コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

寿司打をひたすら記録する(1~100回目)

 皆さんは、タイピングがどれくらい素早くできるだろうか。私は、人より若干早いくらいかなと思っている。

 中学生の時に『もなちゃと』という、2チャンネルのAAのキャラでチャットができるサイトがあった。まだサイトは現存していた。どれくらいまだ人がいるのだろうか。やっている人の年齢層はどんなものだろうか。

 もなちゃとを利用していた時はタイピング速度が遅く、他の人と会話をしていて追い付かない。ネットの世界では、そのタイピング速度についていけないとダメなのだなと感じたものだった。それからTwitterをはじめ、大学に入ってWordを使用してレポートを書き、さらにブログや小説を始めたことで数千字、時には数万字という文章をタイピングした結果、タイピング速度は向上し、今ではブラインドタッチもできるようになった。しかし、指の運び方が独学なので、最適な運び方ではないと自覚している。

 

寿司打について

 最近、久しぶりに寿司打をやった。寿司打とは、回転寿司のように流れてくる単語や文章をタイピングしていって、設定されたコースの金額をどれだけ上回れるかを競うゲームである。

http://typingx0.net/sushida/

 

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 ゲームスタート画面である。

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 コース選択。難易度とコースを選ぶ。

 

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 このように単語が流れてきて、お皿が画面から消えるまでにタイピングし終わるとスコアを得ることができる。失敗せずにタイピングし続けると右上の連打メーターがたまっていき、1~3秒のタイムボーナスを獲得できる。

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  結果画面である。スコアと、『正しく打ったキーの数』『平均キータイプ数』『ミスタイプ数』が表示される。

 

 お手軽コースが一番簡単かつ時間もかからない(制限時間が1分)。やり始めると結構楽しくて、何回も挑戦してしまった。

 そして、ふとこんな考えが頭に浮かんだ。

『寿司打をひたすらプレイすると、タイピング速度はどれくらい向上するのだろうか』

 

 個人的に興味がわいたので、実際に挑戦してみることにした。

 まず、どういった環境でプレイするか書いておきたい。

WebGL版『寿司打』をプレイする

・ゲームモードは『普通』、コースは『お手軽3000円コース(制限時間60秒)』

・一度プレイしたらどんなにミスタイプしても中断しない

・全体および100回ごとの平均値、中央値、最頻値、最高値、最低値、6000円を超えた回数、6000円超え率をエクセルで記録する

・100回が終わるごとに、e-typeingで腕試しテストを行い、記録をチェックする

 

 他にも平均キータイプ数やミスタイプ数も記録したほうがいいのだろうが、あまり記録する項目が多いと嫌になりそうだったため、記録しないことにした。

 また、6000円を超えてくると、ランキングの上位10%あたりに入ってくる。6000円を超える率が上がっていけば、タイピング力がある程度は向上していると言っていいだろう。

 e-typeingとは、インターネットでタイピング練習ができるサイトで、『腕試しレベルチェック』として、スコアを計測してくれる。

www.e-typing.ne.jp

 

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 毎回、テーマに関連した文章をタイピングしていく。

 

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 プレイ中の画面。

 

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 結果画面。スコアやレベル、タイピングの正確率、苦手キー、タイピングに関する格言めいたものが表示される。

 ちなみに寿司打の記録をつける前の最高スコアは295である。100回毎にレベルチェックをしていき、スコアがどう変化していくのかを見ていく。

 その他に関しては、続けていって必要なものが分かってきたら適宜追加していくことにする。

 

 説明も一通り終わったため、この意味のない終わりの見えない戦いの始まりを載せていきたいと思う。

 

寿司打(1~100回目まで)

 3月7日からこのチャレンジはスタートした。そして3月26日に100回目を達成。

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 エクセルにひたすら寿司打の記録をつけていく様子。かなりアナログな方法である。もっと楽な方法があるのかもしれないが、私にはシステムに対する知識が乏しい。知識、珪藻土バスマットと同じくらい欲しい。

 

 1~100回の結果が以下のとおりである。

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 40皿で5640円になるため、平均値としては30皿後半あたりになる。タイムボーナスをしっかり貰えるか(ミスタイプをいかにしないか)が重要なのだが、それに気を取られすぎるとタイピング速度が遅くなり、スコアが伸びない。200回に到達したときにこの数値たちがどう変化していくのかが気になるところだ。

 

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 100回やり終えた後の腕試しの結果、スコアが以前より13伸びているが、その時の気分や体調によっても変化しそうであるため、何回も行っていく必要がありそうだ。

 

 とりあえず飽きるまでは続けていこうと思うので、もし1000回まで続いたら自分で自分を褒めたいし、1万回続くようなことがあったら、世界で一番寿司打のお手軽コースをプレイした人間と自負してもよいだろう。自分で自分を褒めるのは、穏やかに生活するためには欠かせないことである。

新潟駅から歩いて行ける古本屋、『古本もやい』

 もうすぐ4月になり、人々がいつも以上にどこかからどこかへ移動するようになるが、去年の話をしていこうと思う。

 

