コムギココメコ

備忘録と不備忘録を行ったり来たり

柴田聡子『がんばれ!メロディー』

f:id:komugikokomeko:20190321222123j:plain

 2019年リリース。シンガーソングライター、柴田聡子の5枚目のアルバム。

 

 2017年にリリースされた4枚目のアルバム、『愛の休日』に収録されている『後悔』という曲を聴いたとき、久しぶりに一聴き惚れをした。春の暖かさを感じさせるような曲調と、最後に<たら><れば>という仮定形を多用することによって、不穏さを漂わせてくる歌詞。聴いた次の日にちょうど東京出張があったため、すぐさまアルバムを購入した。

www.youtube.com

 

 今回のアルバムでは、弾き語りを基調とした曲が前作より減り、バンドとしての一体感が強調された仕上がりになっている。これはバンド編成(柴田聡子 inFIRE)のメンバーが全面参加していることも大いに関係しているだろう。

 また、今まで以上にポップでキャッチーな曲が揃っている。小気味いいギターと存在感のあるベースが魅力的な1曲目『結婚しました』、アルバムの中でも一番真っすぐにポップな2曲目の『ラッキーカラー』と、この季節に聴くのにピッタリな明るさでアルバムが始まっていく。散歩しながら聴いていると、とても気持ちがいい。

 存在感のあるベースとそれを支えるドラムを中心に進んでいくA、Bメロから、サビで漂うようなギターを聴かせる5曲目の『涙』、アコースティックギターの後ろで少し寂しそうに鳴るフリューゲルホルンが印象的な6曲目の『いい人』で少し落ち着かせて、しばらくすると、打ち込み主体なのに繰り返されるフルートと歌詞が耳を離れない怪曲『ワンコロメーター(ALBUM MIX)』や、日本のどこか奥地の踊りをイメージさせる『セパタクローの奥義(ALBUM MIX)』がやってくる。

 

 そして柴田聡子の曲が私の心を捉えて離さない重要の要素として、歌詞が挙げられる。『結婚しました』の最初のサビ(夢見た~の部分)の、夢のために今日を<乗り越える>のではなく、<やりすごす>という部分に見られる生活の実感、最後の(離されない手~の部分)、『離されない手』という言葉に見受けられる相手への信頼感。この部分で声が張りあがるのも好きだ。

www.uta-net.com

 中でも『涙』は格別に良かった。Bメロ(うれしい今よりも~の部分)の、茶柱が立っていたという現在の嬉しさよりも、まだ起こるとは確定していない良い出来事・それに付随してくる感情を信じるところにもグッとくる。大サビに入る前に2回続く<わかった全部>の声の張り上げ方の違い、大サビのわたしと<あなた>の対比、<いくつ>と<ひとつ>から出てくるふたりの隔たりを個人的に解釈したときの衝撃はすごく、散歩のスピードをゆるめてしまった。

※私の話になるが、一番精神的に参っていた時期にPVがYouTubeにアップロードされた。聴いているうちに何だかとても救われている気がして、アルバムを購入するまでに30回以上は繰り返し聴いた。

 

www.uta-net.com

 

 歌詞の存在感とところどころに見られるヘンテコな部分はそのままに、前作以上のポップさ、キャッチーさを獲得した『がんばれ!メロディー』、是非色んな人に聴いていただければと思う。知っている人なら貸します。それくらいこのアルバムにのめりこんでいる。

 

【トラックリスト】

01. 結婚しました
02. ラッキーカラー
03. アニマルフィーリング
04. 佐野岬
05. 涙
06. いい人
07. すこやかさ
08. 心の中の猫
09. ワンコロメーター(ALBUM MIX)
10. 東京メロンウィーク
11. ジョイフル・コメリホーマック
12. セパタクローの奥義(ALBUM MIX)
13. 捧げます

 

がんばれ!メロディー

がんばれ!メロディー

 

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

ガルマン歌会200回記念歌会に参加しました

 何かしらの集まりを200回行うのはとてつもない道のりである。月1回ペースだと16年近くかかる。仮に毎日行った場合でも約7か月弱かかる。7か月あったら何ができますか? 私は衣替えができます。

 

 3月の初めに、ガルマン歌会200回記念歌会に参加した。この歌会について参加レポートを書いていきたい。

 ガルマン歌会について簡単に説明しておくと、谷川由里子さん、堂園昌彦さん、五島諭さんの三人が中心となって始められた歌会で、月1回ほど行われている。

 歌会でトップになると、ガルマンという称号が手に入る。そして、次の回の司会を担当することになる。開催場所や選(良いと思う短歌を選ぶ)の方法も決められるらしい。私も去年2回参加した。トップになって新潟にガルマンを持って帰ってしまい、取り戻しに行こうとする人々がみんな上越新幹線のトンネルの長さに辟易して参加できず、ガルマンを永遠に確保できると思っていたが、2回ともトップは取れなかった。

 今、この文章を書いている私のことを知らない人もいるかもしれないので、自己紹介をしておくと、橙田千尋(とうだちひろ)と言います。短歌や小説を作っていて、新潟とインターネットによくいます。Twitterでは米粉というアカウント名で存在しています。

 

 ある日、ガルマン歌会200回記念歌会に関するメールが届いた。場所は阿佐ヶ谷ロフト。阿佐ヶ谷ロフトってライブやトークイベントなどをするところだというイメージだったが、歌会もできるのか。確かに、歌会はモラルに反していない場所ならばどこでやってもいいはずだ。海の中でプカプカ浮き輪につかまりながらやっても構わないのだろうし、指がしわしわになりそうだが。

