コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

サイモン・シン『フェルマーの最終定理』を読みました

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは数が好きですか?

 あなたは数学が好きですか?

 

 学生時代、授業や講義で数学を習う場面は多々あったのだが、私はどうしても数学が得意になれず、好きにもなれなかった。高校では元々理系コースを選択していたのだが、上述した数学や化学・物理への苦手意識と、さらに国語・地歴が得意だったことも重なり結局文転したのだった。

 計算としての数学は苦手なのだが、知識としての数学に対する苦手意識はなかった。モンティホール問題(3つの扉を使った確率の問題、検索すると色々引っかかるはず)など、数学上のtipsは面白いと感じるし、懸賞金がかけられている問題があると知った時には、数学の証明されていない問題が、ゲーム内のボスのように存在するのだなと、少し興味をそそられた。中身を見ても、何がどうなっているのか分からないものばかりだったが。

 そういった難問たちの中で、唯一私でも問われていることについて理解できたのが『フェルマーの最終定理』と呼ばれているものである。この定理の内容は以下の通りである。

 

3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しないという定理 ※nは指数

 

 言われていることは理解できるのに証明することはかなり難しく、この定理に関するフェルマーのメモが日の目を見てから300年以上経過した1995年に、アンドリュー・ワイルズによってついに証明された。

 なぜこの定理が『フェルマーの最終定理』と言われているかは、フェルマーが書き残したメモが元になっている。

 

「私はこの定理について真に驚くべき証明を発見したが、ここに記すには余白が狭すぎる」

 

 何という思わせぶりなメモだろうか。しかし、このメモによって300年以上に及ぶ数学者たちの闘いが幕を開けたのだ。そして、その戦いの記録をまとめた本が、サイモン・シンフェルマーの最終定理』である。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 

【以下ネタバレがあります】

 

 この本では、フェルマーの最終定理だけではなく、紀元前の数学の起こりについても記載されている。数学がどのようにして学問として発達していったのかが説明され、そこからフェルマーに影響を与えた書物が生み出されていく。

 その後、フェルマーの生涯と定理との出会い、その後300年に及ぶ数学者たちの進歩と挫折、そして決着をつけたアンドリュー・ワイルズの孤独な闘いについて記載されている。

 この本では、沢山の登場人物と計算式が登場する。その中には偉大な数学者として数学に多大な影響を残したレオンハルト・オイラーや、若くして亡くなった悲劇の天才、エヴァリスト・ガロアといった有名どころから、数学の他にその当時の偏見とも闘わなければならなかった数学者も登場する。数学という大河ドラマを一気に見ているような気持ちになる。

 本の後半ではアンドリュー・ワイルズを中心に話は進んでいく。その中には日本人である谷山豊と志村五郎も登場する。彼らも、ワイルズの証明に影響を与えた。

 長年数学が蓄積したテクニックと、新しいテクニックを総動員して、フェルマーの最終定理の攻略を試みるワイルズ。300年間人々を返り討ちにしてきた証明という魔物を、ワイルズが成長して一歩一歩攻略への道を進んでいくようで、もはや冒険譚とも言える。

 ドラマを見ていると感情移入して今うことが時々あると思うが、この小説も同じで、最後ワイルズが問題点を打破して、証明を完成させたときには、脳内でロッキーのエンディングが流れていた。それくらい心を乗せられるのだ。あんなに学生時代苦手だった数学によって。

 後半に出てくる数式や専門用語は分からないものもあったが、そこで挫折することなく読み続けられるのは、数学者や数学の魅力を存分に表現している作者の力があるのだろう。壮大なドキュメンタリーとしての数学がこの本では提示されている。

 

 数学で挫折したことがある皆さんも、数学をテーマにしたドキュメンタリーを一度読んでみませんか。

 

セレクトCDショップ『more records』に行きました

 精神が暗めのドローンアンビエントみたいになってきたので、再び正月頃の楽しかった思い出について書いていきたいと思う。

 

 普段新品・中古問わずCDショップに出かける。新潟にもCDショップはあるのだが、個人的なストライクゾーンに来るCDがなかなか見つけられない。レコードショップは割と見つかっても、CDショップは大手くらいしかなかったりする。残念ながら私はレコードを聴く術を持っていないので、CDが専門になる。

 bandcampなどの音楽直販サイトを使うこともある。そういったものは記憶しているアルバムか、たまたま聴いてよかったアルバムを購入する際には適しているが、記憶の隅にある、あったら欲しいアルバムを思い起こすことはできにくい。

 最近ではApple MusicやSpotifyなど、有料の音楽配信サービスも人気である。これらのサービスのおかげで、聴きたいけどCDとして購入するにはお金が……という方でも、どんどん音楽を聴くことができるようになった。個人的には何となく使っていないけれども。

 時々東京に行く機会があるので、時間がある時はタワーレコードに行ったり、ディスクユニオンなどの中古CDショップを巡ったりしている。ディスクユニオンも場所や建物ごとに強いジャンルが違うので、数店舗巡る。