 ここ1年くらいの私の趣味の1つとして、古本屋巡りがある。一般の書店ではなかなか手に入らない本や漫画が見つかったりすることもしばしばあり、宝探しをしている感覚になる。また、お店ごとに色々表情があって面白い。棚が整然と並んでいるお店もあれば、本の壁がそこかしこにそびえ立っているお店もある。

 東京に比べると、新潟は古本屋然とした古本屋が少ない。ブックオフは沢山あるのだが、内装が大体一緒なのでワクワク感は少し薄れる。また、ブックオフは駅の近くよりも、ロードサイドにあることが多い。そのため、車を持っていない私はブックオフに関しても、限られた店舗しか行くことができない。手持ちの交通手段が少ないと、地方では厳しい戦いを強いられることが多い。皆さんはどのような手札を持っていますか。私は徒歩、自転車、バス、電車です。私より多かったですか? 少なかったですか?

 新潟駅から歩いて行けるところにある古本屋がないか探していたところ、『古本もやい』というお店がヒットした。

furuhonmoyai.wixsite.com

 新潟駅から徒歩15分。歩ける距離だ。営業時間は金・土・日の12時から18時らしいが、事前連絡を行えば柔軟に対応してくれるらしい。ホームページによると、多種多様なジャンルを扱っているらしい。

 早速行ってみようと思い、お店をインターネットから見つけた数日後、お店へと向かった。新潟駅から歩いていき、様々なお店を通り過ぎる。私が通ったルートにはラーメン二郎新潟店があった。1回行ってみたいと思っているが、なかなか気力と予定と営業日がかみ合わない。

 やがて屋根付きの歩道が始まり、数分で終わった。終わってすぐのところにお目当てのお店はあった。看板は小さいが店の前に古本が並べられているので、通り過ぎてしまうことはなかった。

 外にある本を色々見てみる、主に文庫本が並んでいたように記憶している。筒井康隆の小説で持っていないものがあったので買うことにする。

 店の中に入ると、大まかなジャンルごとに本棚が配置されている。中にも持っていない筒井康隆の小説があったのでさらに買うことにする。

 絵本や児童書もあるし、新潟に関する本もある。画集や雑誌もあったように記憶している。また、漫画も奥のほうに置いてある。そういえばつげ義春の『ねじ式』って有名だけど読んだことないなと思い、購入することにする。購入してもう半年以上経過するが、まだ読めていない。そのうち読むかもしれないし、まだまだ読まないかもしれない。後で未来の私に聞いてみることにしてみよう。

 私は短歌を作ったり読んだりすることがあるので、詩歌関係の本の品揃えが気になってしまう。詩歌の棚があったので見てみると、新品で谷じゃこさんの『ヒット・エンド・パレード』が売っていた。私も文学フリマで購入したのだが、まだ読めていない。買う量と読む量が全然釣り合っておらず、天秤も買う量のほうに下がりっぱなしだ。もう壊れているのかもしれない。ちなみに去年の冬あたりに行ったときは、小笠原鳥類さんの『鳥類学フィールド・ノート』が売っていた。値段からして新品らしかった。小笠原さんの詩は『小笠原鳥類詩集』で読んだことがあったが、分からず、ただ魚や動物やおはようございます。どろどろに溶けているような文章に見えた(それは増大しています(ように思えます。おはようございます。

 店内ではBGMが流れていて、レジ横に流れている曲が収録されたCDが置いてあった。安藤裕子が流れているときもあったし、くるりが流れているときもあった。

 買う本を決め、レジへ向かう。店主さんと軽くお話をした気がするが、よく覚えていない。会話は輪郭だけが残り、中身は風化していくのだろうか。

 次もまた来ようと思い、新潟駅へと戻った。

 

 その後も数回お店に行き、本をいくつか購入した。覚えている本をいくつか列挙しておく。

 

舞城王太郎『淵の王』

ウィリアム・バロウズ裸のランチ

花輪和一刑務所の中

などなど

 

 そこそこの冊数を購入したような気がするが、あまり覚えていなかった。上2つはまだ読めていない。あと3人くらい私が欲しい。そして私を含めた4人で一緒に本を読めば、4倍のスピードで本が読めるのではとも思ったが、私が増えた場合、読書をしたときの感情や思考が共有されるかが不確定だ。共有されなければあまり意味がない行為になってしまいそうだ。

 

 最後に、お店の情報を記載しておく。

furuhonmoyai.wixsite.com

 上にも貼り付けてあるが、もう一度お店のホームページを載せたいと思う。扱っている本のジャンルや営業日、アクセス、店主さんについてなどが記載されている。店主さんは3人いるらしい。私は1人しか見たことがない。

 記事上にも営業時間と大雑把なアクセスを書いておく。詳しい情報はホームページをご覧いただければと思う。

 

営業時間:金・土・日 12:00-18:00(事前連絡をすれば曜日、時間に関しては対応してくれるとの記載あり)

アクセス:新潟駅万代口から徒歩15分くらい。駅から往復すればそこそこいい運動になりそうだ。

 

https://twitter.com/furuhonmoyai

 お店のTwitter。営業しているかどうか確認できる。

 