 チケットアプリで参加申し込みを行い、その日から短歌を考える。当日はまず予選歌会があり、そこでトップを取った人が決勝歌会に進むことができる。決勝は壇上で行い、そこでトップだった者がガルマンオブガルマンの称号を得るのだ。ガルマンオブガルマンになりたかったので、短歌をうんうん考えることにした。

 しかし、2月中旬に精神がきびし~いになってしまい、短歌を考えられる状態ではなくなってしまった。それでも何とか考えて、締め切りギリギリに提出した。その後当日までに決勝歌会用の短歌を作った。

 

 当日、電車で阿佐ヶ谷へと向かう。1時間ほどかかるので、バッグの中にある筒井康隆の小説を読むか、SCP-261(異次元自販機)の実験記録を読むか迷い、結局SCPの記事を1時間読む。

ja.scp-wiki.net

 電車は東京に向かうにつれどんどん混みあってきて、ほぼ満員になる。息苦しくなってきてしまい、体調が下り坂になっていくのが分かったが何とか新宿までたどり着く。改札を抜けて、東急ハンズでバインダーを購入する。阿佐ヶ谷ロフトでは机のスペースを確保するのが難しいため、持ってきておくと便利だと事前に通告されていたためだ。

 中央線で阿佐ヶ谷駅へ向かう。ここでもSCPの記事を読んでいた。

 受付開始10分前あたりで阿佐ヶ谷駅に到着。昼ご飯を食べておかないと夕方まで持たなそうだと思ったがあまり時間もないしお腹も減っていない。緊張で気持ち悪くなってくる。どうにかこうにかマクドナルドでハンバーガーを食べる。私はいつもピクルスを抜いてもらう。ハンバーガーを食べていて、いきなりピクルスに出会うのは自分にとって好ましくない出来事だからだ。ポケモンでスムーズに洞窟を抜けようとしているのに、出口付近でいきなりバトルが発生して、相手がズバットばっかり出して来たら何か嫌じゃないですか。ピクルスはズバット

 歩いて数分で阿佐ヶ谷ロフトに到着。受付を済ませ、先に二次会代を支払い名札を受け取る。大人数だと誰が誰だか分からないので、名札があるとかなり助かる。その後参加する予選グループが告げられる。6つのグループがあるうち、私はAだった。 

 Aグループの詠草を受け取って、テーブルへと向かう。メロンソーダを注文した後に、ウィルキンソンジンジャエール(辛口)があったらしいことを知り、そっちにすればよかったかなと少し後悔する。始まる前にざっと詠草に目を通す。私の短歌は予選を通過できるだろうか。しかし、Aグループのメンバーを見ていたら、あ、これは厳しいのではないかと思ってしまう。メロンソーダを持つ手も震えてくる。ガルマン歌会に参加すると毎回手の震えが生じるのだが、どうすればいいのでしょうか。ゆるやかに助けてください。

 私のことを知っている人が話しかけてくださったりしているうちに、会場は参加者でいっぱいになり、開始時刻になった。

 

 司会の吉田恭大さんから歌会の説明があった後、予選歌会がスタートした。予選歌会の司会は記念歌会のスタッフが行う形だった。Aグループは吉田恭大さんだった。

 最初の15分は詠草を読む時間だった。じっくりと読み、2首を選ぶ。その後、票数が伝えられた。頼む、トップであってくれ、うわ、1首目そこそこ入ったな、ああ、2首目もかなり入った、3首目も入ってる、雲行きが怪しくなってくる。ついに私の歌の票数が吉田さんの口から発せられた。2票。この時点で決勝歌会への道は閉ざされた。ショックではあったが、この場に集まった歌のためにしっかりと評をしなければならない。気を取り直して評をしていった。

 歌会には何回か参加しているので、話すこと自体には慣れてきたのだが、歌から感じ取ったことを相手に伝わるように言う、自分が票を入れた短歌の良い部分を、他の人にも共有してもらえるように話すのにはまだまだ難しさを感じる。また、その場では読み取りきれない歌も存在するので、その時は歌に申し訳ないなと思う。最初はそこまで印象に残らなかった歌でも、他の人の評を聞いたあとに読み取れなかった部分が接続されて行って、後々良い歌だったとなるときがある。そういった評ができるのは一体いつになるのかは分からないが、努めていければと感じた。

 予選歌会が終わり、各グループのトップが決勝歌会へと進む。決勝歌会の準備が行われている間休憩が入り、以前歌会でお会いした人や話しておきたかった人と少し会話をする。気さくさが足りないので全く面識のない人と会話をするのをためらってしまう。気さくさはみんなどこで手に入れているのだろう。地元のホームセンターで尋ねてみたところ、そこに無いのなら無いですねと言われてしまった。気さくになることはとても難しい。

 決勝歌会は壇上で行われ、予選で敗退した人たちはオブザーバーとして参加することになった。決勝に進出した6人が1首選を行い、さらにオブザーバーによる投票で1位だった人がプラス3票、2位が2票という形だった(1位がプラス2票、2位が1票だっただろうか。そこに関しては少し曖昧です)。

 決勝なのでかなりバチバチピリピリとした歌会になるのではと予想していたが、かなり和やかな雰囲気だった。司会の染野太郎さんもタイムキープを行いながらも和やかな雰囲気で歌会を進行していた。オブザーバー投票が6首目中3首目で締め切りになってしまったので、評を聞けたものと聞けなかったものが出てしまったが、タイムスケジュール上なかなか難しい部分もあるのかもしれない。

 決勝に上がった皆さんは、詠草を読み込む時間が少なかったのにもかかわらずしっかりと評を行っていて、しかもあまり緊張している様子もこちらからは窺えなかったので、さすが決勝に上がった人々だなと感じた。私がもし決勝に上がっていたら、アガッてしまって要らないことまで言ってしまいそうだ。