 1枚1枚CDを見て、探していたものや絶版になっているもの、掘り出し物に出会えるとたまらなくテンションが上がる。例えば、The KLFの『Chill Out』というアルバムは廃盤になっている。

Chill Out

Chill Out

 

  そのためAmazonで購入すると新品で8000円以上、中古だと配送料を含め3000円以上からだが、ディスクユニオン下北沢店で500円以下で購入することができた(傷は少しついていたが)。

 CDショップ巡りもルートがある程度決まってしまうと、少なからず弱点も存在するようになる。タワーレコードでは個人的に好きなジャンルのCDが売っていないことがあり(テクノ、ハウスなどのクラブミュージック、エレクトロニカアンビエントなど)、ディスクユニオンでは欲しいアルバムをピンポイントで探し当てるのが難しい。また、中古なので状態が少し良くないものもある。それは仕方ないかもしれないし、キズの状態も書いてくれているので親切ではあるのだが。

 

 ネットで色々調べていたところ、埼玉の大宮に『more records』というCDセレクトショップがあることが分かった。私は元々埼玉に住んでいたのだが、そのようなお店があることは知らなかった。

 去年あたりから行ってみたいと思っていたが、新潟に普段は住んでいるため、なかなか行ける機会がなかった。なんで大宮は大宮にあるのだろう。私の住んでいる場所にあればいいのに。

 正月に帰省した際、ついにチャンスがやってきた。幸い、埼玉にいるときにお店が開いていた。

 大宮駅の東口を出て大体5~10分くらいのところにお店がある。ワンタンメンが有名な大宮大勝軒が近くにあると言って分かる人は大宮について詳しい人です。握手をしましょう。

 建物は2階にあって、階段が少し狭い。その時私は新潟に帰るためにスーツケースを持っていたので苦労した。その時は店員さんのご厚意でスーツケースを置かせていただいたが、CDが結構置いてあるので、大きな荷物を持っている人は駅のコインロッカーを活用したほうがいいと思う。

  店に入ると、壁に添うようにCD棚があり、中央にその時おすすめしているCDや、様々なコンセプトのもとチョイスされたCDが置いてある。また、冬だったのでストーブもあった。中では店員さん(店主さん?)が常連の方と音楽の話をしていた。

 ジャンルはインディーロック、クラブミュージック、ヒップホップ、ジャズ、エレクトロニカアンビエントと多種にわたるが、街中のCDショップではなかなか見つからないものが多く置いてある。個人的にはストライクゾーンにズバッと入ってくる品揃えだった。また、イヤホンなども販売しているらしい。

 店内にはいくつかiPodが設置してあり、気になるアルバムを視聴してみたり、iPodのアーティスト一覧から欲しいCD、気になっているCDを探し出すこともできる。面白そうだけど、なかなか買うにはお金のこともあって勇気がある1枚を視聴できるのはかなり嬉しい。

 iPodのアーティスト一覧に、私の好きなアーティストの1人であるTim heckerが載っていた。アンビエント系の曲を制作するアーティストだ。アルバムを見ると新作がリストにあったため、探してみるがなかなか見つからない。もう1人いる店員さんに在庫があるか尋ねてみると「昨日最後の1枚が売れてしまいまして……」という回答が来た。Tim heckerが売り切れることってあるんだなと、なんだかしみじみしてしまった。私の前にアルバムを買ったあなた、良いアルバムでしたか? 私はまだ買えていません。

 その後アルバムを物色し、3枚ほど購入した。購入する際に少し店員さんの1人と少しだけ話をした。新潟市はそこまで雪が降らないというあるあるを言った。穏やかな方だった。また、お会計の際に2018年のおすすめアルバムが載った小冊子をいただいた。

  今回は自分が欲しいアルバムを購入したが、セレクトCDショップとのことなので、次に訪れた時はおすすめのアルバムを聴いてみようと思った。なかなか自分のアンテナだと、自分の好きなジャンル、レーベル、アーティストしか拾えなくなってくるので、他の人のおすすめを聴いてみたい気持ちがある。

 ちなみに通販も行っているらしい。地理的な事情、金銭的な事情、いあいぎりを使えるポケモンがいないなど、なかなか埼玉に来ることができない人は、ネットを活用してみてもいいだろう。サイト内のアルバム紹介ページには、コメントと動画がついているのも個人的にはかなり嬉しい。

 また、『モアレコラボ』という、おすすめの音楽を共有する場をネット内に作ったり、実店舗内でも音楽ライブも時々行っている。ネットとリアルの両方で、音楽のための場を提供しているのだ。

 

 こうして、私のCDショップ巡りに1つ、楽しみな場所が増えた。上に挙げたジャンルの音楽が好きな方は、一度訪れてみてほしい。ついでに大宮の美味しいラーメン屋を教えますよ。

 

morerecords.jp

 

 