 旅行や何かしらの用事で新潟駅に来た時、是非立ち寄ってみてほしい。

柴田聡子『がんばれ!メロディー』

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 2019年リリース。シンガーソングライター、柴田聡子の5枚目のアルバム。

 

 2017年にリリースされた4枚目のアルバム、『愛の休日』に収録されている『後悔』という曲を聴いたとき、久しぶりに一聴き惚れをした。春の暖かさを感じさせるような曲調と、最後に<たら><れば>という仮定形を多用することによって、不穏さを漂わせてくる歌詞。聴いた次の日にちょうど東京出張があったため、すぐさまアルバムを購入した。

www.youtube.com

 

 今回のアルバムでは、弾き語りを基調とした曲が前作より減り、バンドとしての一体感が強調された仕上がりになっている。これはバンド編成(柴田聡子 inFIRE)のメンバーが全面参加していることも大いに関係しているだろう。

 また、今まで以上にポップでキャッチーな曲が揃っている。小気味いいギターと存在感のあるベースが魅力的な1曲目『結婚しました』、アルバムの中でも一番真っすぐにポップな2曲目の『ラッキーカラー』と、この季節に聴くのにピッタリな明るさでアルバムが始まっていく。散歩しながら聴いていると、とても気持ちがいい。

 存在感のあるベースとそれを支えるドラムを中心に進んでいくA、Bメロから、サビで漂うようなギターを聴かせる5曲目の『涙』、アコースティックギターの後ろで少し寂しそうに鳴るフリューゲルホルンが印象的な6曲目の『いい人』で少し落ち着かせて、しばらくすると、打ち込み主体なのに繰り返されるフルートと歌詞が耳を離れない怪曲『ワンコロメーター(ALBUM MIX)』や、日本のどこか奥地の踊りをイメージさせる『セパタクローの奥義(ALBUM MIX)』がやってくる。

 

 そして柴田聡子の曲が私の心を捉えて離さない重要の要素として、歌詞が挙げられる。『結婚しました』の最初のサビ(夢見た~の部分)の、夢のために今日を<乗り越える>のではなく、<やりすごす>という部分に見られる生活の実感、最後の(離されない手~の部分)、『離されない手』という言葉に見受けられる相手への信頼感。この部分で声が張りあがるのも好きだ。

www.uta-net.com

 中でも『涙』は格別に良かった。Bメロ(うれしい今よりも~の部分)の、茶柱が立っていたという現在の嬉しさよりも、まだ起こるとは確定していない良い出来事・それに付随してくる感情を信じるところにもグッとくる。大サビに入る前に2回続く<わかった全部>の声の張り上げ方の違い、大サビのわたしと<あなた>の対比、<いくつ>と<ひとつ>から出てくるふたりの隔たりを個人的に解釈したときの衝撃はすごく、散歩のスピードをゆるめてしまった。

※私の話になるが、一番精神的に参っていた時期にPVがYouTubeにアップロードされた。聴いているうちに何だかとても救われている気がして、アルバムを購入するまでに30回以上は繰り返し聴いた。

 

www.uta-net.com

 

 歌詞の存在感とところどころに見られるヘンテコな部分はそのままに、前作以上のポップさ、キャッチーさを獲得した『がんばれ!メロディー』、是非色んな人に聴いていただければと思う。知っている人なら貸します。それくらいこのアルバムにのめりこんでいる。

 

【トラックリスト】

01. 結婚しました
02. ラッキーカラー
03. アニマルフィーリング
04. 佐野岬
05. 涙
06. いい人
07. すこやかさ
08. 心の中の猫
09. ワンコロメーター(ALBUM MIX)
10. 東京メロンウィーク
11. ジョイフル・コメリホーマック
12. セパタクローの奥義(ALBUM MIX)
13. 捧げます

 

がんばれ!メロディー

がんばれ!メロディー

 

 

www.youtube.com

 

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ガルマン歌会200回記念歌会に参加しました

 何かしらの集まりを200回行うのはとてつもない道のりである。月1回ペースだと16年近くかかる。仮に毎日行った場合でも約7か月弱かかる。7か月あったら何ができますか? 私は衣替えができます。

 

 3月の初めに、ガルマン歌会200回記念歌会に参加した。この歌会について参加レポートを書いていきたい。

 ガルマン歌会について簡単に説明しておくと、谷川由里子さん、堂園昌彦さん、五島諭さんの三人が中心となって始められた歌会で、月1回ほど行われている。

 歌会でトップになると、ガルマンという称号が手に入る。そして、次の回の司会を担当することになる。開催場所や選(良いと思う短歌を選ぶ)の方法も決められるらしい。私も去年2回参加した。トップになって新潟にガルマンを持って帰ってしまい、取り戻しに行こうとする人々がみんな上越新幹線のトンネルの長さに辟易して参加できず、ガルマンを永遠に確保できると思っていたが、2回ともトップは取れなかった。