 決勝歌会の結果の集計されている間に、下北沢・高円寺を中心に活動を行っているバンド、『のっぺら』のライブが行われた。

 のっぺらについては全く情報を持っていなかったので、一体どういうバンドなのだろうと思いながらライブの準備が行われていく。珍しかったのはギター、ベース、バンドの他にアコーディオンがいたことだ。自分が今まで聴いてきたバンドやアーティストの中に、アコーディオン担当のメンバーがいなかったため、どういう音楽性なのだろうと興味を持ちながら待機していた。

 ライブが始まると、アコーディオンが曲に牧歌性を与えていて、でもボーカルが結構声を張って歌っていたのでメリハリがあった。特に最後の曲を歌っているときの声の張り上げ方が良かった。普段CDはそこそこ購入するのだが、ライブはほとんど行ったことがなかったので、生で聴いてみるとドラムやベースの迫力、ボーカルの力強さ、アコーディオンの情緒のある音色が全身で伝わってくる。お金が存在したらライブも色々行ってみると楽しいなと感じた。アルバムもその場で販売してくれるとのことで、歌会が終わった後購入した。

 ライブが終わった後、いよいよ決勝歌会の結果発表になった。結果、睦月都さんと御殿山みなみさんの歌の票数が同点ということになり、最後はじゃんけんでの戦いになった。1回目はふたりともチョキであいこ。2回目もふたりともチョキであいこ。同じ手であいこが続くと、運というよりは心理戦の要素が強まっていく。3回目、睦月さんは手を変えてパー。対する御殿山さんは……チョキだった。

 この瞬間、ガルマンオブガルマンが決定した。

 勝った後、ステージで立ち尽くす御殿山さんを見て、私はM-1とろサーモンが優勝した時の村田さんを思い出した。あの時も一瞬、自分の身に何が起こったのか頭の認識が追い付いていない様子で、大舞台で勝った時、喜びが頭に入ってくるまで人は立ち尽くしてしまうのだな、という気付きがあった。睦月さんには直接お話を伺ってはいないが、相当悔しかっただろうなと思う。ガルマンオブガルマンに指がかかりかけていたのだから。

 最後に主催である谷川さんと堂園さん、そしてスタッフの方が壇上にあがり、谷川さんと堂園さんが締めの言葉を行った。私たちは何も頑張っていないと谷川さんはおっしゃっていたが、記念の歌会に60人以上も参加者が集まるような、行きたくなる歌会を運営し続けているのはとてつもなくすごいことだと思う。一参加者として頭の下がる思いである。

 

 その後、近くの居酒屋で懇親会が行われた。諸事情で現在お酒が飲めないので、私はソフトドリンクを飲んでいた。私の座っていたテーブルには、最初法橋ひらくさん、渡辺アレハンドロさん、決勝歌会に進出した杉本茜さん、のっぺらのドラムを担当しているグレート橋本さん、鈴木ちはねさんがいた。窓からパン屋さんが働いているのが見えた。私側のテーブルは人の入れ替わりがちょこちょこあり、途中谷川さん、私、堂園さんという私の肩身がぎゅんぎゅん狭くなる場面があったり、私の両端が一旦いなくなり面接みたいなフォーメーションになったりしたが、楽しく会は進んだ。

 私を短歌の世界に引っ張ってくれた歌集が2つあり、そのうち1つの作者である伊舎堂仁さんとも話すことができた。しかし私があまりに緊張してしまい、うまく口が回らなかった。口、ギュインギュイン回るように話してみたいものだ。

 懇親会も後半に差し掛かったころ、渡辺さんに、「目の形良いですね」と唐突に褒められた。今まで目の形を褒められたことが一度もなかったため、困惑してしまった。さらに「目の形がクジラみたいでいいですね」と褒められた。これで褒められたのは2回なので、12年に1回ペースである。次は2031年に目の形を褒めてくれる人が目の前に現れると思う。

 杉本さんと法橋さんはクジラに少し同意していて、伊舎堂さんと私はピンと来ていなかった。もしピンときていないのが私だけだったら、四面楚歌になってしまうところだった。今回の場合はだと四面クジラ目でしょうか。分かりません。目の形を、クジラを引用して褒めてくれた人に会ったことがなかったので、この例えは家帰って風呂場で鏡見た時に思い出すだろうなと感じた。今度お会いした人は、私の目を見て大海原を感じてほしい。

 その後も話がはずみ、惜しまれながらも懇親会が終わった。デザートに出てきたアイスキャンディーが余っていたのだが、どうなったのだろうか。様々な味があったらしいが、私はパイン味しか食べていないのでその真偽は不明である。世の中にはまだまだ知らない味がたくさんあるのだ……。

 帰り際、決勝歌会に進出したシロソウスキーさんに挨拶をする。嬉しいことに名前を認識してくださっていた。

 その後三次会などがあったのかもしれないが、私は二次会が終わった後帰宅したのでどうなったかは分からない。

 体力をかなり消耗していたらしく、帰りの電車では9割5分寝ていた。実家に戻って風呂に入り、体を洗っているときに鏡を見て、クジラみたいな目かあと思った。その後も時々その喩えを思い出している。

 

f:id:komugikokomeko:20190315203043j:plain

ガルマン歌会で使用した名札。返却するのを忘れてしまった。返したほうがいいのだろうか。あと、ガルマン歌会に関する写真がこれしかなかった。看板の写真とか撮っておいたほうが行った感がぐっと出てくる。

 

 200回記念歌会はとても楽しかったのだが、やはり決勝歌会に進出して優勝してみたかったなとしみじみ思った。優勝した時はどういう視界になるのかとても気になる。

 また、短歌に関してももっと精進しないといけないなと感じた。1月に水沼朔太郎さんが主宰しているネットプリントに参加して以降、精神的な問題もありほとんど短歌を作っていなかった。最近少しずつ穏やかになってきたので、自分がこれだと思う短歌・連作を作って発表していければと感じた。改めてこういう気持ちにさせてくれたガルマン歌会に感謝している。

 

 次は2026年頃だろうか。ガルマン歌会300回記念歌会に向けて、今からウォーミングアップを始めていきたい。

サイモン・シン『フェルマーの最終定理』を読みました

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは好きですか?