【好きな短歌⑦】白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない/山階基

白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない

/山階基『コーポみさき』(角川『短歌』2018年11月号収載)

 

  髪を切りに行くというのは、大体1~2か月程度のスパンで行われる生活のイベントで、前回と今回の間にあった話を、美容師とすることもあるだろう。

 主体は美容師のある街から引っ越すことがほぼ決まっている。美容院も変えなければならないくらいの距離に、引っ越し先はあるように思える。会話の中で言うタイミングが無かったのだろうか、白い布を外されて、もう髪を切る作業も終盤という段階になってもまだ主体は引っ越しを美容師に伝えない。

 この白い布はシャンプーをするときに顔に覆われる布なのか、髪を切るときに服の上から覆われる布なのか、どちらだろうと思ったが、『白い布』を『はずされ』るなので、服の上から覆われる布だと思う。

 次に髪を切るのは1~2か月後ならば、もう主体は引っ越しを終えて、別の街にいることも十分考えられる。

 また、主体は髪を切ってもらう担当の美容師が大体同じなのかもしれない。少しだけ美容師のことを知っていて、相手も主体のことを少しだけ知っている。だから、引っ越しをする = 少しだけ知り合っているという関係の解消を、伝えておいたほうがいきなり来なくなるよりも角が立たないから、伝えようかなと思っている。

 この歌では、美容室に通ったという<過去>、引っ越しを伝えていない<現在>、そして髪が伸びたころにはもう引っ越しているだろう<未来>が浮かび上がり、時間的な広がりを感じさせてくれる。それらの時間は、壮大な概念としての時間ではなく、主体や美容師の暮らしに基づいた時間だ。

 また、白い布は清潔なイメージがあり、明るい美容室を頭の中に浮かばせる。さらに『はずされながら』という動作の最中が描かれることで、歌の中の空気が動き、美容師の慣れた手つきや声、鏡にうつる髪を切りたての主体、それと引き換えに床に散らばった髪の毛などが喚起され、静止画としてではなく、何かの映画のワンシーンを見ているような心持ちになるのだ。

 

 この歌は『コーポみさき』という50首連作の1首目で、連作は主体と『きみ』が引っ越しをしてともに暮らしていくまでを描いている。

 美容師に白い布を外される = 髪を切るという動作が終わるところから連作が始まっていく。主体も住んでいた街での生活が終わり、新しい街での生活が始まる。何かが終わることは、別の何かが始まっていくことだよなあと思いつつ、この歌で私は連作に入り込み、1つ1つ生活の粒子を丁寧に描いた歌たちに心を動かされた。

 今度ご本人に会う機会があれば、直接歌たちに心を動かされたことをお伝え出来ればと思う。

 

 連作『コーポみさき』が乗っている雑誌は以下から購入ができます。

www.amazon.co.jp

HASAMI group『MOOD』

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 2018年リリース。リーダーである青木龍一郎氏を中心に活動するバンド、HASAMI groupの19thアルバム。19thアルバムってすごい。

 

 HASAMI groupの特徴は、美しいメロディの曲と鬱屈とした世界が全開の曲が混ぜこぜになった、ロック、ポップ、ヒップホップなどを飲み込んだ一言でコレと言えない世界感だと思う。アルバム事に美しさと鬱屈の割合が変わっていくのだが、このアルバムはかなりバランスが取れていて、初めて聴く人にもうってつけのアルバムだと思う。人にもお勧めしやすい(『Heart Wire Tapping』というアルバムがあるのだが、1曲目のイントロダクションで女性器の名前を言ったり、2曲目が『PENIS THUNDER』など、何も知らない人にお勧めしにくい感じはある )。

 このアルバムで提示されるムードは、曲ごとに時にゆるやか、時に激しく変化していく。1曲目の『PIANO』、2曲目の『君の街は』で提示される生活は穏やかながらもどこか晴れないところもあって、曲調も穏やかながらも明るくなりすぎない、なりきれない部分を孕んでいる。

『Internet Lovers』から『特盛!万引きイスカンダル』でその雰囲気が暗い方向へ傾いていく。歌詞もリリックめいてきて、何かに対する鋭さを増す。

 7曲目の『夢の泡立ち』は前半のハイライトだろう。手洗いの歌でここまで心を動かされる曲調になるのか。サビで繰り返される<手>とピアノ、後ろで鳴らされるノイジーなギターが私たちの胸を高鳴らせてくれる。

 アルバムのインタールードと、ムードの変化の役割を兼ねている表題曲『MOOD』『白舟』を経て、鬱屈とした世界観の『カズマの面白FLASH倉庫』『ショック情報』『リストカット・ディズニー』が立て続けに流れていく。そういえばおもしろフラッシュ倉庫について、フラッシュの作り手側ではなく見ていた側から言及する曲って無かったような気がする。この3曲はピアノのリフレインが耳から離れないし、リリックも意味から逸脱しながらも意味不明ではなく、さらっと韻を踏んでいくところがクールだ。