 今、この文章を書いている私のことを知らない人もいるかもしれないので、自己紹介をしておくと、橙田千尋(とうだちひろ)と言います。短歌や小説を作っていて、新潟とインターネットによくいます。Twitterでは米粉というアカウント名で存在しています。

 

 ある日、ガルマン歌会200回記念歌会に関するメールが届いた。場所は阿佐ヶ谷ロフト。阿佐ヶ谷ロフトってライブやトークイベントなどをするところだというイメージだったが、歌会もできるのか。確かに、歌会はモラルに反していない場所ならばどこでやってもいいはずだ。海の中でプカプカ浮き輪につかまりながらやっても構わないのだろうし、指がしわしわになりそうだが。

 チケットアプリで参加申し込みを行い、その日から短歌を考える。当日はまず予選歌会があり、そこでトップを取った人が決勝歌会に進むことができる。決勝は壇上で行い、そこでトップだった者がガルマンオブガルマンの称号を得るのだ。ガルマンオブガルマンになりたかったので、短歌をうんうん考えることにした。

 しかし、2月中旬に精神がきびし~いになってしまい、短歌を考えられる状態ではなくなってしまった。それでも何とか考えて、締め切りギリギリに提出した。その後当日までに決勝歌会用の短歌を作った。

 

 当日、電車で阿佐ヶ谷へと向かう。1時間ほどかかるので、バッグの中にある筒井康隆の小説を読むか、SCP-261(異次元自販機)の実験記録を読むか迷い、結局SCPの記事を1時間読む。

ja.scp-wiki.net

 電車は東京に向かうにつれどんどん混みあってきて、ほぼ満員になる。息苦しくなってきてしまい、体調が下り坂になっていくのが分かったが何とか新宿までたどり着く。改札を抜けて、東急ハンズでバインダーを購入する。阿佐ヶ谷ロフトでは机のスペースを確保するのが難しいため、持ってきておくと便利だと事前に通告されていたためだ。

 中央線で阿佐ヶ谷駅へ向かう。ここでもSCPの記事を読んでいた。

 受付開始10分前あたりで阿佐ヶ谷駅に到着。昼ご飯を食べておかないと夕方まで持たなそうだと思ったがあまり時間もないしお腹も減っていない。緊張で気持ち悪くなってくる。どうにかこうにかマクドナルドでハンバーガーを食べる。私はいつもピクルスを抜いてもらう。ハンバーガーを食べていて、いきなりピクルスに出会うのは自分にとって好ましくない出来事だからだ。ポケモンでスムーズに洞窟を抜けようとしているのに、出口付近でいきなりバトルが発生して、相手がズバットばっかり出して来たら何か嫌じゃないですか。ピクルスはズバット

 歩いて数分で阿佐ヶ谷ロフトに到着。受付を済ませ、先に二次会代を支払い名札を受け取る。大人数だと誰が誰だか分からないので、名札があるとかなり助かる。その後参加する予選グループが告げられる。6つのグループがあるうち、私はAだった。 

 Aグループの詠草を受け取って、テーブルへと向かう。メロンソーダを注文した後に、ウィルキンソンジンジャエール(辛口)があったらしいことを知り、そっちにすればよかったかなと少し後悔する。始まる前にざっと詠草に目を通す。私の短歌は予選を通過できるだろうか。しかし、Aグループのメンバーを見ていたら、あ、これは厳しいのではないかと思ってしまう。メロンソーダを持つ手も震えてくる。ガルマン歌会に参加すると毎回手の震えが生じるのだが、どうすればいいのでしょうか。ゆるやかに助けてください。

 私のことを知っている人が話しかけてくださったりしているうちに、会場は参加者でいっぱいになり、開始時刻になった。

 

 司会の吉田恭大さんから歌会の説明があった後、予選歌会がスタートした。予選歌会の司会は記念歌会のスタッフが行う形だった。Aグループは吉田恭大さんだった。

 最初の15分は詠草を読む時間だった。じっくりと読み、2首を選ぶ。その後、票数が伝えられた。頼む、トップであってくれ、うわ、1首目そこそこ入ったな、ああ、2首目もかなり入った、3首目も入ってる、雲行きが怪しくなってくる。ついに私の歌の票数が吉田さんの口から発せられた。2票。この時点で決勝歌会への道は閉ざされた。ショックではあったが、この場に集まった歌のためにしっかりと評をしなければならない。気を取り直して評をしていった。

 歌会には何回か参加しているので、話すこと自体には慣れてきたのだが、歌から感じ取ったことを相手に伝わるように言う、自分が票を入れた短歌の良い部分を、他の人にも共有してもらえるように話すのにはまだまだ難しさを感じる。また、その場では読み取りきれない歌も存在するので、その時は歌に申し訳ないなと思う。最初はそこまで印象に残らなかった歌でも、他の人の評を聞いたあとに読み取れなかった部分が接続されて行って、後々良い歌だったとなるときがある。そういった評ができるのは一体いつになるのかは分からないが、努めていければと感じた。