 あなたは数が好きですか?

 あなたは数学が好きですか?

 

 学生時代、授業や講義で数学を習う場面は多々あったのだが、私はどうしても数学が得意になれず、好きにもなれなかった。高校では元々理系コースを選択していたのだが、上述した数学や化学・物理への苦手意識と、さらに国語・地歴が得意だったことも重なり結局文転したのだった。

 計算としての数学は苦手なのだが、知識としての数学に対する苦手意識はなかった。モンティホール問題(3つの扉を使った確率の問題、検索すると色々引っかかるはず)など、数学上のtipsは面白いと感じるし、懸賞金がかけられている問題があると知った時には、数学の証明されていない問題が、ゲーム内のボスのように存在するのだなと、少し興味をそそられた。中身を見ても、何がどうなっているのか分からないものばかりだったが。

 そういった難問たちの中で、唯一私でも問われていることについて理解できたのが『フェルマーの最終定理』と呼ばれているものである。この定理の内容は以下の通りである。

 

3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しないという定理 ※nは指数

 

 言われていることは理解できるのに証明することはかなり難しく、この定理に関するフェルマーのメモが日の目を見てから300年以上経過した1995年に、アンドリュー・ワイルズによってついに証明された。

 なぜこの定理が『フェルマーの最終定理』と言われているかは、フェルマーが書き残したメモが元になっている。

 

「私はこの定理について真に驚くべき証明を発見したが、ここに記すには余白が狭すぎる」

 

 何という思わせぶりなメモだろうか。しかし、このメモによって300年以上に及ぶ数学者たちの闘いが幕を開けたのだ。そして、その戦いの記録をまとめた本が、サイモン・シンフェルマーの最終定理』である。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 

【以下ネタバレがあります】

 

 この本では、フェルマーの最終定理だけではなく、紀元前の数学の起こりについても記載されている。数学がどのようにして学問として発達していったのかが説明され、そこからフェルマーに影響を与えた書物が生み出されていく。

 その後、フェルマーの生涯と定理との出会い、その後300年に及ぶ数学者たちの進歩と挫折、そして決着をつけたアンドリュー・ワイルズの孤独な闘いについて記載されている。

 この本では、沢山の登場人物と計算式が登場する。その中には偉大な数学者として数学に多大な影響を残したレオンハルト・オイラーや、若くして亡くなった悲劇の天才、エヴァリスト・ガロアといった有名どころから、数学の他にその当時の偏見とも闘わなければならなかった数学者も登場する。数学という大河ドラマを一気に見ているような気持ちになる。

 本の後半ではアンドリュー・ワイルズを中心に話は進んでいく。その中には日本人である谷山豊と志村五郎も登場する。彼らも、ワイルズの証明に影響を与えた。

 長年数学が蓄積したテクニックと、新しいテクニックを総動員して、フェルマーの最終定理の攻略を試みるワイルズ。300年間人々を返り討ちにしてきた証明という魔物を、ワイルズが成長して一歩一歩攻略への道を進んでいくようで、もはや冒険譚とも言える。

 ドラマを見ていると感情移入して今うことが時々あると思うが、この小説も同じで、最後ワイルズが問題点を打破して、証明を完成させたときには、脳内でロッキーのエンディングが流れていた。それくらい心を乗せられるのだ。あんなに学生時代苦手だった数学によって。

 後半に出てくる数式や専門用語は分からないものもあったが、そこで挫折することなく読み続けられるのは、数学者や数学の魅力を存分に表現している作者の力があるのだろう。壮大なドキュメンタリーとしての数学がこの本では提示されている。

 

 数学で挫折したことがある皆さんも、数学をテーマにしたドキュメンタリーを一度読んでみませんか。

 

セレクトCDショップ『more records』に行きました

 精神が暗めのドローンアンビエントみたいになってきたので、再び正月頃の楽しかった思い出について書いていきたいと思う。

 

 普段新品・中古問わずCDショップに出かける。新潟にもCDショップはあるのだが、個人的なストライクゾーンに来るCDがなかなか見つけられない。レコードショップは割と見つかっても、CDショップは大手くらいしかなかったりする。残念ながら私はレコードを聴く術を持っていないので、CDが専門になる。

 bandcampなどの音楽直販サイトを使うこともある。そういったものは記憶しているアルバムか、たまたま聴いてよかったアルバムを購入する際には適しているが、記憶の隅にある、あったら欲しいアルバムを思い起こすことはできにくい。

 最近ではApple MusicやSpotifyなど、有料の音楽配信サービスも人気である。これらのサービスのおかげで、聴きたいけどCDとして購入するにはお金が……という方でも、どんどん音楽を聴くことができるようになった。個人的には何となく使っていないけれども。

 時々東京に行く機会があるので、時間がある時はタワーレコードに行ったり、ディスクユニオンなどの中古CDショップを巡ったりしている。ディスクユニオンも場所や建物ごとに強いジャンルが違うので、数店舗巡る。