 MCバトルで社会が理不尽な強さで、作詞者<青木龍一郎>を殴っていく『HIKIKOMORI MC BATTLE vol.3』、シンプルな展開の曲に生々しい薄気味悪さ全開の歌詞がのった『Cameraman』と、HASAMI groupの鬱屈した面がこれでもかと出た後、穏やかな曲調の『Quietly Start』へ急に移行するので、もはやこのアルバムのムードを掴めなくなっている自分に気づいた。ムードってこんなに掴みどころのないものなのか、生活とは、人生とは……

 しかし、最後の『景色がほしい』のイントロのブラスが聴こえた時、そして<逃げ続けてきた人生が晴れて今日無罪となった>という歌詞が聴こえてきたとき、私はこのアルバムに全肯定されたような気になって、思わず泣きそうになるのだ。

 

 ちなみに、アルバムはbandcampからダウンロードできる。また、青木氏のYoutubeアカウントでは、MOODのアルバムが丸ごとアップロードされた動画(!?)があるので、そちらも参考にどうぞ。

 

【トラックリスト】

1.PIANO
2.君の街は 
3.Internet Lovers 
4.俺の癇癪に施設が騒然 
5.特盛!万引きイスカンダル 
6.とうきょう銀粉 
7.夢の泡立ち 
8.立ちすくむ国家 
9.MOOD 
10.白舟 
11.カズマの面白FLASH倉庫
12.ショック情報 
13.リストカット・ディズニー 
14.異次元 
15.HIKIKOMORI MC BATTLE vol.3 
16.Cameraman 
17.Quietly Start 
18.景色がほしい

 

 

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正月にボードゲームカフェへ行きました

 最近は精神がダークアンビエントみたいになってしまったため、今までにあった楽しい話を書いていきたいと思う。文章やら声を出していかないと不安になるという側面もある。

 今年の正月にボードゲームカフェに行った。年末年始は実家で過ごしたのだが、年も明けると一気に空気が間延びするというか、精神が煮込みすぎたお餅みたいになるので、友人たちと遊びに行くことにした。幸い友人も煮込みすぎたお餅になっていたのか、何人かが手を挙げてくれた。自分を含めて4人で遊ぶことになった。

 遊びのレパートリーを頭の中で考える。カラオケ、ボーリング、ご飯を食べる、いやご飯を食べるのは遊びの後でいいだろう、麻雀、などと考えているうちに1つの結論へと至った。

 ボードゲームカフェに行こう。

 以前、ボードゲームカフェを利用したことがあったのだが、それなりの値段で何時間も過ごすことができるし、カラオケやボーリングに比べるとある程度空いている可能性がある。友人たちにその旨を提案すると同意を得られたので、予約をすることにした。

 ボードゲームカフェとして有名なお店に、『JELLY JELLY CAFE』がある。都内に何店舗かあり、以前もその中の水道橋店を利用したことがあったので、今回も系列店を狙うことにした。

 『JELLY JELLY CAFE』のメリットの1つとして、ネットから予約をすることができる。今回もネットで予約ができるか探していたが、行きたい日時は埋まっている店が多い。正月は皆、煮込みすぎたお餅なのだ。なんとか池袋2号店が空いていたので、急いで予約を取った。

 

 当日、箱根駅伝に後ろ髪を惹かれつつ池袋へ向かう。食べ物が持ち込み自由なので、店舗への道すがらお菓子をいくつか購入する。ちなみに飲み物は持ち込み不可である。集合時間10分前に店の前に到着すると、既に友人の一人は来ていた。駅伝の話で少し盛り上がる。そうこうしているうちにもう1人やってきたが、残り1人が来ない。無情にも集合時間は過ぎ、無念の繰り上げスタートとなった。

 前払い式なので、受付時に料金を払う。三が日のため土日のデイタイム扱いとなり、2000円(1ドリンク付き)だった。最大5時間遊べるので、単純計算で1時間400円である。ドリンクはジンジャーエール(辛口)にした。つまり甘口も存在する。その他にもソフトドリンクが数種類とアルコールがあった。

 ドリンクはすぐ運ばれてきて、一口ジンジャエールを飲むと想像以上に辛くてむせてしまった。こんな味だったっけな。ちなみに、飲み物を置くコースター(?)が特徴的で、テーブルに強くくっついているため、腕が当たってもビクともしない。熱中しすぎてドリンクが手にあたり、大惨事ということも起こりにくい仕様になっているのだ。ちなみに、ジンジャエール(辛口)は瓶で運ばれてきたこともあり、コースターよりもかなり瓶が小さく、フィットしてはいないため少し気を付ける必要があった。

 

 最初はすぐ終わるゲームにしようということになり、『ストライク』というゲームを行った。
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 ざっくりとしたルールは、『手持ちのサイコロを場に振って、ゾロ目が揃うとサイコロを獲得。順番に振っていって最後までサイコロを持っていた人の勝利』である。詳しくは上記リンクを見てほしい。なお、この後もいくつかゲームが登場するが、詳しい説明はリンクを見たほうが早いので、ご了承願いたい。