 予選歌会が終わり、各グループのトップが決勝歌会へと進む。決勝歌会の準備が行われている間休憩が入り、以前歌会でお会いした人や話しておきたかった人と少し会話をする。気さくさが足りないので全く面識のない人と会話をするのをためらってしまう。気さくさはみんなどこで手に入れているのだろう。地元のホームセンターで尋ねてみたところ、そこに無いのなら無いですねと言われてしまった。気さくになることはとても難しい。

 決勝歌会は壇上で行われ、予選で敗退した人たちはオブザーバーとして参加することになった。決勝に進出した6人が1首選を行い、さらにオブザーバーによる投票で1位だった人がプラス3票、2位が2票という形だった(1位がプラス2票、2位が1票だっただろうか。そこに関しては少し曖昧です)。

 決勝なのでかなりバチバチピリピリとした歌会になるのではと予想していたが、かなり和やかな雰囲気だった。司会の染野太郎さんもタイムキープを行いながらも和やかな雰囲気で歌会を進行していた。オブザーバー投票が6首目中3首目で締め切りになってしまったので、評を聞けたものと聞けなかったものが出てしまったが、タイムスケジュール上なかなか難しい部分もあるのかもしれない。

 決勝に上がった皆さんは、詠草を読み込む時間が少なかったのにもかかわらずしっかりと評を行っていて、しかもあまり緊張している様子もこちらからは窺えなかったので、さすが決勝に上がった人々だなと感じた。私がもし決勝に上がっていたら、アガッてしまって要らないことまで言ってしまいそうだ。

 決勝歌会の結果の集計されている間に、下北沢・高円寺を中心に活動を行っているバンド、『のっぺら』のライブが行われた。

 のっぺらについては全く情報を持っていなかったので、一体どういうバンドなのだろうと思いながらライブの準備が行われていく。珍しかったのはギター、ベース、バンドの他にアコーディオンがいたことだ。自分が今まで聴いてきたバンドやアーティストの中に、アコーディオン担当のメンバーがいなかったため、どういう音楽性なのだろうと興味を持ちながら待機していた。

 ライブが始まると、アコーディオンが曲に牧歌性を与えていて、でもボーカルが結構声を張って歌っていたのでメリハリがあった。特に最後の曲を歌っているときの声の張り上げ方が良かった。普段CDはそこそこ購入するのだが、ライブはほとんど行ったことがなかったので、生で聴いてみるとドラムやベースの迫力、ボーカルの力強さ、アコーディオンの情緒のある音色が全身で伝わってくる。お金が存在したらライブも色々行ってみると楽しいなと感じた。アルバムもその場で販売してくれるとのことで、歌会が終わった後購入した。

 ライブが終わった後、いよいよ決勝歌会の結果発表になった。結果、睦月都さんと御殿山みなみさんの歌の票数が同点ということになり、最後はじゃんけんでの戦いになった。1回目はふたりともチョキであいこ。2回目もふたりともチョキであいこ。同じ手であいこが続くと、運というよりは心理戦の要素が強まっていく。3回目、睦月さんは手を変えてパー。対する御殿山さんは……チョキだった。

 この瞬間、ガルマンオブガルマンが決定した。

 勝った後、ステージで立ち尽くす御殿山さんを見て、私はM-1とろサーモンが優勝した時の村田さんを思い出した。あの時も一瞬、自分の身に何が起こったのか頭の認識が追い付いていない様子で、大舞台で勝った時、喜びが頭に入ってくるまで人は立ち尽くしてしまうのだな、という気付きがあった。睦月さんには直接お話を伺ってはいないが、相当悔しかっただろうなと思う。ガルマンオブガルマンに指がかかりかけていたのだから。

 最後に主催である谷川さんと堂園さん、そしてスタッフの方が壇上にあがり、谷川さんと堂園さんが締めの言葉を行った。私たちは何も頑張っていないと谷川さんはおっしゃっていたが、記念の歌会に60人以上も参加者が集まるような、行きたくなる歌会を運営し続けているのはとてつもなくすごいことだと思う。一参加者として頭の下がる思いである。

 

 その後、近くの居酒屋で懇親会が行われた。諸事情で現在お酒が飲めないので、私はソフトドリンクを飲んでいた。私の座っていたテーブルには、最初法橋ひらくさん、渡辺アレハンドロさん、決勝歌会に進出した杉本茜さん、のっぺらのドラムを担当しているグレート橋本さん、鈴木ちはねさんがいた。窓からパン屋さんが働いているのが見えた。私側のテーブルは人の入れ替わりがちょこちょこあり、途中谷川さん、私、堂園さんという私の肩身がぎゅんぎゅん狭くなる場面があったり、私の両端が一旦いなくなり面接みたいなフォーメーションになったりしたが、楽しく会は進んだ。

 私を短歌の世界に引っ張ってくれた歌集が2つあり、そのうち1つの作者である伊舎堂仁さんとも話すことができた。しかし私があまりに緊張してしまい、うまく口が回らなかった。口、ギュインギュイン回るように話してみたいものだ。