 1枚1枚CDを見て、探していたものや絶版になっているもの、掘り出し物に出会えるとたまらなくテンションが上がる。例えば、The KLFの『Chill Out』というアルバムは廃盤になっている。

Chill Out

Chill Out

 

  そのためAmazonで購入すると新品で8000円以上、中古だと配送料を含め3000円以上からだが、ディスクユニオン下北沢店で500円以下で購入することができた(傷は少しついていたが)。

 CDショップ巡りもルートがある程度決まってしまうと、少なからず弱点も存在するようになる。タワーレコードでは個人的に好きなジャンルのCDが売っていないことがあり(テクノ、ハウスなどのクラブミュージック、エレクトロニカアンビエントなど)、ディスクユニオンでは欲しいアルバムをピンポイントで探し当てるのが難しい。また、中古なので状態が少し良くないものもある。それは仕方ないかもしれないし、キズの状態も書いてくれているので親切ではあるのだが。

 

 ネットで色々調べていたところ、埼玉の大宮に『more records』というCDセレクトショップがあることが分かった。私は元々埼玉に住んでいたのだが、そのようなお店があることは知らなかった。

 去年あたりから行ってみたいと思っていたが、新潟に普段は住んでいるため、なかなか行ける機会がなかった。なんで大宮は大宮にあるのだろう。私の住んでいる場所にあればいいのに。

 正月に帰省した際、ついにチャンスがやってきた。幸い、埼玉にいるときにお店が開いていた。

 大宮駅の東口を出て大体5~10分くらいのところにお店がある。ワンタンメンが有名な大宮大勝軒が近くにあると言って分かる人は大宮について詳しい人です。握手をしましょう。

 建物は2階にあって、階段が少し狭い。その時私は新潟に帰るためにスーツケースを持っていたので苦労した。その時は店員さんのご厚意でスーツケースを置かせていただいたが、CDが結構置いてあるので、大きな荷物を持っている人は駅のコインロッカーを活用したほうがいいと思う。

  店に入ると、壁に添うようにCD棚があり、中央にその時おすすめしているCDや、様々なコンセプトのもとチョイスされたCDが置いてある。また、冬だったのでストーブもあった。中では店員さん(店主さん?)が常連の方と音楽の話をしていた。

 ジャンルはインディーロック、クラブミュージック、ヒップホップ、ジャズ、エレクトロニカアンビエントと多種にわたるが、街中のCDショップではなかなか見つからないものが多く置いてある。個人的にはストライクゾーンにズバッと入ってくる品揃えだった。また、イヤホンなども販売しているらしい。

 店内にはいくつかiPodが設置してあり、気になるアルバムを視聴してみたり、iPodのアーティスト一覧から欲しいCD、気になっているCDを探し出すこともできる。面白そうだけど、なかなか買うにはお金のこともあって勇気がある1枚を視聴できるのはかなり嬉しい。

 iPodのアーティスト一覧に、私の好きなアーティストの1人であるTim heckerが載っていた。アンビエント系の曲を制作するアーティストだ。アルバムを見ると新作がリストにあったため、探してみるがなかなか見つからない。もう1人いる店員さんに在庫があるか尋ねてみると「昨日最後の1枚が売れてしまいまして……」という回答が来た。Tim heckerが売り切れることってあるんだなと、なんだかしみじみしてしまった。私の前にアルバムを買ったあなた、良いアルバムでしたか? 私はまだ買えていません。

 その後アルバムを物色し、3枚ほど購入した。購入する際に少し店員さんの1人と少しだけ話をした。新潟市はそこまで雪が降らないというあるあるを言った。穏やかな方だった。また、お会計の際に2018年のおすすめアルバムが載った小冊子をいただいた。

  今回は自分が欲しいアルバムを購入したが、セレクトCDショップとのことなので、次に訪れた時はおすすめのアルバムを聴いてみようと思った。なかなか自分のアンテナだと、自分の好きなジャンル、レーベル、アーティストしか拾えなくなってくるので、他の人のおすすめを聴いてみたい気持ちがある。

 ちなみに通販も行っているらしい。地理的な事情、金銭的な事情、いあいぎりを使えるポケモンがいないなど、なかなか埼玉に来ることができない人は、ネットを活用してみてもいいだろう。サイト内のアルバム紹介ページには、コメントと動画がついているのも個人的にはかなり嬉しい。

 また、『モアレコラボ』という、おすすめの音楽を共有する場をネット内に作ったり、実店舗内でも音楽ライブも時々行っている。ネットとリアルの両方で、音楽のための場を提供しているのだ。

 

 こうして、私のCDショップ巡りに1つ、楽しみな場所が増えた。上に挙げたジャンルの音楽が好きな方は、一度訪れてみてほしい。ついでに大宮の美味しいラーメン屋を教えますよ。

 

morerecords.jp

 

 

【好きな短歌⑦】白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない/山階基

白い布はずされながら美容師にまだ引っ越しを伝えていない

/山階基『コーポみさき』(角川『短歌』2018年11月号収載)

 

  髪を切りに行くというのは、大体1~2か月程度のスパンで行われる生活のイベントで、前回と今回の間にあった話を、美容師とすることもあるだろう。

 主体は美容師のある街から引っ越すことがほぼ決まっている。美容院も変えなければならないくらいの距離に、引っ越し先はあるように思える。会話の中で言うタイミングが無かったのだろうか、白い布を外されて、もう髪を切る作業も終盤という段階になってもまだ主体は引っ越しを美容師に伝えない。

 この白い布はシャンプーをするときに顔に覆われる布なのか、髪を切るときに服の上から覆われる布なのか、どちらだろうと思ったが、『白い布』を『はずされ』るなので、服の上から覆われる布だと思う。