 ゾロ目にならなければ何回もサイコロは増えるので、意外に獲得はしやすいが、その分手持ちが減る。しかも、サイコロの目に1つだけ×があり、それが出てしまうとゲームからそのサイコロは除外されてしまう。ぶつけるように投げて、美味いことゾロ目を作って場からサイコロを減らし、相手に得をさせないようにするのが肝になってくる。

 このゲームでは調子が良く、3戦2勝だった。1人バーサーカーがいたため、ちょくちょくサイコロを場外へ飛ばしていた。ちなみに場外へ飛んだサイコロもゲームから除外扱いとなる。このゲームは数分で終わるので、肩慣らしにはもってこいだった。

 

 次もサイコロを使った『ベガス』というゲームをプレイした。

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 順番に8つあるサイコロをすべて振り、賞金が配置された1-6までのパネルにサイコロを置いておく、出た目の数だけ置くことができる(例えば3の目が4個出た場合、3のパネルに4つサイコロを置ける。置かなかったサイコロを次のターンに振る)ので、ゾロ目になっているものが多いほど有利にはなる。しかし、相手と置いたサイコロの数が一緒の場合、そのプレイヤーたちは賞金を獲得できない。いかに高額配当のパネルにサイコロを置けるかという運と、漁夫の利を狙っていく戦略が重要なゲームである。

 このゲームも運よく勝つことができた。ついに私の時代が来たか(その後、時代は来ていなかったことが分かりました。悲しいですね)。今年の運をギュンギュン使っているような気分になる。

 

 次に『テストプレイなんてしてないよ 黒』をやった。Twitterなどで少し話題になっていたので、知っている方もいるかもしれない。

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 最初の手札は2枚で、自分のターンになったら山札からカードを1枚引いて、好きなカードを発動するのだが、バランスが崩壊している。じゃんけんをしたら死に、色を言ったら死に、サメに食われて死に、隕石が落ちてきて死ぬ。とにかくすぐ死んでしまう。順番が来る前に死ぬこともしばしばだ。理不尽な死に方に笑いが出てしまう。筒井康隆の小説みたいだ。

 下手すると1分で1ゲームが終了するので、手軽に行えるゲームである。ただし、ある程度気心の知れた人々とやるほうが楽しくなるだろう。初対面だと理不尽が面白さに変換されないかもしれない。

 

 もう少し重めのゲームをしようということになり、『カルカソンヌ』をプレイすることにした。 

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 道や建物が書かれたタイルをつなげていって得点を稼ぐゲームなのだが、相手プレイヤーに妨害されることもあるため、なかなか悪戦苦闘する。また、ただタイルをつなげるのではなく、ミープルというコマを置いて完成させないと得点はもらえない。しかもミープルは数に限り、得点が入らないと戻ってこないので置き方にも戦略が求められる。私は得点が高い修道院にミープルを置いた結果、誰も道をつないでくれず、結局ゲーム終了までミープルは戻ってこなかった。宗教に厳しい友人たちである。

 ちなみにこのゲーム、中盤・終盤と進むほどタイルが増えていく。小さいテーブルだとタイルが置ききれなくなるので、友達の家などでプレイするときは床でやったほうがいいかもしれない。

 このゲームは一番最初にプレイした『ストライク』でバーサーカーになった友人が得点を荒稼ぎして勝利した。私は最下位。戦略ゲーになった瞬間勝てなくなってきたぞ。

 

 次に『ドミニオン』をプレイした。

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 カードを購入して、自分のデッキを作りつつポイントを稼いでいくゲームなのだが。ポイントが手に入るカードは、最後の得点計算時しか役に立たない。また、購入したカードはすぐには使えない。自分のデッキの山札を全て使い切ってからデッキ内に入れることができる。さらに、毎ターン終了後に手札を全て捨てるため、手札の使い方もよく考える必要がある。

 最初はどのカードにどういう効果があるのか皆で確認しながらゲームを進めていたのだが、少しだけドミニオンを知っていた人がゲームを優位に進め始める。山札内に有用なカードが占める割合を増やして、どんどんデッキを回転させていくように構築していくと戦いを有利に進められる。私は気づくのが遅れたため、手札内に不要なカードがいくつもきてしまう場面が多々あった。終盤になってやっと戦い方が分かってきたがもう手遅れ、結局このゲームも最下位だった。

 

 次に少しベクトルを変えてパズル要素の強い『ブロックス』をプレイした。

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 自分の色のブロックを頂点のみ接するようにつなげていき、手持ちのブロックをできるだけ少なくしていくゲームである。4人が同じ盤面で繋げているので、途中で相手とぶつかって進路を塞がれることが出てくる。相手の動き方を予想してどんどん相手の動ける選択肢を減らしていき、なおかつ自分は大きいブロックを置けるように道を確保することが重要になってくる。使い切れなかったパズルのマス目がそのまま減点されるので、序盤はどんどん大きいブロックをつかっていきたいところだ。