 懇親会も後半に差し掛かったころ、渡辺さんに、「目の形良いですね」と唐突に褒められた。今まで目の形を褒められたことが一度もなかったため、困惑してしまった。さらに「目の形がクジラみたいでいいですね」と褒められた。これで褒められたのは2回なので、12年に1回ペースである。次は2031年に目の形を褒めてくれる人が目の前に現れると思う。

 杉本さんと法橋さんはクジラに少し同意していて、伊舎堂さんと私はピンと来ていなかった。もしピンときていないのが私だけだったら、四面楚歌になってしまうところだった。今回の場合はだと四面クジラ目でしょうか。分かりません。目の形を、クジラを引用して褒めてくれた人に会ったことがなかったので、この例えは家帰って風呂場で鏡見た時に思い出すだろうなと感じた。今度お会いした人は、私の目を見て大海原を感じてほしい。

 その後も話がはずみ、惜しまれながらも懇親会が終わった。デザートに出てきたアイスキャンディーが余っていたのだが、どうなったのだろうか。様々な味があったらしいが、私はパイン味しか食べていないのでその真偽は不明である。世の中にはまだまだ知らない味がたくさんあるのだ……。

 帰り際、決勝歌会に進出したシロソウスキーさんに挨拶をする。嬉しいことに名前を認識してくださっていた。

 その後三次会などがあったのかもしれないが、私は二次会が終わった後帰宅したのでどうなったかは分からない。

 体力をかなり消耗していたらしく、帰りの電車では9割5分寝ていた。実家に戻って風呂に入り、体を洗っているときに鏡を見て、クジラみたいな目かあと思った。その後も時々その喩えを思い出している。

 

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ガルマン歌会で使用した名札。返却するのを忘れてしまった。返したほうがいいのだろうか。あと、ガルマン歌会に関する写真がこれしかなかった。看板の写真とか撮っておいたほうが行った感がぐっと出てくる。

 

 200回記念歌会はとても楽しかったのだが、やはり決勝歌会に進出して優勝してみたかったなとしみじみ思った。優勝した時はどういう視界になるのかとても気になる。

 また、短歌に関してももっと精進しないといけないなと感じた。1月に水沼朔太郎さんが主宰しているネットプリントに参加して以降、精神的な問題もありほとんど短歌を作っていなかった。最近少しずつ穏やかになってきたので、自分がこれだと思う短歌・連作を作って発表していければと感じた。改めてこういう気持ちにさせてくれたガルマン歌会に感謝している。

 

 次は2026年頃だろうか。ガルマン歌会300回記念歌会に向けて、今からウォーミングアップを始めていきたい。

サイモン・シン『フェルマーの最終定理』を読みました

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは数が好きですか?

 あなたは数学が好きですか?

 

 学生時代、授業や講義で数学を習う場面は多々あったのだが、私はどうしても数学が得意になれず、好きにもなれなかった。高校では元々理系コースを選択していたのだが、上述した数学や化学・物理への苦手意識と、さらに国語・地歴が得意だったことも重なり結局文転したのだった。

 計算としての数学は苦手なのだが、知識としての数学に対する苦手意識はなかった。モンティホール問題(3つの扉を使った確率の問題、検索すると色々引っかかるはず)など、数学上のtipsは面白いと感じるし、懸賞金がかけられている問題があると知った時には、数学の証明されていない問題が、ゲーム内のボスのように存在するのだなと、少し興味をそそられた。中身を見ても、何がどうなっているのか分からないものばかりだったが。

 そういった難問たちの中で、唯一私でも問われていることについて理解できたのが『フェルマーの最終定理』と呼ばれているものである。この定理の内容は以下の通りである。

 

3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しないという定理 ※nは指数

 

 言われていることは理解できるのに証明することはかなり難しく、この定理に関するフェルマーのメモが日の目を見てから300年以上経過した1995年に、アンドリュー・ワイルズによってついに証明された。

 なぜこの定理が『フェルマーの最終定理』と言われているかは、フェルマーが書き残したメモが元になっている。

 

「私はこの定理について真に驚くべき証明を発見したが、ここに記すには余白が狭すぎる」

 

 何という思わせぶりなメモだろうか。しかし、このメモによって300年以上に及ぶ数学者たちの闘いが幕を開けたのだ。そして、その戦いの記録をまとめた本が、サイモン・シンフェルマーの最終定理』である。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 

【以下ネタバレがあります】

 

 この本では、フェルマーの最終定理だけではなく、紀元前の数学の起こりについても記載されている。数学がどのようにして学問として発達していったのかが説明され、そこからフェルマーに影響を与えた書物が生み出されていく。

 その後、フェルマーの生涯と定理との出会い、その後300年に及ぶ数学者たちの進歩と挫折、そして決着をつけたアンドリュー・ワイルズの孤独な闘いについて記載されている。

 この本では、沢山の登場人物と計算式が登場する。その中には偉大な数学者として数学に多大な影響を残したレオンハルト・オイラーや、若くして亡くなった悲劇の天才、エヴァリスト・ガロアといった有名どころから、数学の他にその当時の偏見とも闘わなければならなかった数学者も登場する。数学という大河ドラマを一気に見ているような気持ちになる。