 次に髪を切るのは1~2か月後ならば、もう主体は引っ越しを終えて、別の街にいることも十分考えられる。

 また、主体は髪を切ってもらう担当の美容師が大体同じなのかもしれない。少しだけ美容師のことを知っていて、相手も主体のことを少しだけ知っている。だから、引っ越しをする = 少しだけ知り合っているという関係の解消を、伝えておいたほうがいきなり来なくなるよりも角が立たないから、伝えようかなと思っている。

 この歌では、美容室に通ったという<過去>、引っ越しを伝えていない<現在>、そして髪が伸びたころにはもう引っ越しているだろう<未来>が浮かび上がり、時間的な広がりを感じさせてくれる。それらの時間は、壮大な概念としての時間ではなく、主体や美容師の暮らしに基づいた時間だ。

 また、白い布は清潔なイメージがあり、明るい美容室を頭の中に浮かばせる。さらに『はずされながら』という動作の最中が描かれることで、歌の中の空気が動き、美容師の慣れた手つきや声、鏡にうつる髪を切りたての主体、それと引き換えに床に散らばった髪の毛などが喚起され、静止画としてではなく、何かの映画のワンシーンを見ているような心持ちになるのだ。

 

 この歌は『コーポみさき』という50首連作の1首目で、連作は主体と『きみ』が引っ越しをしてともに暮らしていくまでを描いている。

 美容師に白い布を外される = 髪を切るという動作が終わるところから連作が始まっていく。主体も住んでいた街での生活が終わり、新しい街での生活が始まる。何かが終わることは、別の何かが始まっていくことだよなあと思いつつ、この歌で私は連作に入り込み、1つ1つ生活の粒子を丁寧に描いた歌たちに心を動かされた。

 今度ご本人に会う機会があれば、直接歌たちに心を動かされたことをお伝え出来ればと思う。

 

 連作『コーポみさき』が乗っている雑誌は以下から購入ができます。

www.amazon.co.jp

HASAMI group『MOOD』

f:id:komugikokomeko:20190226183421p:plain

 2018年リリース。リーダーである青木龍一郎氏を中心に活動するバンド、HASAMI groupの19thアルバム。19thアルバムってすごい。

 

 HASAMI groupの特徴は、美しいメロディの曲と鬱屈とした世界が全開の曲が混ぜこぜになった、ロック、ポップ、ヒップホップなどを飲み込んだ一言でコレと言えない世界感だと思う。アルバム事に美しさと鬱屈の割合が変わっていくのだが、このアルバムはかなりバランスが取れていて、初めて聴く人にもうってつけのアルバムだと思う。人にもお勧めしやすい(『Heart Wire Tapping』というアルバムがあるのだが、1曲目のイントロダクションで女性器の名前を言ったり、2曲目が『PENIS THUNDER』など、何も知らない人にお勧めしにくい感じはある )。

 このアルバムで提示されるムードは、曲ごとに時にゆるやか、時に激しく変化していく。1曲目の『PIANO』、2曲目の『君の街は』で提示される生活は穏やかながらもどこか晴れないところもあって、曲調も穏やかながらも明るくなりすぎない、なりきれない部分を孕んでいる。

『Internet Lovers』から『特盛!万引きイスカンダル』でその雰囲気が暗い方向へ傾いていく。歌詞もリリックめいてきて、何かに対する鋭さを増す。

 7曲目の『夢の泡立ち』は前半のハイライトだろう。手洗いの歌でここまで心を動かされる曲調になるのか。サビで繰り返される<手>とピアノ、後ろで鳴らされるノイジーなギターが私たちの胸を高鳴らせてくれる。

 アルバムのインタールードと、ムードの変化の役割を兼ねている表題曲『MOOD』『白舟』を経て、鬱屈とした世界観の『カズマの面白FLASH倉庫』『ショック情報』『リストカット・ディズニー』が立て続けに流れていく。そういえばおもしろフラッシュ倉庫について、フラッシュの作り手側ではなく見ていた側から言及する曲って無かったような気がする。この3曲はピアノのリフレインが耳から離れないし、リリックも意味から逸脱しながらも意味不明ではなく、さらっと韻を踏んでいくところがクールだ。

 MCバトルで社会が理不尽な強さで、作詞者<青木龍一郎>を殴っていく『HIKIKOMORI MC BATTLE vol.3』、シンプルな展開の曲に生々しい薄気味悪さ全開の歌詞がのった『Cameraman』と、HASAMI groupの鬱屈した面がこれでもかと出た後、穏やかな曲調の『Quietly Start』へ急に移行するので、もはやこのアルバムのムードを掴めなくなっている自分に気づいた。ムードってこんなに掴みどころのないものなのか、生活とは、人生とは……

 しかし、最後の『景色がほしい』のイントロのブラスが聴こえた時、そして<逃げ続けてきた人生が晴れて今日無罪となった>という歌詞が聴こえてきたとき、私はこのアルバムに全肯定されたような気になって、思わず泣きそうになるのだ。

 

 ちなみに、アルバムはbandcampからダウンロードできる。また、青木氏のYoutubeアカウントでは、MOODのアルバムが丸ごとアップロードされた動画(!?)があるので、そちらも参考にどうぞ。

 

【トラックリスト】

1.PIANO
2.君の街は 
3.Internet Lovers 
4.俺の癇癪に施設が騒然 
5.特盛!万引きイスカンダル 
6.とうきょう銀粉 
7.夢の泡立ち 
8.立ちすくむ国家 
9.MOOD 
10.白舟 
11.カズマの面白FLASH倉庫
12.ショック情報 
13.リストカット・ディズニー 
14.異次元 
15.HIKIKOMORI MC BATTLE vol.3 
16.Cameraman 
17.Quietly Start 
18.景色がほしい