 このゲームは少ないルールでじっくり頭を悩ませることができるので、ボードゲームをやってみたいけど、いろいろルールがあるものは覚えるのが……という方にも適していると思う。私は2位だった。初心者でもなんとかなるものである。

 

 まだ時間があったので、『ラビリンス』というゲームもプレイした。

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 配られたカードに書かれた宝物を全て取り、スタートに戻ってこれれば勝利である。自分のターンに余ったタイルを迷路に押し込み、ルートを変更して自分が目的地まで動けるようにしたり、逆に相手を妨害することができる。宝物に近づいたらパネルが押し出され、真反対の方向に押し出されることもある。以下に獲得したい宝物を悟られないようにしながら、相手のターンを利用しつつ目的地に進むことがカギになってくる。

 このゲームは途中までビリ争いだったのだが、宝物を集め終わったプレイヤーが戻るのに四苦八苦している間に出し抜き、1位になった。人生も同じようなものであり、出し抜く側と出し抜かれる側が存在する。

 

 少しだけ時間が余ったので、最後に『コヨーテ』をプレイした。

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 インディアンポーカーにダウトが混ざったようなゲームである。数字の書かれたカードをおでこの上に掲げ、相手のカードを見ながら場の合計値を予想していく。数字を一人ずつ宣言していくのだが、前の人が宣言した数よりも大きい数を言わなければならない。次のプレイヤーは場の合計値を超えたと判断したとき、「コヨーテ」と宣言することができる。場の合計値を超えていたら数字を言ったプレイヤーの負け、超えていなければコヨーテと言ったプレイヤーの負けになる。

 このゲームのポイントとして、特殊札が存在することが挙げられる。場の合計値が2倍になったり、場のカードで一番数字が大きいものを0として扱ったりするカードなど、折角の予想が水の泡と化すカードがおでこの上にあったとき、混乱は必至である。

 プレイ時間も短いため、手軽に楽しめるゲームだった。

 

 こうして5時間が過ぎ、お店を後にした。私たちは8つのゲームをプレイしたが、1つのゲームをじっくり何時間も行うのもいいのかもしれない。まあ、沢山のボードゲームがあるため、色々やってみたくなるのが人の性なのかもしれないが。

 

『JELLY JELLY CAFE』のサイトは、各店舗やゲームの紹介、ネット予約のページ、様々な紹介記事など結構充実しているので、興味のある方は見てみると楽しいと思う。

 友人と遊ぶ時の選択肢に、ボードゲームは結構良いですよ。ただし、あまり悪いプレーをしすぎると友情が崩壊してしまうので、楽しめる範囲で戦いましょう。

 

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生まれて初めてスキーに行きました

 スキー場って行ったことありますか? 致死量の白が見られる場所です。

 

 2月はじめに友人たちとスキーに行こうという話になり、たまたまその日は空いていたので参加することにした。しかし、私は二十数年生きてきて1回もスキーをしたことがなかった。埼玉に住んでいたためだろうか。確かに埼玉には大きなスキー場もなければ海もない。しかし、同じ埼玉出身の友人がちょくちょくスキーに行っているため、その説はおそらく間違いなのだろう。

 スキーを全くしたことがなかったため、何を用意していけばいいのかも分からない。友人曰く、スキー板とブーツ、ウェア上下はレンタルできるらしい。しかしニット帽とゴーグル、手袋、ネックウォーマーなどのいわゆる小物類は買う必要があるとのことだった。休日を利用して小物類を用意した。Loftでニット帽とネックウォーマーが安くなっていてかなり助かった。ゴーグルは眼鏡の上から付けられるもの、手袋は撥水性があるものをスポーツ用品店で購入した。ざっと1万円ほどかかり、坂をすべる準備をするだけでこんなにかかるのかと驚いてしまう。土手をすべるのなら、安いそりを買うだけでいいのに。

 なんやかんやあって当日になり、電車でスキー場へと向かう。ボストンバックに荷物を入れていこうと思ったのだが、普段スーツケースを使っていたため、ボストンバックはロフトの上でほこりを被っていた。掃除をする気力もなく、結局スーツケースを転がしていく。遊びに行く前は大体寝不足で、今回もひたすら電車の中で寝ていた。

 自分以外は全員東京から来るため、新潟から来た自分だけ早く目的地に着いてしまう。外で待っているは厳しい寒さだったため、近くの軽食店に避難し、ココアを飲んで待っていた。

 友人がやってきて、スキー用品のレンタルショップへ向かう。スキーブーツを履いてみたが、かなり歩きにくい。小学生の時に老人体験という授業があったのを思い出した。スキーウェアはリフト券を入れるスペースがあるものがいいらしい。

 私服からスキーをするための服に着替え、いよいよスキー場へと向かう。スキー板とストックを担ぎながら、歩きにくい靴で歩いているので滑る前からかなり疲れてしまう。何とかスタート地点にたどり着き、ここからすべるのかと思いきや、リフトに乗る必要があるらしい。位置エネルギーを補充しに行くのだ。