 本の後半ではアンドリュー・ワイルズを中心に話は進んでいく。その中には日本人である谷山豊と志村五郎も登場する。彼らも、ワイルズの証明に影響を与えた。

 長年数学が蓄積したテクニックと、新しいテクニックを総動員して、フェルマーの最終定理の攻略を試みるワイルズ。300年間人々を返り討ちにしてきた証明という魔物を、ワイルズが成長して一歩一歩攻略への道を進んでいくようで、もはや冒険譚とも言える。

 ドラマを見ていると感情移入して今うことが時々あると思うが、この小説も同じで、最後ワイルズが問題点を打破して、証明を完成させたときには、脳内でロッキーのエンディングが流れていた。それくらい心を乗せられるのだ。あんなに学生時代苦手だった数学によって。

 後半に出てくる数式や専門用語は分からないものもあったが、そこで挫折することなく読み続けられるのは、数学者や数学の魅力を存分に表現している作者の力があるのだろう。壮大なドキュメンタリーとしての数学がこの本では提示されている。

 

 数学で挫折したことがある皆さんも、数学をテーマにしたドキュメンタリーを一度読んでみませんか。

 

セレクトCDショップ『more records』に行きました

 精神が暗めのドローンアンビエントみたいになってきたので、再び正月頃の楽しかった思い出について書いていきたいと思う。

 

 普段新品・中古問わずCDショップに出かける。新潟にもCDショップはあるのだが、個人的なストライクゾーンに来るCDがなかなか見つけられない。レコードショップは割と見つかっても、CDショップは大手くらいしかなかったりする。残念ながら私はレコードを聴く術を持っていないので、CDが専門になる。

 bandcampなどの音楽直販サイトを使うこともある。そういったものは記憶しているアルバムか、たまたま聴いてよかったアルバムを購入する際には適しているが、記憶の隅にある、あったら欲しいアルバムを思い起こすことはできにくい。

 最近ではApple MusicやSpotifyなど、有料の音楽配信サービスも人気である。これらのサービスのおかげで、聴きたいけどCDとして購入するにはお金が……という方でも、どんどん音楽を聴くことができるようになった。個人的には何となく使っていないけれども。

 時々東京に行く機会があるので、時間がある時はタワーレコードに行ったり、ディスクユニオンなどの中古CDショップを巡ったりしている。ディスクユニオンも場所や建物ごとに強いジャンルが違うので、数店舗巡る。

 1枚1枚CDを見て、探していたものや絶版になっているもの、掘り出し物に出会えるとたまらなくテンションが上がる。例えば、The KLFの『Chill Out』というアルバムは廃盤になっている。

Chill Out

Chill Out

 

  そのためAmazonで購入すると新品で8000円以上、中古だと配送料を含め3000円以上からだが、ディスクユニオン下北沢店で500円以下で購入することができた(傷は少しついていたが)。

 CDショップ巡りもルートがある程度決まってしまうと、少なからず弱点も存在するようになる。タワーレコードでは個人的に好きなジャンルのCDが売っていないことがあり(テクノ、ハウスなどのクラブミュージック、エレクトロニカアンビエントなど)、ディスクユニオンでは欲しいアルバムをピンポイントで探し当てるのが難しい。また、中古なので状態が少し良くないものもある。それは仕方ないかもしれないし、キズの状態も書いてくれているので親切ではあるのだが。

 

 ネットで色々調べていたところ、埼玉の大宮に『more records』というCDセレクトショップがあることが分かった。私は元々埼玉に住んでいたのだが、そのようなお店があることは知らなかった。

 去年あたりから行ってみたいと思っていたが、新潟に普段は住んでいるため、なかなか行ける機会がなかった。なんで大宮は大宮にあるのだろう。私の住んでいる場所にあればいいのに。

 正月に帰省した際、ついにチャンスがやってきた。幸い、埼玉にいるときにお店が開いていた。

 大宮駅の東口を出て大体5~10分くらいのところにお店がある。ワンタンメンが有名な大宮大勝軒が近くにあると言って分かる人は大宮について詳しい人です。握手をしましょう。

 建物は2階にあって、階段が少し狭い。その時私は新潟に帰るためにスーツケースを持っていたので苦労した。その時は店員さんのご厚意でスーツケースを置かせていただいたが、CDが結構置いてあるので、大きな荷物を持っている人は駅のコインロッカーを活用したほうがいいと思う。

  店に入ると、壁に添うようにCD棚があり、中央にその時おすすめしているCDや、様々なコンセプトのもとチョイスされたCDが置いてある。また、冬だったのでストーブもあった。中では店員さん(店主さん?)が常連の方と音楽の話をしていた。

 ジャンルはインディーロック、クラブミュージック、ヒップホップ、ジャズ、エレクトロニカアンビエントと多種にわたるが、街中のCDショップではなかなか見つからないものが多く置いてある。個人的にはストライクゾーンにズバッと入ってくる品揃えだった。また、イヤホンなども販売しているらしい。

