深夜にテレビを見ながら横になっていると、ふと起きている世界と寝ている世界が混ざり合って、音声が意味をもたなくなる時がある。そして大体の場合そのまま寝落ちしてしまう。
最近はテレビを見る機会がめっきり減ったが、パソコンで動画を見ている時に寝落ちをすることがしばしばある。その時もぼんやりと形を失った音声が流れているような感覚になる。これは動画に意識が向いていないために起こる現象だろう。
深夜に起こりがちなこの感覚を能動的に発生させるのは難しい。発生させる条件として、寝落ちをすることが挙げられるが、寝落ちは意図的に発生させることが難しい。疲れていないと延々とテレビや動画を繰り返し見ているだけになってしまうし、疲れすぎていると寝落ちに入る直前の感覚をすっ飛ばして眠ってしまう。程よく疲れている状態で動画をある程度長い時間見なければならない。
寝落ち寸前になり、意味を失った音が降り注いでくる時、起きている状態では体験できないような状態になる。この状態を体験したいが、寝落ちを伴った睡眠から覚醒した時の「やってしまった」という絶望感は味わいたくない。この感覚を疑似的に体験するものはないか。今回は寝落ち寸前の感覚を疑似的に体験できるアルバムを紹介する。 This Program is Brought to You, Bye.の『群馬ハイヌーン』である。
奇妙なタイトルである。群馬の正午。何を指しているのだろうか。結論から言うと、おそらく何も意味はない。
このアルバムはヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)というジャンルに属する。ヴェイパーウェイヴについて簡単に説明すると、昔の大衆的な音楽やスーパーでかかっていそうなBGM、CMを素材にして、それらを加工(テンポを変える、ぶつ切りにしてループさせる)した音楽の総称である。当ブログにもヴェイパーヴェイヴに関する記事があるので、そちらも紹介しておく。
また、ヴェイパーヴェイヴの特徴の1つとして、「曲・アルバムのタイトルやアーティスト名にちぐはぐな日本語が使われている」ことが挙げられる。今回紹介する『群馬ハイヌーン』も、とりあえず日本語を使っているだけで、意味は無いと思われる。
『群馬ハイヌーン』は、CMやテレビ番組からサンプリング(過去の曲の一部や日常の音を引用し、再構築して新たな楽曲を製作する音楽製作法・表現技法)された素材が大量に使用されている。素材例としては、『さわやか三組』のオープニング曲、天気予報などが挙げられる。Aメロやサビなどはほぼ存在せず、素材が時々テンポを変えながらループするばかりである。このアルバムを聴いて、テンションが上がったり、心を揺さぶられて泣いたりする人はほとんどいないだろう。
私としては、このアルバムは正座してしっかり聴くものではなく、夜中にぼんやりと聴くほうが合っていると思う。布団にもぐりながら聴いていると、ループする素材が蒸気のように漂っていき、寝落ちする寸前の感覚を味わえることだろう。聴く際に体力を使うような音楽でないところも、眠る前に聴くのに最適であるポイントの1つである。
また、このアルバムには映像がついている。Youtubeやニコニコ動画で見ることができるので、見てみるといいかもしれない。深夜にぼんやりとテレビを見る感覚が一層思い起こされることだろう。
ちなみに、『群馬ハイヌーン』はBandcampで無料ダウンロードが可能である。アルバムをアップロードしているレーベルであるChilodiscでは、他にも様々なアルバムをアップロードしているので、気になる方はそちらも聴いてみてほしい。
寝落ち寸前トリップ音楽、なかなか無いジャンルかもしれない。
[CHILO-002] 群馬ハイヌーン by competor 音楽/動画 - ニコニコ動画