 友人からスキー板の取り付け方の説明を受け、何とか板を装着する。しかし上り坂を全く歩けない。歩いても歩いても同じ位置にいる。そういう地獄か? 結局スキー板を外してリフトに乗ることになった。

 リフトで上まで登り、スキー板を装着する。どうやらリフトはいくつもあるらしい。敵の一人を倒したら、そいつは四天王の中では最弱だった、という展開を思い出した。緩やかな坂を下ってみるが、よく分からない。そしてそのまま中級コースへと連れていかれてしまった。

 リフトでもう一段階高くまで登る。リフトは降りるときが少し曲者で、ある程度滑らないとリフトが追い付いてきてぶつかる危険性がある。リフトのないところまで来ても、次から次へと人は降りてくるため、安全な場所まで移動する必要がある。これがなかなか難しく、タイミングがつかめない。この時点で、スキーの才能がないのではと思ってしまう。

 最初に滑ったコースが中級者コースだった。これが運の尽きで、そこそこの急斜面であるためハの字で滑ることもままならない自分では、スピードが出すぎてしまう。すると怪我をするのではという予感が出てきて、自ら転んでしまう。1回坂で転んでしまうと、なかなか体勢を立て直すのが難しく、立ち上がる→スピードが出てしまう→自ら転ぶを繰り返すことになる。坂を転げ落ちるのも体力がいるため、なぜこんなことをしているのだろう、中学の運動部かよと感じてしまう。この時点では、なぜ人は坂を転げ落ちるのにお金を払っているのかが全く理解できなかった。

 中級者コースに無理があることを悟った友人の一人が、かなり緩い坂道での練習に付き合ってくれた。何回か繰り返すうちにハの字の感覚をある程度つかんできた。

 そうこうしているうちにお昼の時間になったため、ご飯が食べられる場所を探すことになったのだが、一番低い場所にあるレストランは人でごった返していたため、少し上のほうにあるレストランに行くことになった。しかし、このレストランに行くためにも、中級者コースをすべる必要があった。どうにか坂を転げ落ちながらレストランへとたどり着いた。

 レストランはラーメンや丼、カレーなどを食べられる、よくデパートや学食などで見受けられるタイプだった。そこでチャーシュー麺とメロンソーダを注文した。体力を使いまくったあとに飲むメロンソーダはとてつもなく美味しい。体力をつかいまくったあとに食べるチャーシュー麺は普通だった。

 昼食後、スキーを再び滑ることになった。友人たちの一部は上級者コースへ行くらしい。待ち合わせ場所を決めて、各々散った。

 どうやら上のほうへ行くと林間コースというものがあるらしく、初級コースでそこまで斜面も急ではないらしい。私と付き添いの友人はとりあえず、そのコースへチャレンジすることにした。リフトを乗り継いでどんどん登っていく。降りるのにもようやく慣れてきた。実際、途中まで滑ってみたが、あまり急な斜面はなかったように思えた。

 その後、目的地へ向かおうとしたのだが、一つ問題が発生した。どのルートでも中級コースを通らなければ目的地へとたどり着けないのだ。まあなんとかなるだろうと、中級コースへ足を踏み入れたのが、悲劇の始まりだった。

 最初は良かったのだが、途中でとんでもない急斜面が現れた。何とか滑ろうと試みたのだがどうにも上手くいかない。蛇行しながら滑ったほうがいいと言われたが、蛇行を試みる前に加速がついてしまい、どうにもならなくなる。結局途中で断念して、お尻で滑ることにした。お尻のほうが断然早かった。なぜこんなに滑れないのか、お尻ですべるのにお金を払っているのかと思うと、腹が立ってしょうがなかった。

 最後に友人たちと2チームに分かれ、上から一番下まで滑ることになった。私と友人2人は、林間コースをすべることにした。

 途中までは難なく滑れていたのだが、途中で急な坂が現れた。蛇行して進もうとするのだが、すぐに加速がついてしまい、転んでしまう。滑っては転び、滑っては転び、転び、転び、滑っては転びを繰り返し、最後は転んだ拍子に勢いがついて柵に突っ込みそうになった。しかし、柵のギリギリ手前でなぜか90度ターンして、衝突を回避することができた。もうお尻で滑るほうが才能がある気がしてきていた。

 その後も何とか滑り、途中の急斜面は転び落ちつつ、終盤では左右移動がある程度スムーズになった。どうにかこうにか滑れるようになったところで、スキーは終わった。

 腕はバキバキ足はガタガタで、滑った当日でこんなに痛いのに寝て起きたらどうなるのだろうという不安を抱きつつ、新潟へと戻った。

 帰り道、自分が滑っているところを撮影していた友人がいたので見せてもらったが、あまりにスピードが出ていなかっため、一瞬静止画と勘違いしてしまった。同じ動画を見た別の友人は一言、