 

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

正月にボードゲームカフェへ行きました

 最近は精神がダークアンビエントみたいになってしまったため、今までにあった楽しい話を書いていきたいと思う。文章やら声を出していかないと不安になるという側面もある。

 今年の正月にボードゲームカフェに行った。年末年始は実家で過ごしたのだが、年も明けると一気に空気が間延びするというか、精神が煮込みすぎたお餅みたいになるので、友人たちと遊びに行くことにした。幸い友人も煮込みすぎたお餅になっていたのか、何人かが手を挙げてくれた。自分を含めて4人で遊ぶことになった。

 遊びのレパートリーを頭の中で考える。カラオケ、ボーリング、ご飯を食べる、いやご飯を食べるのは遊びの後でいいだろう、麻雀、などと考えているうちに1つの結論へと至った。

 ボードゲームカフェに行こう。

 以前、ボードゲームカフェを利用したことがあったのだが、それなりの値段で何時間も過ごすことができるし、カラオケやボーリングに比べるとある程度空いている可能性がある。友人たちにその旨を提案すると同意を得られたので、予約をすることにした。

 ボードゲームカフェとして有名なお店に、『JELLY JELLY CAFE』がある。都内に何店舗かあり、以前もその中の水道橋店を利用したことがあったので、今回も系列店を狙うことにした。

 『JELLY JELLY CAFE』のメリットの1つとして、ネットから予約をすることができる。今回もネットで予約ができるか探していたが、行きたい日時は埋まっている店が多い。正月は皆、煮込みすぎたお餅なのだ。なんとか池袋2号店が空いていたので、急いで予約を取った。

 

 当日、箱根駅伝に後ろ髪を惹かれつつ池袋へ向かう。食べ物が持ち込み自由なので、店舗への道すがらお菓子をいくつか購入する。ちなみに飲み物は持ち込み不可である。集合時間10分前に店の前に到着すると、既に友人の一人は来ていた。駅伝の話で少し盛り上がる。そうこうしているうちにもう1人やってきたが、残り1人が来ない。無情にも集合時間は過ぎ、無念の繰り上げスタートとなった。

 前払い式なので、受付時に料金を払う。三が日のため土日のデイタイム扱いとなり、2000円(1ドリンク付き)だった。最大5時間遊べるので、単純計算で1時間400円である。ドリンクはジンジャーエール(辛口)にした。つまり甘口も存在する。その他にもソフトドリンクが数種類とアルコールがあった。

 ドリンクはすぐ運ばれてきて、一口ジンジャエールを飲むと想像以上に辛くてむせてしまった。こんな味だったっけな。ちなみに、飲み物を置くコースター(?)が特徴的で、テーブルに強くくっついているため、腕が当たってもビクともしない。熱中しすぎてドリンクが手にあたり、大惨事ということも起こりにくい仕様になっているのだ。ちなみに、ジンジャエール(辛口)は瓶で運ばれてきたこともあり、コースターよりもかなり瓶が小さく、フィットしてはいないため少し気を付ける必要があった。

 

 最初はすぐ終わるゲームにしようということになり、『ストライク』というゲームを行った。
jellyjellycafe.com

 ざっくりとしたルールは、『手持ちのサイコロを場に振って、ゾロ目が揃うとサイコロを獲得。順番に振っていって最後までサイコロを持っていた人の勝利』である。詳しくは上記リンクを見てほしい。なお、この後もいくつかゲームが登場するが、詳しい説明はリンクを見たほうが早いので、ご了承願いたい。

 ゾロ目にならなければ何回もサイコロは増えるので、意外に獲得はしやすいが、その分手持ちが減る。しかも、サイコロの目に1つだけ×があり、それが出てしまうとゲームからそのサイコロは除外されてしまう。ぶつけるように投げて、美味いことゾロ目を作って場からサイコロを減らし、相手に得をさせないようにするのが肝になってくる。

 このゲームでは調子が良く、3戦2勝だった。1人バーサーカーがいたため、ちょくちょくサイコロを場外へ飛ばしていた。ちなみに場外へ飛んだサイコロもゲームから除外扱いとなる。このゲームは数分で終わるので、肩慣らしにはもってこいだった。

 

 次もサイコロを使った『ベガス』というゲームをプレイした。

jellyjellycafe.com

 順番に8つあるサイコロをすべて振り、賞金が配置された1-6までのパネルにサイコロを置いておく、出た目の数だけ置くことができる(例えば3の目が4個出た場合、3のパネルに4つサイコロを置ける。置かなかったサイコロを次のターンに振る)ので、ゾロ目になっているものが多いほど有利にはなる。しかし、相手と置いたサイコロの数が一緒の場合、そのプレイヤーたちは賞金を獲得できない。いかに高額配当のパネルにサイコロを置けるかという運と、漁夫の利を狙っていく戦略が重要なゲームである。

 このゲームも運よく勝つことができた。ついに私の時代が来たか(その後、時代は来ていなかったことが分かりました。悲しいですね)。今年の運をギュンギュン使っているような気分になる。

 

 次に『テストプレイなんてしてないよ 黒』をやった。Twitterなどで少し話題になっていたので、知っている方もいるかもしれない。

jellyjellycafe.com

 最初の手札は2枚で、自分のターンになったら山札からカードを1枚引いて、好きなカードを発動するのだが、バランスが崩壊している。じゃんけんをしたら死に、色を言ったら死に、サメに食われて死に、隕石が落ちてきて死ぬ。とにかくすぐ死んでしまう。順番が来る前に死ぬこともしばしばだ。理不尽な死に方に笑いが出てしまう。筒井康隆の小説みたいだ。

