訓>印刷物は東京流通センターに着く前に全て済ませる

 

 サークルチケットをメンバーに渡し、急いで会場内に入る。自分のブースを見つけ、両隣のブースに挨拶をすませ、準備に取り掛かる。しかし、初めての参加だったので手間取る。その結果、開場時刻の11時になっても設営が完了しなかった。POPなども急いで書く。全てが慌ただしく動いていく。三四郎の漫才は(おそらく)計算されたガチャガチャ感だが、こっちは計算されていない、ただのガチャガチャだった。設営テクニックがなかったので、エナジーでごまかした。

<教訓>慌てず準備ができるように、時間に余裕をもって入場する

<教訓>POPなどは前日に作っておく

 

 開場と同時に人がわっと入ってくる。ゾンビ映画みたいだ。ロンドンゾンビ紀行は面白いのでお勧めです。私のサークルは、小説の合同誌と短歌集を頒布していた。

 1時間ほどして気づいたのだが、小説はなかなか手に取りづらい。短歌集は少し読むと自分の好みかどうかが薄ぼんやりと分かるが、小説、特に合同誌だと内容が掴みにくい。思い付きでどんな小説かをキーワードにして貼りだす。しかし、友人の小説はともかく、私の小説は「図書館は食虫植物だという主張をする首を吊られた男」「100回再翻訳をした文章」「遺灰投げを頑張る大学生」という、キーワードにしても全く内容を掴めない小説だったので、果たして意味があったのかどうかわからない。あらすじなどをまとめた冊子を見本誌の隣に置いておくと、とっつきやすくなるのかもしれない。

<教訓>小説は内容を提示するのが難しいため、対策を打ったほうが良い

 

 私は短歌集を15部、小説の合同誌を20部刷っていた。初めてにしては多く刷ったように見えるかもしれないが、小説に関しては友人たちから購入希望があったので、ほとんど売れなくてもある程度は捌けることが決定していた。持つべきものは友人と珪藻土バスマットである。

 正午あたりにフォロワーの方から差し入れをもらった。予想外の出来事だったので、言語野が破壊され、ア行しか話せなくなってしまった(お菓子、美味しかったです)。Twitterをやっていて、初めてプラスの出来事があった。7年間Twitterをやっているが、年々人間味が薄れているような気がしてならない。

 短歌集に関してはぽつぽつと売れていった。Twitterで流れていた短歌を見て購入してくださった方もいた。売れていくのを見るのはとても嬉しい。

 隣のサークルを見ると、かなり本の装丁を凝っているようだった。また、ブースのレイアウトもおしゃれだった。そういった努力もあってか、表紙に惹かれて見本誌を見ている人も多かったように思える。表紙は本の顔、ブースレイアウトはブースの顔なので、凝ったほうがお客さんを惹きつける力も強くなるのだろう。

<教訓>本の装丁(特に表紙)、ブースレイアウトは凝ったほうが目を引く

 

 店番を友人に任し、ブースを回る。お目当ての本はほとんど変えたので良かった。私は短歌が趣味であるため、短歌のブースを見る回数が多かったが、活気があった。

 全てのジャンルのブースを回ってみると、やはりブースレイアウトや表紙が凝っているところ、ポスターが目を引くところ、キャッチフレーズが秀逸なところはお客さんが見本誌を手に取っている回数が多かった。やはり、みんな顔が大事なのだ。

 友人たちに、先に昼食を食べに行ってもらい、友人´たちと再び店番をした。朝から何も食べていなかったので、お腹が減って死にそうだった。死んでいたのかもしれない。死んでいた。今も死んでいるようなきがする。生きる気が死んでいる。死ぬ気が死んでいる。死ぬ。その時は死んでいた。今日も死んでいる。明日も死ぬだろう。

 友人たちが帰ってきたので、友人´たちとカレーを食べに行った。前に文フリに行った時もカレーだった。インドカレーらしく、インド感があった。しかし、インドに行ったことが無いため、前と同じく、架空のインド感である。

 カレーを食べていると、私のところに人が尋ねてきた。ナイス害さんという、短歌(すごい)をやっている人だった。動揺したため、言語野が破壊され、ア行しか言えなかった。基本的に動揺するとア行しか喋れなくなる。社会が怖い。名刺をいただいたが、私には何も渡すものがないため、無を渡した。

 その後、ぽつぽつと短歌集は売れていったが、小説はほとんど売れなかった。

 17時になり、文フリが終了した、荷物を段ボールにまとめて、宅配便で送る。遠方から着ている人は、段ボールを用意しておくか、会場搬入であれば本の入った段ボール箱があるのでそれに荷物を入れるかして、持って帰る荷物を減らしておくといいだろう。

 片づけを終え、会場を出た。結果としては、文フリの会場で短歌が9部、小説が2部売れた。短歌は半分以上売れたため、予想より良かったが、小説は案の定苦戦した。友人たちに頼まれた分を抜くとほとんど本は捌けたのでとりあえず安心した。

<教訓>初めて参加する人は、当てがない限り、頒布部数は少ないほうがいい

<結論>色々失敗はあったが、本を手に取ってもらえるとかなり嬉しい

 

【終わりに】

 文フリにサークルとして参加してみると、結構バタバタしたり、苦労したりする場面が多い。初めて参加する方はなおさらだろう。

 しかし、目の前で本が売れていく喜びというのは計り知れないものがある。即決で買ってくれる人、見本誌を一通り眺めて買ってくれる人、様々な人がいるが、どれも嬉しいことに変わりはない。

 なかなか名が売れていないと、頒布した本を買ってくれる方は少ないかもしれない。おそらく、「本を売りたい」という人よりは「本を出したい、あわよくば見てもらいたい」という人のほうが心が折れなくて済む。本を手に取ってもらえるだけでも幸せなことなのだ。

 文フリに参加すると、色々自分の至らないところが見えてきて、次はもっといい小説(短歌、俳句、詩、評論)などを作ろうとか、もっと良いブースを作ろうなど、次へ向けてやりたいことが増えていく。自分が文芸を通じてやってみたいことの発表の場として、文フリは存在するのだと思う。

 

 来年も文フリに参加しようと思う。この次は、もっととんでもないものを作って発表してみたい。

 この文章(前編、後編)を読んで、1人でも文フリに来場してみたい、出店してみたいと思う方がいれば幸いである。

 

 終わりでーす。