「牛車」

とだけ答えていた。

 

 案の定、翌日は体がバキバキすぎて範馬刃牙になった。

 

 秋田書店より、『バキ道』第1巻が発売中です。

 

 角力(相撲)の「祖」であり日本最古の公式試合の勝者である野見宿禰。その「宿禰」の称号を継ぐ者が現世にいることを知らされる刃牙
脆くて壊れやすい炭素の塊をこの世で一番硬い物質であるダイヤモンドに変える超絶握力を持つ男が…、日本最古にして最強の「相撲」の神が…、バキの前に立ちはだかる。

(秋田書店ホームページ『バキ道 第1巻』より引用)

www.akitashoten.co.jp

 

 ちなみに第2巻が2019年3月8日(金)に発売予定です。私は『グラップラー刃牙』を途中までしか読んだことがありませんが、興味のある方は是非どうぞ。

 

 

ネプリ・トライアングル(シーズン3)第三回を読みました

 2019年は2018年よりも参加する年にするぞと思い、水沼朔太郎さんが主宰する『ネプリトライアングル(シーズン3)』の第三回に参加させていただくことができた。『通常営業』という10首連作が人の手に渡った。この記事がアップされたときには既にネプリの配信期間が終了しているため、このブログを見て興味を持ったとしても申し訳ないがネプリを印刷することができない。頭を下げながら文字を打っている。私はブラインドタッチが若干できるのだ。

 ネプリが発行された後、連作から私の歌を引用してツイートしてくれる方もいて、かなり嬉しかった。労働は相も変わらず精神に厳しく、ペンを投げたりしたくもなるが、励みになる。そういえばスマートフォンを投げる動画がツイッターで少しだけ話題になっていた。

 

 今回は参加させていただいた『ネプリトライアングル(シーズン3)』の、私以外のお二方の歌を紹介していきたい。

 

汚なさと行かないととを天秤にかけている最寄り駅のトイレ/水沼朔太郎『泡のゆくえ、ぼくのゆくえ』

 

 名詞ではないものを名詞にしてしまう、が登場すると目と気持ちを持っていかれる。この歌では『行かないと』が『とを』の前にくっ付くことによって、『行かないと』は名詞へと変化している。

 その変化は我々を一瞬立ち止まらせるほどの違和感を与えるため、なかなか使い方が難しいように見える。違和感だけが浮き上がってくる短歌になってしまうような気がするのだ。

 この歌では『行かないと』に気持ちが持っていかれるのだが、描かれているシチュエーションがこの違和感を寸前のところで押しとどめているように思える。トイレを我慢して我慢して、戦いが激化したときに思い浮かぶのは最寄り駅のトイレなのだが、綺麗ではない。しかしそこを通り過ぎた後、トイレを我慢できるかは分からない。ここで行っておかないと、どうにもならない事態へと悪化するかもしれない。

 どちらへ重きを置くか、焦燥感に駆られながら考える。少しだけ冷静さを失う便意の上昇が、その人の言葉をずらしていく。冷静に考えたいけど便意によって阻まれてしまうこの瞬間に、『行かないと』の名詞化は合っているように思える。『行かないととを』の、二文字『と』が続くところも、前のめり感が出ていて、急いでいる主体が見えてくる。

 結局主体がどうしたのかは分からないため、読んでいる私の中で天秤がずっと揺れ動いているような感覚になるのが、この歌の余韻になっている。

 

世の中よ。むだに喋ってばかりいる人から先に月になりぬる/大橋弘『今、夢想することの手堅さと引き換えに』

 

 句読点の歌が効果的に決まっているときは、何となくヒップホップの、音が一瞬消える瞬間を思い出す。音が消えることによって、音以上に印象的な瞬間を生み出される。

 この歌の句点も、同じようなカッコよさがあると思う。初句の呼びかけで音が一瞬消えて、二句からまた歌が流れ出す。

 二句以降の読みに関しては、正直読み取れていない部分も多いのだが、『むだに喋ってばかりいる人』という、おそらくあまり良い印象を持たれていない人が結句で『月』という、どことなく静かな印象のある月へ生まれ変わっている。この部分に、「悪い子はサーカスに売られてしまう」のような、遠い世界へ行かされてしまうような恐ろしさを感じてしまう。『むだに喋ってばかりいる人』が、何か大きな力によって物言わぬ月にされてしまったような、何が起こったのか分からないゆえの恐怖。

 初句の大きなものへの呼びかけと、『むだに』という上からの目線、通常ではありえないものにされてしまったことが判明する結句が合わさって、何か大きな力がどこかにいるような気になるのだ。

 

 一通り読んでみて気づいたことは、私や水沼さんは自分に近い範囲のもの、大橋さんは大きなものを詠み込む歌が多かったように思える。そういった連作ごとの比較がしやすいのも、連作が横に3つ並んだレイアウトになっている、ネプリ・トライアングルの良さだと思う。