 下手すると1分で1ゲームが終了するので、手軽に行えるゲームである。ただし、ある程度気心の知れた人々とやるほうが楽しくなるだろう。初対面だと理不尽が面白さに変換されないかもしれない。

 

 もう少し重めのゲームをしようということになり、『カルカソンヌ』をプレイすることにした。 

jellyjellycafe.com

 道や建物が書かれたタイルをつなげていって得点を稼ぐゲームなのだが、相手プレイヤーに妨害されることもあるため、なかなか悪戦苦闘する。また、ただタイルをつなげるのではなく、ミープルというコマを置いて完成させないと得点はもらえない。しかもミープルは数に限り、得点が入らないと戻ってこないので置き方にも戦略が求められる。私は得点が高い修道院にミープルを置いた結果、誰も道をつないでくれず、結局ゲーム終了までミープルは戻ってこなかった。宗教に厳しい友人たちである。

 ちなみにこのゲーム、中盤・終盤と進むほどタイルが増えていく。小さいテーブルだとタイルが置ききれなくなるので、友達の家などでプレイするときは床でやったほうがいいかもしれない。

 このゲームは一番最初にプレイした『ストライク』でバーサーカーになった友人が得点を荒稼ぎして勝利した。私は最下位。戦略ゲーになった瞬間勝てなくなってきたぞ。

 

 次に『ドミニオン』をプレイした。

jellyjellycafe.com

 カードを購入して、自分のデッキを作りつつポイントを稼いでいくゲームなのだが。ポイントが手に入るカードは、最後の得点計算時しか役に立たない。また、購入したカードはすぐには使えない。自分のデッキの山札を全て使い切ってからデッキ内に入れることができる。さらに、毎ターン終了後に手札を全て捨てるため、手札の使い方もよく考える必要がある。

 最初はどのカードにどういう効果があるのか皆で確認しながらゲームを進めていたのだが、少しだけドミニオンを知っていた人がゲームを優位に進め始める。山札内に有用なカードが占める割合を増やして、どんどんデッキを回転させていくように構築していくと戦いを有利に進められる。私は気づくのが遅れたため、手札内に不要なカードがいくつもきてしまう場面が多々あった。終盤になってやっと戦い方が分かってきたがもう手遅れ、結局このゲームも最下位だった。

 

 次に少しベクトルを変えてパズル要素の強い『ブロックス』をプレイした。

jellyjellycafe.com

 自分の色のブロックを頂点のみ接するようにつなげていき、手持ちのブロックをできるだけ少なくしていくゲームである。4人が同じ盤面で繋げているので、途中で相手とぶつかって進路を塞がれることが出てくる。相手の動き方を予想してどんどん相手の動ける選択肢を減らしていき、なおかつ自分は大きいブロックを置けるように道を確保することが重要になってくる。使い切れなかったパズルのマス目がそのまま減点されるので、序盤はどんどん大きいブロックをつかっていきたいところだ。

 このゲームは少ないルールでじっくり頭を悩ませることができるので、ボードゲームをやってみたいけど、いろいろルールがあるものは覚えるのが……という方にも適していると思う。私は2位だった。初心者でもなんとかなるものである。

 

 まだ時間があったので、『ラビリンス』というゲームもプレイした。

jellyjellycafe.com

 配られたカードに書かれた宝物を全て取り、スタートに戻ってこれれば勝利である。自分のターンに余ったタイルを迷路に押し込み、ルートを変更して自分が目的地まで動けるようにしたり、逆に相手を妨害することができる。宝物に近づいたらパネルが押し出され、真反対の方向に押し出されることもある。以下に獲得したい宝物を悟られないようにしながら、相手のターンを利用しつつ目的地に進むことがカギになってくる。

 このゲームは途中までビリ争いだったのだが、宝物を集め終わったプレイヤーが戻るのに四苦八苦している間に出し抜き、1位になった。人生も同じようなものであり、出し抜く側と出し抜かれる側が存在する。

 

 少しだけ時間が余ったので、最後に『コヨーテ』をプレイした。

jellyjellycafe.com

 インディアンポーカーにダウトが混ざったようなゲームである。数字の書かれたカードをおでこの上に掲げ、相手のカードを見ながら場の合計値を予想していく。数字を一人ずつ宣言していくのだが、前の人が宣言した数よりも大きい数を言わなければならない。次のプレイヤーは場の合計値を超えたと判断したとき、「コヨーテ」と宣言することができる。場の合計値を超えていたら数字を言ったプレイヤーの負け、超えていなければコヨーテと言ったプレイヤーの負けになる。

 このゲームのポイントとして、特殊札が存在することが挙げられる。場の合計値が2倍になったり、場のカードで一番数字が大きいものを0として扱ったりするカードなど、折角の予想が水の泡と化すカードがおでこの上にあったとき、混乱は必至である。

 プレイ時間も短いため、手軽に楽しめるゲームだった。

 

 こうして5時間が過ぎ、お店を後にした。私たちは8つのゲームをプレイしたが、1つのゲームをじっくり何時間も行うのもいいのかもしれない。まあ、沢山のボードゲームがあるため、色々やってみたくなるのが人の性なのかもしれないが。

 

『JELLY JELLY CAFE』のサイトは、各店舗やゲームの紹介、ネット予約のページ、様々な紹介記事など結構充実しているので、興味のある方は見てみると楽しいと思う。

 友人と遊ぶ時の選択肢に、ボードゲームは結構良いですよ。ただし、あまり悪いプレーをしすぎると友情が崩壊してしまうので、楽しめる範囲で戦いましょう。

 

jellyjellycafe.com