 店内にはいくつかiPodが設置してあり、気になるアルバムを視聴してみたり、iPodのアーティスト一覧から欲しいCD、気になっているCDを探し出すこともできる。面白そうだけど、なかなか買うにはお金のこともあって勇気がある1枚を視聴できるのはかなり嬉しい。

 iPodのアーティスト一覧に、私の好きなアーティストの1人であるTim heckerが載っていた。アンビエント系の曲を制作するアーティストだ。アルバムを見ると新作がリストにあったため、探してみるがなかなか見つからない。もう1人いる店員さんに在庫があるか尋ねてみると「昨日最後の1枚が売れてしまいまして……」という回答が来た。Tim heckerが売り切れることってあるんだなと、なんだかしみじみしてしまった。私の前にアルバムを買ったあなた、良いアルバムでしたか? 私はまだ買えていません。

 その後アルバムを物色し、3枚ほど購入した。購入する際に少し店員さんの1人と少しだけ話をした。新潟市はそこまで雪が降らないというあるあるを言った。穏やかな方だった。また、お会計の際に2018年のおすすめアルバムが載った小冊子をいただいた。

  今回は自分が欲しいアルバムを購入したが、セレクトCDショップとのことなので、次に訪れた時はおすすめのアルバムを聴いてみようと思った。なかなか自分のアンテナだと、自分の好きなジャンル、レーベル、アーティストしか拾えなくなってくるので、他の人のおすすめを聴いてみたい気持ちがある。

 ちなみに通販も行っているらしい。地理的な事情、金銭的な事情、いあいぎりを使えるポケモンがいないなど、なかなか埼玉に来ることができない人は、ネットを活用してみてもいいだろう。サイト内のアルバム紹介ページには、コメントと動画がついているのも個人的にはかなり嬉しい。

 また、『モアレコラボ』という、おすすめの音楽を共有する場をネット内に作ったり、実店舗内でも音楽ライブも時々行っている。ネットとリアルの両方で、音楽のための場を提供しているのだ。

 

 こうして、私のCDショップ巡りに1つ、楽しみな場所が増えた。上に挙げたジャンルの音楽が好きな方は、一度訪れてみてほしい。ついでに大宮の美味しいラーメン屋を教えますよ。

 

morerecords.jp

 

 

【好きな短歌⑦】白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない/山階基

白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない

/山階基『コーポみさき』(角川『短歌』2018年11月号収載)

 

  髪を切りに行くというのは、大体1~2か月程度のスパンで行われる生活のイベントで、前回と今回の間にあった話を、美容師とすることもあるだろう。

 主体は美容師のある街から引っ越すことがほぼ決まっている。美容院も変えなければならないくらいの距離に、引っ越し先はあるように思える。会話の中で言うタイミングが無かったのだろうか、白い布を外されて、もう髪を切る作業も終盤という段階になってもまだ主体は引っ越しを美容師に伝えない。

 この白い布はシャンプーをするときに顔に覆われる布なのか、髪を切るときに服の上から覆われる布なのか、どちらだろうと思ったが、『白い布』を『はずされ』るなので、服の上から覆われる布だと思う。

 次に髪を切るのは1~2か月後ならば、もう主体は引っ越しを終えて、別の街にいることも十分考えられる。

 また、主体は髪を切ってもらう担当の美容師が大体同じなのかもしれない。少しだけ美容師のことを知っていて、相手も主体のことを少しだけ知っている。だから、引っ越しをする = 少しだけ知り合っているという関係の解消を、伝えておいたほうがいきなり来なくなるよりも角が立たないから、伝えようかなと思っている。

 この歌では、美容室に通ったという<過去>、引っ越しを伝えていない<現在>、そして髪が伸びたころにはもう引っ越しているだろう<未来>が浮かび上がり、時間的な広がりを感じさせてくれる。それらの時間は、壮大な概念としての時間ではなく、主体や美容師の暮らしに基づいた時間だ。

 また、白い布は清潔なイメージがあり、明るい美容室を頭の中に浮かばせる。さらに『はずされながら』という動作の最中が描かれることで、歌の中の空気が動き、美容師の慣れた手つきや声、鏡にうつる髪を切りたての主体、それと引き換えに床に散らばった髪の毛などが喚起され、静止画としてではなく、何かの映画のワンシーンを見ているような心持ちになるのだ。

 

 この歌は『コーポみさき』という50首連作の1首目で、連作は主体と『きみ』が引っ越しをしてともに暮らしていくまでを描いている。

 美容師に白い布を外される = 髪を切るという動作が終わるところから連作が始まっていく。主体も住んでいた街での生活が終わり、新しい街での生活が始まる。何かが終わることは、別の何かが始まっていくことだよなあと思いつつ、この歌で私は連作に入り込み、1つ1つ生活の粒子を丁寧に描いた歌たちに心を動かされた。

 今度ご本人に会う機会があれば、直接歌たちに心を動かされたことをお伝え出来ればと思う。

 

 連作『コーポみさき』が乗っている雑誌は以下から購入ができます。

www.amazon.co.jp